第163話 悪そうなハムちゃん

 次の日の夕方、メメトンカツを配達するため、ボクとタマねえとレオナねえは孤児院までやって来た。


 貧民街スラムは治安が悪いから、お母さんとリリカちゃんは家でお留守番です。


 タマねえも来る必要は無かったんだけど、悪そうなお兄さんにハムちゃんを渡すのを見たかったらしい。クーヤちゃんの護衛という使命もあるしね。


 そして院長先生とアンナ先生に、メメトンゼロの高級肉が手に入ったから、それを使った料理を孤児院のみんなにお裾分けしに来たことを伝えると、そりゃあもう大喜びでめちゃめちゃ感謝されました!


 まだ夕方だったけど、孤児院では全員が早寝早起きだから丁度いい時間だったみたいで、すぐに全員を集めて夕食にすることとなった。



「みなさーーーーーん!今日は此方のお三方が、私達の為にご馳走を作って持って来てくれました!なんとメメトンゼロの高級肉を使ったお料理です!」



「「わああああああああああああああ~~~~~~~~~!!」」



 大人達と一緒になって、皿の上に料理を盛り付けていった。


 当然ながら、その匂いにやられて、涎をダラダラ垂らす子供が続出です!

 でもみんな最後まで我慢して待っててくれました。


 小さな子供に、ソースをかけろと言ってもよくわからないと思ったので、今回は全員のメメトンカツゼロにソースをかけていく。



「これで準備完了です!!」



 それを聞いた子供達が目をキラキラさせ、期待しながら院長先生を見た。



「では、このお三方に心よりの感謝を!いただきます!」



「「いーーーーたーーーーだーーーーきーーーーます!!」」



 語尾を伸ばしまくる、可愛い『いただきます』だ!


 メメトンカツを口に入れた子供達全員が、パァ~っと満面の笑みになった。



「さて、今のうちに悪そうなお兄さんを探しに行こう!」

「もっと早く来ればよかったのに」

「夕食前のちょうど良い時間に来て、子供達に温かいメメトンカツを食べさせてあげたかったの。悪そうなお兄さんの用事は別に急いでないから、見つからなかったら明日でもいいし」

「あっ、そうか!やっぱりクーヤは優しい」


 ボク達の話を聞いていたレオナねえが話に入って来た。


「その悪そうなお兄さんって誰だ?」

「えーと・・・、ああ!この前ハムちゃんを捕まえに行く時に、ボクが東門で話をしてた人だよ!」

「東門?・・・あ~、そういや誰かと話してたな。どういう知り合いなんだ?」

貧民街スラムにある組織の偉い人だよ。前に怪我人の治療を頼んだことがあって、お友達になったのです!」

「ぶはッ!何でそんなヤバイのと友達になってんだよ!!」

「悪い人かもしれないけど、意外と良い人」

「どっちだよ!?つーか、タマとも知り合いだったのかよ!!」



 どっちなんだろな~。少なくともボクにとっては良い人だから、裏で何してようが知ったこっちゃないんですけどね。


 ガチャッ


 そんな話をしながら孤児院の外に出ると、1人の男が立っていた。



「ふぁっ!?いきなり悪そうなお兄さん発見です!何でここにいるの??」

「ガキ共が孤児院に入ったって情報を受け取ったんで、様子を見に来たんだよ!」

「いつの間にか尾行されていたッ!?」

「お前らの尾行はしていないが、前にグロスメビロスの連中と揉めたことがあっただろ?その関係で、孤児院に変なのが寄り付かないか見張りをさせていただけだ」


 陰ながら孤児院を守ってくれていたのか!

 やっぱり良い人じゃんね~。


「ありがとーーーーー!!流石は悪そうなお兄さん、頼りになるう!」

「孤児院に何かあったら、絶対お前らまた暴れるだろ?今ではウチが貧民街スラム最大の組織だからな、街の治安を守る必要があるんだよ」


 なるほど、そういうものなのね・・・。


 思えばタマねえと一緒に何回か暴れてるから、要注意人物としてマークされているような気がしません?それじゃあ素直に喜べませんよ!!


