第139話 北門に帰る
食事の後、帰ってからどう動いたらいいか、ボク達の行動によって変化するであろう数種類のパターンを全てタマねえに話した。
やはり『ドラゴンを倒して使役出来るようになった』と素直に報告するのが、一番危険なパターンだと思うんだよね。
ボクのことを知ってる人ならば、『さすがクーヤちゃん!』の一言で済むかもしれない。でも噂が貴族の元にまで届いてしまうと、子供を速やかに回収し洗脳して、政治や戦争の道具にしようとするだろう。兵士を大量に失った現状なら尚更だ。
家族から引き離されるとなれば当然ボクは拒否する。そうなると今度はボクの弱点となる家族に狙いを定め、脅して子供を差し出す方向に持っていくか、一家を崩壊させようとするか・・・。
悪い方へ考え過ぎかもしれないけど、例え家族の皆を優遇する方向に動いたとしても、そこにボクの求める幸せは無い。
貴族の醜い派閥争いに巻き込まれるのは確実で、常に監視され続ける息苦しい生活だ。ゆくゆくは貴族の娘と結婚ですか?そんなの冗談じゃねえ!
断固拒否して貴族がショタを手に入れられなくなった場合は、おそらくもっと酷い。今度はボクを殺しに掛かるだろう。
貴族の言うことを聞かない反抗的な平民を放置しておくほど甘くはない。
それを防ぐ為の選択肢として考えられるのは、貴族を皆殺しにするか街を逃げ出すかの二択といった所か。もうこの時点で家族の幸せを奪ってしまったようなものだ。
・・・貴族うんぬん抜きにしてもですよ?
全く接点のない街の人目線でリアルに考えると、アサルトライフルや核兵器を持った5歳児が近所に住んでいるようなもんなのだ。そんなの怖くて放っとけるわけない。
ボクが成年なら何の問題も無かったんだけどね。
『力』でどうとでもなりそうな見た目のショタなのがな~。
「クーヤすごい!未来を見てきたかのような完璧な読み!!」
「手に入れたのがドラゴンじゃなければ、もっと気楽だったんだけどね~」
「でも、街を救ったクーヤが誰からも評価されないのは悔しい」
「タマねえ、ボク一人じゃ絶対にドラゴンを倒せなかったよ。アイツを倒したのは『黄色と黒』です!」
「たしかにタマも一緒に戦ったけど・・・」
「ボクとしては、怪我をしてまで頑張ったタマねえが評価されないことが心苦しいよ。でもやっぱり家族に迷惑かけるわけにはいかないんだ。ごめんね」
「ううん、タマのことはどうでもいい。でも家族のみんなには言ってもいいんじゃない?」
「それはボクも考えたんだけど・・・。絶対言わないつもりでも、お酒の席なんかでついポロッと口を滑らせてしまうのが人間なんだよな~」
情報を知る人数が多ければ尚更ね。しかし情報が洩れるから言わないってのも、家族を信用してないってことだから冷たい気もするし、ホントどうしよう・・・。
「わかった。それによく考えたらここで長話してる場合じゃない。急いで街に帰らないと北門が心配」
「あっ、スタンピードはまだ終わってないのか!急がなきゃ!!」
「魔力は大丈夫?」
「メルドアに全力を出させることは出来ないけど、特別攻撃隊を出すだけなら大丈夫だと思う」
「魔物がいっぱいいるといいけど」
「・・・ん?ああそっか!減ってると街に向かったってことになるもんな。とにかくもうドラゴンはいないわけだし、戦う気のない魔物は放っといていいからね!」
「ん、わかってる!」
「トナカイ1号2号召喚!」
トナカイに跨った後、タマねえにドル箱を渡し、街の北門へと向かった。
特別攻撃隊の出番は魔物とエンカウントしてからだ!
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―――――レオナ視点―――――
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ」
「大丈夫レオナ?かなり魔物が減ってきたから、もう少しの辛抱よ!」
「問題ねえ!ほとんど返り血だ」
「レオナ!正面から『シャンクル』が2体!」
「ちッ、やっかいな!・・・・・・ん?何か乗ってねえか?」
まだ遠くてよく見えないけど、黄色い布と黒い布がチラホラと。
・・・ちょっと待て。黄色と黒?
「おい待て!アレに攻撃するな!クーヤとタマだ!!」
「はい??なんで正面からクーヤちゃんが来るのさ!?」
「みんな!あの『シャンクル』に攻撃しちゃダメ!子供が乗ってるの!!」
「なんだと!?」
「子供??」
そして数分後、目の前に現れたのはやはりクーヤとタマだった。
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―――――クーヤちゃん視点―――――
「やっぱりレオナねえだ!アイリスお姉ちゃんとナナお姉ちゃんもいる!」
「よかった!みんな生きてた!!」
北門の近くでは特別攻撃隊が使えないんで、最後の方は冒険者達の活躍を見てるしかなかったんだけど、みんな無事で本当に良かった!
「レオナねえーーーーーーーーーーー!!もう北から魔物は来ないよ!!」
「なにッ!それは本当か!?」
「俺達は勝ったのか!!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
ショタの報告に知らんおっさん達が反応して、雄叫びをあげた。
歓喜の渦の中にいるレオナねえに近寄って行く。
「ちょ、レオナねえ!血がすごい出てるよ!早く治療しなきゃ!!」
「ほとんど返り血だから大丈夫だ。だがスタンピードが終わったってんなら、早いとこ治療しなきゃだな!」
「クーヤちゃん?どうしてそっちから『シャンクル』に乗って現れたのかしら?」
「お姉ちゃん達に隠してること、いっぱいあるよね?」
返り血で真っ赤なレオナねえとアイリスお姉ちゃん達の疑惑の視線が、ショタにザクザクと突き刺さる。
「タマねえ、これ隠すの無理かも・・・」
「たぶんゴーレムとか召喚獣のこと全部バレてる」
「マジっすか!?」
ボクとタマねえは、魔物のいる方向から北門に帰って来たんだもんな。
なるほど。そりゃ怪しさ満点ですよ!!
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