第170話 始動・パンダ工房
ここは『オルガライドの街』の中央にある大広場。
ボクが毎日ガールハントに明け暮れていた思い出の地だ。
こんな言い方だとナンパ野郎と思われるかもしれないけど、ガールハントというのはそんな軽い気持ちでやるような甘いモノではない。
全身全霊を込めて場を支配し、お姉さん達に食い物を奢ってもらわなければならないのだ。
失敗は死あるのみ。
って、ボクはなぜガールハントの辛い思い出に浸っているのだ!?
今日はライガーさん達の様子を見に来たんじゃないか。
「クーヤ、あそこ!」
タマねえの指差す方向を見ると、4人家族っぽい人達と会話しているライガーさんの姿が見えた。おそらくお客さんだろう。
「よしリリカちゃん、ライガーさんの近くまで行くよ!」
「らいがーさん?あーーーーーっ!ぱんだこーぼー!!」
魔物のスタンピードがあった時に、お母さんとリリカちゃんはパンダ工房に避難していたので、ライガーさんとは面識があるのです。
あそこは筋骨隆々の職人揃いだけど、子供に優しい人ばかりなので、リリカちゃんはみんなに可愛がってもらっていたみたいですよ!
とててててててて
急いで駆けつけたんだけど、もうすでに4人家族のお客さんは馬車に乗り込んでいて、発車寸前という状態だった。
いや、馬車じゃなくて『パンダ車』でした。
馬の代わりにパンダ社長が車を引いて歩くのですよ!
「あれ?クーヤ達じゃないか!悪いがお客さんが中に乗ってるんで、ちょっと行って来る!」
「あいあいさーーー!パンダ社長も頑張ってねーーーーー!」
『ブモ!』
勇ましい返事をして出発したパンダ車だけど、その歩みは滅茶苦茶遅かった。
でもパンダ車ってのは、大広場周辺をぐるっと一周して帰って来るだけの乗り物なので、目立ちながらお客さんを楽しませればそれでいいのだ。
「みなさーん!『パンダ工房』の馬車はいかがでしょうか!最新式で全然揺れない、本当に凄い馬車なんですよ~」
「本日は試乗することも出来ますので、気になる方はこちらへどうぞーーー!」
元気ハツラツな声を出しているのは、もちろんラン姉ちゃん率いる営業班だ。みんな可愛いらしい制服を着ているので、めちゃめちゃ華やかですごく目立っている。
近くには見た目的にも高級そうな馬車が何台も置いてあって、ベイダーさんと数人の従業員がお客さんの対応をしていた。
「これは間違いなく売れまくる」
「うん。華やかさが桁違いだもん!今すぐ馬車が買えるような大金を持ってる人はいないだろうけど、パンダ工房に人が雪崩れ込んで来るかもね!」
「わああああああ~~~~~~~~!すごいすごーーーーーーーーーい!」
あっ!ここは街の中央だから、その辺でカードからお金を引き出して衝動買いしていく人も結構いるかもだね。テントがいくつか設置してあるので、そこで契約書を書いたりするのかな?
大広場の目立つ一等地を借りた時点で、パンダ工房は勝負に出たということだ。何日続けるのかは知らんけど、このパフォーマンスで馬車が売れないわけがない。
この日の為に、歯を食いしばりながら作りまくった馬車を、一斉放出する時が来たのですよ!
「お?クーヤじゃねえか。学園は・・・もう終わってる時間か!」
「やっぱ今日のイベントは見逃せないっしょ!」
「タマちゃんとリリカちゃんも見に来たんだね~」
レオナねえ、アイリスお姉ちゃん、ナナお姉ちゃんの三人も来ていたようだ。
「パンダ工房の大勝負の日なんだから、見逃せるわけないです!」
「いっぱい売れたらお金持ちだって言ってた」
「それは報告しないでいいです!いや、期待はしてますけど!」
「「わーーーーーっはっはっはっはっはっはっは!」」
『近々大金が手に入る』だと死亡フラグになるから、気を付けなきゃダメですよ?この世界の死亡フラグはマジで危険なのだ。
でも特許って、そこまで大金が入るわけじゃないんだよな~。
馬車一台でサスペンション4本使うにしても、せいぜい10万円ってとこだよね?
なのでボクに入って来る金額は、特許使用料が3%なら3000円、10%なら10000円って感じだと思う。よく分からないから、その辺の取り決めはライガーさんに丸投げしてるのだ。
でも何もしないでお金がポコポコ入って来るんだから、安かろうが全然問題無いっス!消耗品じゃないから、サスペンションじゃそこまで稼げないと思ってたし。
そういや、ハンバーグやメメトンカツの特許はどうしようかな?そっちで儲けたいなら、動き出すと同時に特許を取った方がいいような気もする。
しかしブームの火付け役にならんと絶対大損こくよな~。
あ~もう!よく分からんから商売とかホント嫌い!!コレも誰かに丸投げしよう!
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「みんなお疲れ様ーーーーーーーーーーーーーー!」
「「お疲れ様でした!!」」
夕方になり、さすがにもう十分だろうってことで、馬車の初売りは終了した。
何台売れたのかは聞いてないけど、少なくともそこに置いてあった馬車は全部無くなっている。おそらく予約も凄いことになっているのではないでしょうか?
「ねえねえラン姉ちゃん!何台くらい売れたの?」
ちょっと疲れた顔をしていたラン姉ちゃんだったが、ショタのその言葉を聞き不敵に笑った。
「1日で10台以上よ!それ以外にも、パンダ工房でゆっくり馬車を見てから買いたいって人が大勢いたわ!」
「「おおおおおおお~~~~~~~~~~~~~~~!!」」
馬車って新車並みの値段が付いたヤツとかもあったハズなのに、かなりの快挙なんじゃないの!?
「すごいすごい!馬車の性能もそうなんだけど、お姉ちゃん達とパンダ社長のおかげかもしれないね!」
ショタの一言に、孤児院出身の女の子達も笑顔になった。
「可愛い制服で揃えたのは大正解ね!お客さんに滅茶苦茶ナンパされたわ・・・」
「え?そんなにすごかったの?」
ラン姉ちゃんだけじゃなく、営業班全員がウンウン頷いている。
やっぱり可愛いは正義ですね!しかしそこまで効果があるとは・・・。
「何人もの女性客からどこで服を買ったのか聞かれたんで、しっかり『シェミール』の宣伝もしておいたわよ!」
「おーーーーーーーーーーーー!お客さんが押し寄せて来て、クリスお姉ちゃんも大変なことになりそうですね!でもきっと喜んでくれるよ!!」
こりゃあ革命が起きますよ?
もう手遅れかもしれないけど、帰ったらクリスお姉ちゃんに伝えよう。
・・・とまあ、そんな感じで馬車の初売りは大成功に終わりました!
これでパンダ工房の名は、一気にオルガライドに知れ渡ることでしょう。
あとは、変な揉め事が発生しないことを祈るしかないね。
場合によってはクーヤちゃん自ら出動して、キツいヤキをぶち込んでやりますぞ!
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