「ん?そっちの女は前にどこかで見たな。ああ、そういや姉貴だったか?」


 自分の話に移ったので、レオナねえが会話に参加した。


「クーヤの姉のレオナだ。弟が世話になっているようだが、悪いことに巻き込んだりしてねえよな?」

「逆だ!!いつも巻き込まれているのは俺の方だ!そこを勘違いすんなよ?」

「なんだって!?」


 レオナねえにジト目で見られたので、チワワのようなつぶらな瞳で見返した。


「そんな話はどうでもいいのです!!今日はね、悪そうなお兄さんにハムちゃんを貸してあげに来たの!」


 空気が悪くなったので、逆ギレした直後に一気に話を切り替える大技を繰り出す。


「ハムちゃんって何だ?」

「とりあえずボクのハムちゃんを見せるね!水色ハムちゃん召喚!」


 ボクの隣に、水色ストライプのハムちゃんが出現した。


「・・・・・・何だ?この可愛いのは」

「あれ?『アルペジーラ』見たことないの?」

「アルペジーラ?ああ、名前だけは聞いたことあるな。どこにでもいるような魔物じゃないだろこれ」

「そうなの?」

「アルペジーラの生息地は限られるぞ」


 すかさずレオナねえが教えてくれた。


 ならば気軽に場所を教えちゃダメですね!可愛くて有能なハムちゃんを、見ず知らずの人に乱獲とかされたらムカつくし。


「じゃあやっぱり希少な魔物なんだね!ちょっと悪そうな顔してるからって、乱獲しちゃダメだよ?」

「何失礼なこと言ってやがる!そもそも可愛いペットを集める趣味なんかねえ!」

「ボクがただ可愛いペットをわざわざ貸しに来たとでも?しょうがないなあ、ハムちゃんの凄さを教えてあげよう!国家機密だから小さな声で話すよ」

「何言ってんだ?こいつは」



 実際にハムちゃんに収納してもらいながら説明していると、悪そうなお兄さんの表情がどんどん真剣になっていった。



「マジで国家機密級じゃねえか・・・」

「ハムちゃんはめちゃめちゃ優秀なの!」

「そして可愛い」

「勘違いしてそうだから一応言っておくが、クーヤの召喚獣じゃなかったらここまで優秀じゃないからな?普通の召喚士がアルペジーラを使役した場合、おそらく収容できる量も、メメトンゼロ1体分あったのがアルペジーラ1体分くらいまで減る」


 レオナねえの話を聞いて、悪そうなお兄さんが少し考え込む。


「このガキの異常さはよく知っている。おそらくあンたの言う通りだろう。だが俺やあンたがアルペジーラを連れて歩いていれば、手に入れようとするテイマーが何人も現れるんじゃねえか?」


 今度はレオナねえが、あごに手を当てて考え込む。


「無理だな」

「なぜだ?」

「アルペジーラってのは集団で暮らしている魔物なんだが、侵入者の姿が見えた瞬間、ありとあらゆる魔法の一斉攻撃を仕掛けて来るんだよ」

「はあ!?」

「あの魔法攻撃を最後まで耐えきれるヤツなんて、ナナ以外に存在するとは思えねえ。魔法に耐えきれなきゃ、どんな優れた戦士だろうと死は免れない」

「ナナってのは?」

「アタシの仲間だ。クーヤが困るような事は絶対にしないから安心しろ」

「チッ、思考を読まれたか・・・。それなら俺がアルペジーラを連れて歩いても問題は無さそうだな」


 ナナお姉ちゃんってそんなに凄い人だったのか!!

 やっぱりボクの周りにいる人達って、めっちゃ強い人ばかりなんじゃ・・・。


「悪そうなお兄さんは、どんなハムちゃんがいいの?」

「容量と見た目重視だ。悪事に使うような真似は絶対にしないと誓おう」

「じゃあ容量が【2】ある子を3体ずつ出していくから、気に入った子をチェックしていってね!」


 一気に全部出すと、誰かに見られていたら騒ぎになってしまうからね。



 一通り見せた後、悪そうなお兄さんが選んだのは、紫色に黒の模様が入った、悪そうなハムちゃんだった。


 ご主人様に合わせて、名前を『悪そうなハムちゃん』に書き変える。

 こんな名前にしたけど、普通に素直で可愛いハムちゃんですからね!



「切れ味鋭い見た目のそいつを選んだのか・・・」

「便利とはいえ、あまり可愛いのを連れて歩くとナメられるかもしれんからな」

「でもその子の魔法は不明だよ?」

「構わん。荷運びが出来るってだけで、十分役に立ってくれるだろう」

「可愛がってあげてね!」

「もちろんだ!マジで便利な召喚獣を貸してもらって感謝するぞ!」



 これにてハムちゃんの受け渡しは完了です。

 みんな可愛がってもらえるといいね!

 

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