第130話 そろそろ本気を出します(誰が?)

 今回はかなり重要なミッションなので、スズメちゃんだけじゃなくレンクル2体も偵察に飛ばしていたんだけど、たった今ドラゴンを見つけたとの報告を受けた。


 思ったよりも街の近くまで来ていたもよう・・・。


 危なかったーーー!

 そんな恐ろしいヤツまでが街を襲って来たら完全にアウトじゃん!!


 しかし今ならばまだ間に合う!


 何とか北に方向転換させるんだ。自分が囮となるのだから、しばらくこの街に帰って来ることは出来なくなるだろうけど、もうそれはしょうがない。



 タマねえ、巻き込んじゃってゴメンね・・・。



『グゴオオオオオオオオオオオオオ!!』


 ゴギッッ!!


『ギギャアアアアアアアアアアア!!』


 グシャッ!


『シャーーーーーーーーーーー!!』


 ドガガガガガガガ!!



 魔物同士の激突だから、聞こえるのは咆哮や唸り声や悲鳴ばかりで、自分も獣になったような気分だ。


 横にタマねえがいるから何とか正気を保っていられるけど、自分一人しかいなかったら野生化してしまいそうですよ・・・。


 しかし行く手を阻む魔物がうんざりするほど多いので、一瞬足りとも気が抜けないのだ。



「・・・ん?」



 なぜかメルドアがこっちにトコトコ歩いて来た。



『オン!』



 ちょっと待て。『本気を出してもいいか?』とか言ってるんですけど・・・。



「メルドアくん、もしかして今まで手加減して戦ってたの?」


『オン!』


 皆の見せ場を奪ってしまうのも忍びないので、周りに合わせて戦っていたらしい。


『オン!』


 それに本気を出すと魔力の消費が激しくなるから、ボクに負担がかかると思って遠慮してたようだ。


「メルドアは何て言ってるの?」

「え~とねえ、『本気を出してもいいか?』って言ってるの。魔力の消費が激しくなるから遠慮してたんだってさ!」


 タマねえの目が大きく開いた。


「許可してあげて!ここは一気に突破した方がいい場面!タマも本気出す!!」

「タマねえも手加減して戦ってたのか!!」


 何なの?この人達って・・・・・・。



「わかった!本気で戦っていいよ!必ず追いつくから二人で道を切り開いて!!」



 そう言った直後、メルドアの身体が白く光り、魔力に包まれたのがわかった。

 そしてタマねえは逆に黒いオーラの様なモノに包まれ、瞳が深紅に染まる。



「クーヤ!ライオンを3体呼び戻して守ってもらって。タマはここを離れるから」

「あい!絶対に無茶はしないでね!!」

「あんな魔物なんかに負けない!!」



 ドガーーーーーーーーーーーーーン!!



 二人の姿が消えたことに気付いたのは、前方から派手な破壊音が聞こえた後だった。



「嘘だろ・・・・・・」



 タマねえによるバールの一撃は、刃物でもないのに魔物を真っ二つにするほどの威力になっており、その動きもほとんど目で追えないという凄まじさだ。


 そしてそれはメルドアも同様で、すれ違った魔物は一瞬で細切れにされるという、理不尽極まりない存在へと進化していた。



「うわ、たしかに魔力の消費が激しいな。でもショタなめんな!どんだけアイテムをストックして魔力をオーバーフローさせたと思ってんだ!!」



 廃人覚悟で無茶しまくったクーヤちゃんの底力を見せてやるぜ!


 というか、ドラゴンを怒らせてからは逃げの一手だから、そんなに魔力を使わんと思うんだよね。重要なのは今この場面だろ!!


 ・・・おっと!ボヤボヤしてたら置いて行かれちゃう。


 ライオンを3体護衛として呼び戻し、自分はトナカイの背に乗った。




 ◇




『ガルルルルルルルル!』


 ジャキン! ジャキン!



「はあッッ!!」


 ドゴーーーーーーーーーーーン!



