第134話 名探偵レオナ

 時間は少し遡る。



 ―――――レオナ視点―――――




「・・・なんだこりゃ?」



 西区まで攻め込んで来た魔物は見つけ次第全て討伐し、そのまま街の中央の魔物を倒しながら貴族街へと入り、ようやく北門へと辿り着いたわけだが・・・。



「魔物同士が戦ってる??」

「門を塞いでるのって、もしかしてカロリーゼロじゃない!?」



 カロリーゼロだ。


 パンダ工房にいたペチコが、工房の入り口に立っているカロリーゼロを指差して『街の守護神にゃ!』とか言っていたが、本当に守護神だったのか。


 しかし人間に味方する魔物がいるなんて普通は考えられない。

 可能性があるとしたらそれは・・・。



「近くにテイマーがいないか?」

「テイマー?」

「え?このカロリーゼロってテイムされた魔物なの!?」

「野生の魔物が人間の街なんか守るかよ!考えられるとしたら名のあるテイマーの仕業だ。もしくは・・・」

「カロリーゼロのテイムに成功した人がいるなんて聞いたことがないよ!」

「そりゃあテイム出来る可能性が無いわけじゃないけどさ、こんな無機物みたいな魔物を一体どうやって服従させるの?」

「テイマーじゃないんだから知るかよ!でもそれしか考えられねえだろ!!」



 貴族街を北上して来る時、すでに街の中は魔物の死体だらけだった。

 アタシらの前に魔物と派手に戦った奴らがいるんだ!


 そのお陰でこうして無事に北門へと辿り着けた。


 だが此処に来て見たモノは、魔物と戦っている勇敢な冒険者達ではなく、魔物が魔物と戦っているという超常現象だ。正直意味が分からない。



 防壁の上を調べに行っていたナナが戻って来た。



「防壁の上には誰もいなかったよ。いるとしたら門の外?」

「テイマーが前線に出て戦うなんて有り得ないと思うんだけど!自分が死んだらどうすんのさ!?」

「それよりね!門の外は『ウォーレヴィア』まみれだったよ!」

「何で『ウォーレヴィア』が?移動速度とか死ぬほど遅いハズだけど」

「ん~~~、そういえばおかしいわね。アレも門を守ってたとか?」

「へーーーーー!障害物として使ってるのかな?すごく頭の良いテイマーだね!!


「・・・・・・・・・・・・・・・」



 しかしこのカロリーゼロから感じる雰囲気って、なんか可愛いというか、ほっとけないというか、とても身近な何かを連想させ・・・あっ!パンダだ!!



「もしかして、クーヤ・・・なのか?」



 二人が振り向いた。



「「クーヤちゃん!?」」



 そしてまた北門の方を見る。



「そういえば確かに可愛い何かを感じるような・・・」

「クーヤちゃんってテイマーだったっけ?」

「いや、クーヤは召喚士だ」

「え?じゃあこのカロリーゼロって召喚獣なの!?」

「それこそ不可能でしょ!!召喚士って魔物を単独で撃破しないと召喚獣には出来ないんだよ?小さな子供がどうやってこんなのを倒すのよ!」


「・・・でもクーヤだぞ?」



 その一言に説得力があったようで、二人は黙り込んだ。



 クーヤの意味不明さはご存じの通りだ。

 それにパンダ工房に寄った時、クーヤとタマだけがいなかったんだよ。


 あの二人が西門の防壁上から『北門が突破された』って情報を一早く伝えてくれたお陰で、街が大きな被害を受ける前にアタシらは北門まで到着することが出来た。



 ―――クーヤはその情報をどこから仕入れた?



 考えられることは一つ。召喚獣に偵察をさせていたんだ。


 アイテム召喚をしている姿は何度も見ていたが、さてはクーヤの奴・・・、家族に内緒で召喚獣を集めまくってやがったな!?


 おそらく魔物のスタンピードに備えて、一早く動いてたんだ。

 そしてタマもこの件に一枚絡んでやがるハズだ。



 これはみんなが避けている話だが、タマの職業はバーサーカーだ。



 ほとんどの子供は、この職業を祝福の儀で授かった瞬間に精神が破壊され、警護の兵士達によってその命を散らすことになる。


 しかしタマは最初の試練を乗り越えることに成功した。

 8歳にして、狂気の衝動を強靭な精神力で抑え込んだんだ。


 一歩間違えば魂が狂気に支配され、視界に入る全ての人間を惨殺して回るような非常に危険な職業。


 それを知った両親は、8歳になったばかりの娘を置いて何処かへと逃亡した。


 優しいじいちゃんばあちゃんのお陰で今も元気に暮らしてはいるが、学校でも恐れられて友達一人いなかったことだろう。


 だがクーヤは初めて出会った時に彼女の存在を受け入れた。


 バーサーカーの恐ろしさを知る前の年齢だったのが幸いしたとも言えるのだが、たぶんアイツはそれを知った所で態度を変えるような真似はしない。


 例え彼女の心が闇の底へ沈んだとしても、それを引き戻すことが出来るほどに信頼されているのはアタシから見ても明らかだ。


 そのことだけでも、クーヤが優しい心の持ち主だって証明になるだろう。


 とにかくそんな二人が組んだことで、カロリーゼロを召喚獣にすることが可能となったに違いない。一体何をやらかしたのかは想像もつかないけど、クーヤ一人じゃ街の外に出るだけでも困難だからな。



「あーーーーーーーーーーーーーーーっ!!カロリーゼロがやられた!!」



 なんだって!?まさかクーヤまでやられたんじゃねえだろうな!?


 ・・・いや、西門でタマは何かを投げて魔物に攻撃していたから、ここを守ってるならば防壁の上にいるハズだ。でも何となく別の場所にいるような気がする。少なくとも最前線で暴れるような戦い方はしないだろう。



「どうしよう!?私達三人で守るなんて無理だよ!!」

「いや待て!上手いことカロリーゼロの死体が門を塞いでるぞ!!あっ、もしかしてそれを想定して最終防衛線にカロリーゼロを配置したのか!?」


 こんなの5歳児の考えることじゃねーし!天才かよ!?


「でも召喚獣ってさ、倒されたら死体が消えなかった?」

「勝手に消えたような気がする・・・」

「1時間ほどで消滅するんだったかな?あんまり覚えてねーけど」


 拙いな・・・、三人で此処を守り切るなんて絶対無理だ。

 救援を呼びに一度戻った方がいいか。


「あーーーーーーーーーーーっ!向こうから援軍が来てるよ!!」


 ナナの指差す方向を見ると、冒険者の集団が駆け寄って来ている姿が見えた。


「やったあああああああああああああ!これで北門は何とかなるかもしれない!!」

「よっしゃーーーーーーーーーーーー!何としても此処を守り切るぞ!!」



 助かったぜクーヤ!!

 つっても本当にクーヤの仕業かどうかはわかんねーけど・・・。

 いや、間違いねーだろ!とにかく北門の守りはアタシらが引き継ぐぜ!!


 スタンピードが終わったら全部白状させてやっからな!!

 

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