第129話 北門に向かって突き進め!

 『黄色と黒』率いる『特別攻撃隊』は、視界に入った魔物を全て撃破しながら北門に向かって突き進む。


 魔力の問題もあるので無駄な消費は出来ないから、一気に大量の召喚獣は出さずに、視界の隅に捉えた魔物はその都度控え選手を呼び出して撃破していく。



「うわっ!クソッ、前からも魔物が来やがった!」

「きゃああああああああああああああああああああああ!!」

「ヒイイイィィィィィィ!!やだ、ま、まだ死にたくない!!」



 魔物から逃げ惑っている人達が魔物に挟まれたと勘違いして悲鳴をあげるが、なぜか魔物同士で戦い始めた姿を見て、これ幸いにと安全な南へ向かって走り去る。



 ―――魔物の後ろを走っている二人の子供を助けようとする者などいない。



 まあいいんだけどさ。

 自分らのことでいっぱいいっぱいなのだろう。


 無理矢理安全地帯に連れ戻されるよりは、無関心でいてくれた方が逆に助かるし。


 しかし貴族ってのはやっぱこんなものか・・・。


 たとえ将来貴族になれるチャンスが訪れようとも、クーヤちゃんは絶対貴族になんかなってやらんからな!



『ガルルルルルルルルル!』

『グギァアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!』



 ゴシャッッッ!



 それにしても、こうして召喚獣達の本気の戦いを後ろから見ていると、メルドアの強さが際立っているのがわかる。


 ライオンが2体掛かりで倒している手強い魔物が相手でも、メルドアは単独で簡単に撃破しているのだ。


 強いのは知っていたけど、それでもボクは過小評価していたのかもしれない。


 おそらく『メルドア抜きの特別攻撃隊』とメルドアが戦ったら、最後に立っているのはメルドアの方だ。


 初めての戦闘でよくこんなの倒したなーって、しみじみ思うよ・・・。

 彼の天敵である『ガジェム』を手に入れていたのは、本当にラッキーだったな。


 そして更にヤバイのが、召喚獣が倒した手強い魔物をどんどんストックし、逆に味方として使役しているクーヤちゃんだ!


 召喚士って、条件さえ色々クリアすることが出来れば最強の職業なんじゃないか?

 自分の場合ものすごく特殊な事情があるから、参考にならんかもしれんけど。



 ガジェムの入手=無理

 メルドアの入手=無理

 召喚獣を何体も同時に使役することが出来る魔力=多くてもおそらく10体で限界



 うん。

 確変に突入出来たのって、たぶん自分だけだなこれ。


 生身の身体で魔物を撃破しても、今度は使役する為の魔力問題が発生する。魔法職でもなけりゃ、何か裏技でも使わん限り保有魔力ってのはそこまで増えないだろう。


 制限がキツイ職業の方が本来のポテンシャルが凄くて、デメリットの部分を克服さえすれば最強になれるんだよきっと。


 召喚士は条件がキツ過ぎるから考えものだけど、他にも不遇職と言われてる職業持ちの中に、デメリットを克服した凄い人物がいるのかもしれないね。



 ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン



 パチンコ玉で召喚獣の援護射撃をしているタマねえの横顔をじっと見つめる。



 ・・・絶対この娘、それに該当してるだろ?



 小学生にして大人顔負けのパワー。

 子供一人抱えて街を駆け回る驚異のスタミナと身体能力。


 どう考えたって普通じゃないと思うんだ・・・。



「なに?」

「タマねえって・・・、いや、そういうのは全部終わってからだ!」

「??」

「北門まであとどれくらい?」

「ん・・・、もう少し進めば見えると思う」

「もうそこまで来てたのか!よし、あと少し頑張ろう!」

「うん!」



 魔物との戦闘で傷ついた召喚獣は、一度消してまた呼び出せば元気になって何度でも戦うことが出来る。


 兵士なんかと違ってボクは戦力を消耗しない。

 召喚士の真の恐ろしさを思い知るがいい!