 メルドアとタマねえの活躍は圧倒的で、ほとんど二人で魔物を粉砕しながら前へ前へと進んで行く。


 ああ、その内の一人は人間じゃないから二人ってのはおかしいけど、まあいいや。


 とにかくその攻撃の凄まじさに、後ろにいる美味しそうな子供を諦めてまでも逃亡する魔物が続出したくらいだ。



 そしてドラゴンの居場所に近付くにつれ、次第に魔物の数も減っていった。




「ハアッ、ハアッ、ハアッ、うぐッ、うああアアァァァアアアアア!!」



 ん?この声って・・・。


 悲鳴・・・だよな?嘘だろ!?まさかタマねえに何かあったのか!!



「タマねえ!!」



 トナカイを近くまで走らせると、タマねえがしゃがみ込んでる姿が見えた。

 流血してるようには見えないけど、もし内臓をやられていたら拙いぞ!!


 トナカイから降りて、タマねえの側に駆け寄る。



「タマねえ!!一体何があったの!?」

「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ」



 ダメだ、苦しんでる理由が全然が分からない。

 おそらく流血はしてないと思うんだけど・・・。



「うわああああああああああああアアアアアアアァァァァッッッ!!」



 わからないけど、コレは危ないんじゃないの!?

 瞳が真っ赤なのと関係ある?もしかして無茶した副作用とかなのか?


 とにかくボクが何とかしないと!!



「タマねえ、落ち着いて!!ここまで来たらもう大丈夫だから!」



 タマねえを力いっぱい抱きしめた。



「元のタマねえに戻ってもいいんだよ。後はボクが何とかするから!」

「ウ、うぐッ、く、クーヤ・・・」

「タマねえとメルドアのおかげで魔物の群れを突破することが出来たんだ。後はもうドラゴンを遠くに連れて行くだけだよ!」

「ほ、本当、に?」

「うん!」



 その言葉の直後、深紅に染まっていたタマねえの瞳が、元の綺麗な黒色に戻った。



「あっ!瞳の色が元に戻った!!」



 ふーーーーーーっ、と長い息を吐いたタマねえに強く抱きしめられる。



「帰って来れた。さすがクーヤ」

「ん?帰って??」

「やっぱりバーサーカーの制御は難しいことが判明」



 バーサーカー!?



 確かそれって、漢字で『狂戦士』とか書くヤツだよな?

 タマねえってそんな危険な職業だったのか!!


 ・・・なるほど強いワケだ。


 おそらく『狂化』というとんでもないデメリットを抑え込むことに成功していたから、タマねえって大人しい性格なのにやたらと強かったんだな。


 謎は全て解けた!!



「もう本気を出すの禁止!!」

「エーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

「心が壊れちゃったら取り返しがつかないよ!もっと大人になったら理性を保つ良い方法が見つかるかもしれないんだから、少なくとも子供のうちは禁止!!」

「でもクーヤがいれば戻って来れるってわかったし」

「それって確実じゃないでしょ!とにかくしばらくの間は、ボクと一緒に心を鍛える特訓だからね!」

「クーヤと特訓!?それはすごく面白そう!わかった。もう本気は出さない」


 本当かなあ?

 宣言が軽すぎて、ぺち子姉ちゃんの言葉並みに嘘くさいんですけど!



『オン!』


「あ、メルドアが早く行こうって言ってる。魔力がもったいないからって」

「うん、タマはもう大丈夫。でも作戦は考えなくてもいいの?」

「召喚獣を突撃させて物をぶつけまくるだけだよ。んでドラゴンが怒ったら北の方へ全力で逃げる!乗り物は意外と足が速かったトナカイ2体にする予定」

「もうそこまで考えてたとは、さすがクーヤ!」

「いや、こんな作戦しか無いってだけです!最強の魔物が相手だし、とにかく何かやらないと街に行っちゃうんだから、あとはもう行き当たりばったりです!」

「命懸けなのに適当!さすがクーヤ!」



 だって『レイドボス』が相手なんだもの。

 絶対に力で勝てないヤツに挑むんだから、もう逃げ足で勝負するしかないっしょ!



「待ってろよドラゴン!絶対に逃げ切ってやるからな!!」

「すごく意味不明な挑戦状」



 ボクもそう思いました!

 

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