第162話 ラン姉ちゃん&ぺち子姉ちゃん

 孤児院の分のメメトンカツまで作っていたら結局夕方まで掛かってしまったので、ボク達もパンダ工房でいつもより少し早めの夕食を済ませ、孤児院に届けるのは明日ってことにして、ラン姉ちゃんとぺち子姉ちゃんを連れて家に帰って来た。


 ハムちゃんの不思議空間に入れておけば、まだ検証中だけど、しばらくの間は作り立てのアツアツなので、届けるのが次の日になっても全然問題無いのです。


 その帰り道に、ラン姉ちゃんとぺち子姉ちゃんによる恒例の大噴出を済ませ、大笑いしながら帰宅し、クリスお姉ちゃんとティアナ姉ちゃんにお土産のメメトンカツゼロを夕食に出してから、パンダ工房組と一緒にお風呂に入った。



 ブオーーーーー



 ぺち子姉ちゃんの尻尾をドライヤーで乾かしていると、ラン姉ちゃんが何か言いたそうな顔をしていた。


 気持ちいいお風呂で大満足のお姉ちゃん達だったけど、もう一つの効能に気付くのは、髪を乾かすこのタイミングだったりするのです。



「なんか今日のペチコって・・・、すごく毛並みが良くない?」

「うにゃっ?」


 ラン姉ちゃんがぺち子姉ちゃんの尻尾を手に取り、興味深そうにモフモフした。


「にょほーーーーーーー!!ランにゃん、尻尾をそんな風に触っちゃダメにゃ!」

「でもほら!すっごいフカフカよ!?」

「うにゅ??おーーーーー、ホントにゃ!!どうしてこうにゃったにゃ?」


 そうこうしている間に、姿見に映った自分を見たラン姉ちゃんが何かに気付き、今度は直に自分の肌に注目し始めた。


 しかし、その答えをココで言うわけにはいかないのですよ!


 問題なのはぺち子姉ちゃんの方。かなり迂闊なので、女神の湯の機密情報をうっかり漏らしてしまう可能性があるのです。


 なので追求される前にラン姉ちゃんだけ脱衣所の外に放出し、食卓にいたクリスお姉ちゃんに説明を頼んでから、ぺち子姉ちゃんのドライヤーを再開した。



 ブオーーーーー




 ◇




「久しぶりにお風呂に入るとすごく気持ちいいにゃね!これにゃら毎日入ってもいいにゃ!」


 みんなの視線がぺち子姉ちゃんに集中した。

 当然お肌はツヤツヤで、毛並みはフッカフカだ。


「そ、それは良かったわね!お風呂は毎日入らなきゃダメよ?そうすれば毛並みだってどんどん美しくなるんだから!」


 クリスお姉ちゃんにしっかり口止めされたようで、ラン姉ちゃんが誤魔化した。

 ぺち子姉ちゃんが余計なこと考える前に、こっちもダメ押しといきましょうかね!


「ハイハーイ!ぺち子姉ちゃんとラン姉ちゃんに良いお知らせがあります!ボクと仲の良い人限定で、1人につき1体ずつハムちゃんを貸し出すことになりました!」


 ワー パチパチパチパチ!


 すかさずノリのいい家族達から歓声が巻き起こる。


「ハムちゃん?・・・ああっ、その可愛い子ね!?でもペットを飼っていいのか、ウチの家族に聞いてみなくちゃわからないわ」


 ラン姉ちゃんの一言を聞き、レオナねえが立ち上がった。


「ハムちゃんをナメんなよ?ただの可愛いペットだと思ったら大間違いだぜ!」

「え?どういうこと?」

「じゃあ二人にハムちゃんの説明をします!静かに集中して聞いて下さい!」



 意味が分からず困惑するラン姉ちゃんとぺち子姉ちゃんに、ハムちゃんを連れて歩くメリットなどを丁寧に説明していく。


 そして話が終わる頃には、他のお姉ちゃん達のように二人とも目がキラキラしていた。



「ウチの家族が何と言おうが関係ないわ!こんな可愛くて便利なハムちゃんを、借りないわけないじゃない!!」

「こんにゃに小さいのに、荷運びが出来るにゃんてすごいにゃ!」


 小さいと言っても身長1メートルくらいありますけどね。

 立ち上がったらだけど。


「ラン姉ちゃんって戦闘は苦手?」

「雑魚ですけど何か?」

「ぷはっ、開き直ってますね!じゃあ攻撃魔法を使えるハムちゃんがいいと思う」

「でも荷物をいっぱい持てる方がいいわ」

「それなら、クリスお姉ちゃんのハムちゃんみたいな感じが良さそうだね!自衛のための攻撃魔法が使えて、容量が【2】ある子だよ」

「うん、それにする!ペチコはどうするの?」


 ぺち子姉ちゃんを見ると、目を閉じて唸っていた。


「めちゃめちゃ迷うにゃ!どうせにゃら荷物をいっぱい持てる方がいいに決まってるにゃが、どの魔法が良いのかにゃぁ~」

「ペチコって変な物を食べてよくお腹を壊してるわよね?毒消しの子がいいんじゃないかしら?」

「ハッ!?それにゃーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「たしかにカビの生えたパンとか、気付かずにムシャムシャ食べてそうですね!でも毒消しハムちゃんは容量が【1】だよ?」

「じゃあ却下にゃ。容量が【2】あるにゃら、もうどれでもいいにゃ」

「悩んでたくせに結局適当じゃないの!!」



 条件に当て嵌まるハムちゃんをリビングに何体か召喚すると、二人は好きな色や模様などをチェックしながら、一番お気に入りの子を選んだ。



 ラン姉ちゃんが選んだのは、黄色に赤の模様が入った、雷の魔法を使うビリビリハムちゃんだ。店員のお尻を触ってくるような、ハゲ散らかしたおっさんを撃退するのに使うらしい。


 ぺち子姉ちゃんが選んだのは、赤茶色で土魔法が得意なハムちゃんだ。ただ単に自分に似ているハムちゃんを選んだらしい。彼女は赤トラ模様なのです!


 なので、赤トラ模様ではないけど、赤トラハムちゃんって名前に変えた。



「二人とも、良いハムちゃんを選んだと思うよ!可愛がってあげてね!」

「もうすでに可愛すぎて、抱きつきたいくらいなんですけど!!」

「ん?もうその子はラン姉ちゃんの専属ハムちゃんなんだから、遠慮せずにペロペロしていいよ?」

「いや、口の中が毛だらけになるから!・・・でも抱きついてみようかな」



 ラン姉ちゃんが、ハムちゃんをそっと抱きしめた。



 もふもふ もふもふ もふもふ もふもふ

 もふもふ もふもふ もふもふ もふもふ



 うん。ああなったらもう、しばらく桃源郷から帰って来ませんね。

 ここからじゃ見えないけど、間違いなく人様にお見せ出来ない顔になってるハズ。



「同じ毛色の者同士、よろしくたのむにゃ!」


『チュウ!』



 ぺち子姉ちゃんの方はデレデレとした感じじゃなくて、どちらかと言えば友達みたいな雰囲気になっていた。


 なるほど・・・、自分に似ているハムちゃんを選択したのは正解だったのかも。

 何だかすごく相性ピッタリというか、最初からすごく打ち解けているのだ。



 さて、これで残すは悪そうなお兄さんだけだ。


 孤児院へのお届けには家族と一緒に行くので、どこかでコソッと抜け出さなきゃなりませんな。上手いこと出会えるといいんだけど・・・。

 

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