第143話 ペットを飼いたいと駄々を捏ねるⅡ

 メルドアによじ登り、そのふっかふかな毛並みにうっとりしているリリカちゃんはともかく、他のみんなはしばらく凍りついたままだった。



「えーとね、ボクの召喚獣だから絶対に悪いことしないの!だからトイレもしないし、毛が抜けたら消すだけでいいの」


 なんか前にも同じセリフを言ったような気もするけど、成功した実績のある説得ならば2回目だって上手くいくハズ!


「メルドア、人に怪我させるようなことしちゃダメだからね?」


『オン!』


「ほら、絶対しないって言ってる!」



 ガタン


 レオナねえが椅子から立ち上がり、メルドアの側まで歩いて来た。



「本物だ・・・・・・」



 一瞬手を伸ばしかけたレオナねえだったが、すぐ手を引っ込めて振り返った。



「ああ、飼う飼わない以前の問題でみんなは固まっているんだぞ?このメルドアジェンダってのはな、過去に何人もの高ランク冒険者が挑んでその全てが返り討ちにされて、街の住人全てが森へ入るのを禁じられたほど、他とは別格の魔物なんだ」


 レオナねえは、メルドアに関する記憶を思い出そうと顎に手を当てた。


「確か森の主は魔法を使うだろ?ガジェムを飛ばしたとしても、そう簡単に倒せるとは思えんのだが・・・」


 そういえばボクと戦った時、メルドアは魔法を使わなかったよな。苦手のガジェムが相手だったから負けたのかと思ったけど、何か他にも理由があるのかもしれない。



「ねえメルドア!ボクと戦った時、なんで魔法を使わなかったの?」


『オン!』


「ほうほう、ええええええええええ!?そんな状態だったのか!!」


 うっわ、実はめちゃめちゃラッキーだったんだな!


「何だって?」

「んーとねえ~、実はメルドアってボクが初めて戦った魔物なんだけど、ボクと戦う前に凄い強敵と戦ってたから、魔力がスッカラカンだったんだってさ!」

「森の主と互角にやり合うほどの強敵・・・、まだそんなのがいるのか!」

「でね、ガジェムは速すぎて見えないからすごく苦手な魔物で、そんな不運が重なってボクに負けちゃったみたい」


 すなわち、メルドアが万全な状態だったら余裕で瞬殺されてたってことですね!

 そりゃそうだよな。タマねえと二人で魔物の群れ相手に無双するほどだもん。


 ってか、本気を出したタマねえって森の主と互角くらいなのか・・・。

 こっちもおかしいよ!!


「母さん、森の主を飼おう。ヤバ過ぎて人には見せられないけど、コイツが家にいれば安心して街の見回りに行けるぜ!」

「そうねえ~。でも危険なのって2~3日くらいじゃないかしら~?」

「メルドアとタマねえはボクの護衛だから、ずっと家にはいないよ!」

「ぶっ!タマって護衛だったのかよ!!」

「うん。クーヤはタマが守る!」


 もうタマねえはボクにとってかけがえのない存在だ。

 特許のお金が入ったら、ちゃんと給料を払って、ずっと護衛をしてもらおう!


「私も賛成するわ。でもライガーさんが来たら腰を抜かしそうね!」

「モコピなんて心臓が止まっちゃうよ!見せる前にちゃんと言っとかなきゃ!」


 そういや、あのチンチクリンしばらく見てないな。

 騒動が落ち着いた頃、またウチに遊びに来るかもね~。


 何はともあれ、今日からメルドアも家族の一員となることが決定しました!

 メルドアもボクの専属SPだから、ずっと家には置いとかないけどね!




 ◇




 落ち着いた所で、全員が所定の位置に着いた。

 そう、アイテム召喚の時間です!



「メルドア、今からやる召喚はすごく眩しいけど驚かないでね!」


『オン!』



 パンダちゃんはすでに慣れっこだ。

 というか、まったくの無関心だから気にすることはない。



「スタンピードを生き抜いたボク達にご褒美を下さい!アイテム召喚!」



 ヴォン


『オン!?』



 室内に弾ける閃光に、メルドアといえど驚かずにいられるわけがなかった。


 しかしもう慣れっこのみんなは、クーヤちゃんの目の前に箱が出現しているのを見逃さず、期待に胸を膨らませる。



「箱キターーーーー!でも箱を見ただけで中身がわかってしまいましたーーー!」


「良い物が入ってるの?」

「今まで箱が出た時って、ほとんどが当たりだったよね!?」

「何かよくわからない絵が描かれてるわよ?」

「便利道具の方かしら~?」

「どうやら食い物って感じじゃねえな!」


「えーとね~、コレがちゃんと使えるなら大当たりだよ!」



 箱を開封し、中に新品のデジタルカメラが入っていることを確認。


 あまり詳しくないからよくわからんけど、見た感じだとおそらく最新式で、5万円~10万円前後で売ってるヤツだと思う。


 こういうハイテク製品を見ると、勝手にニヤケてしまうのはなぜなのか!?

 ・・・おっと、まずはストックしなきゃだな!


 えーと?記録メディアをそのままストックしてしまうと、やっぱ呼び出すたびに初期化されてしまうよな・・・。でもストックしなきゃどんどん劣化してしまう。


 うん、やっぱこのままストックした方がいいような気がする。


 出しっ放しにしておけば保存したデータも残るんだし、壊れて使えなくなるよりは、いつでも新品に戻せる方がいいよね?


 このデジタルカメラだけは、壊れるか無くなるかするまで消さないようにしよう。

 ・・・よし、ならば箱に入れたまま新品状態でストックだ!



「ストック!」


 召喚獣リストのバグった文字をデジタルカメラに書き変える。


「デジタルカメラ召喚!」


 無事召喚獣となったデジタルカメラが、再びショタの前に出現した。


「使い方を調べるからちょっと待ってて!」


 そして説明書を見ながら操作方法を覚える。



「よし、大体わかった!」



 見るとリリカちゃんがメルドアに乗っていたので、その可愛い姿を激写!


 カシャッ!


 何やってんだこいつ?って顔をしているレオナねえを、変顔で笑顔にして激写!


 カシャッ!


 そんな感じで一人一人の写真を撮ってから、最後に少し離れて全員をフレームに収め、タイマーを使って自分も輪の中に飛び込んで一枚撮った。


 カシャッ!



「できたーーーーー!みんな見てみて!!」



 ショタの周りに集まって来たみんなに、撮った写真を一枚ずつ液晶画面に表示させて披露していった。



「わああああああああ!中に家族のみんながいるよ!」

「あーーーーーーーーーっ!これってあのファッション雑誌のと一緒!!」

「まあ!これは本当にすごいわね~~~~~!!」

「メルドアとリリカだーーーーーーーーーーーーー!!」

「これタマ?」

「マジか・・・。この道具は、見た景色をそのまま記憶したというのか!?」



 地味にレオナねえの洞察力って凄くない?

 ボクの動きから真実を暴き出したりと、家族の中で一番の切れ者だよね。


 そして当然ながら、家族でカメラの奪い合いが始まったのだった。

 

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