 ブブブブブブブ


 ターーーン!



 しかし魔力が尽きれば快進撃は止まる。

 ペース配分を間違うと本番まで持たないだろう。


「バール!」

「あい!」


 ゴギン!


 タマねえの一撃で、召喚獣の間をすり抜けて来たチーター風の魔物が力尽きた。



 一番怖いのはコレだ。

 不死身の召喚獣達を使役するショタこそが最大の弱点でもあるのですよ。


 でもボクには、専属SPでもある最終兵器少女のタマねえがついている。

 消費魔力にさえ気を付けて行動すれば、ドラゴンまで辿り着けるハズなんだ!


 しかもさっき大発見しました!


「ストック!」


 チーター風の魔物が目の前から消失する。

 すぐさま召喚獣リストを開き、名前を『チーター』に変えて戦場へと送り込む。



 ―――そう、チーターを倒したのはタマねえだ。



 しかし倒すのに使用した『バール』はボクが出した召喚獣なのですよ。

 すなわちタマねえが倒した魔物でも、クーヤちゃんが倒した判定になるのです!



「召喚獣の物はボクの物!タマねえの物もボクの物!」


「そう言われるとムカッとするけど、クーヤなら許す」

「ごめん、お約束なので言ってみただけです!すごく感謝してます!」



 激しい戦闘の中、そんな冗談を言ったりしながらもようやく北門に辿り着いた。



「よしみんな、少しの間北門を死守だ!タマねえはチョコ食べながら休んでて」



 タマねえに板チョコを渡した。



「おーーーチョコだ!これさえ食べれば体力全回復」

「チョコにそんな効能があったとは・・・。いや、無いから!!」



 ホウレン草を食ってパワーアップする、あのアニメキャラみたいやん!


 ・・・おっとそんなツッコミをいれてる場合ではなかった。

 各門を守るゴーレム達から戦況を聞いてみる。



「西門と東門は結構ギリギリか・・・。ほうほう、えっ?じゃあ南門はキミだけでも大丈夫?・・・なるほど、わかった。危なくなったら教えてね!」


「もしかしてゴーレムと話をしているの?」


「うん。東と西はまだ厳しい状況だけど、南門は攻撃がヌルいみたいだから、そこを守ってるゴーレムを2体こっちに呼んで、北門を守ってもらうことにする」


「ん・・・、兵士も冒険者もいないから3体は欲しくない?」


「たしかに。パンダ工房から1体連れて来るか・・・」


 あそこは最重要ポイントなんだけど、また北門を破られる方が本当の窮地に陥る可能性が高いだろう。目先のパンダ工房よりもまず北門を死守だ!


 でもゴーレム3体だけじゃちょっと苦しいか。



「あっ!森にいるゴリラくん達のことスッカリ忘れてた!」


「それだ!」



 ゴリラくんに話し掛けると、森はいつも通り『異常なし』とのこと。

 メルドアの代わりに森を守らせていたゴリラを3体とも北門に呼び寄せた。



「北門はキミ達に任せる!キツイと思うけど頑張ってね!その間にボク達はドラゴンを追っ払ってくるから!!」


『『ウホッ!!』』



 ゴーレム3体で北門を塞ぐように配置し、更にその周りをトレントで囲う。


 『トレント』ってのは木の召喚獣だ。この世界では名前が違うんだけど、どう見てもトレントだったからそんな名前を付けた。


 機動力は全然無いけど、タフでなかなか狂暴な魔物だぞ!


 とにかくトレントを大量に置くことで、疑似的に森を作り、遊撃隊のゴリラが樹々を上手く使って魔物を倒していく作戦だ。


 この布陣にはもう一つの狙いがある。


 北門のゴーレムが倒された時に判明したんだけど、召喚獣ってのは倒されても1時間くらいその場に死体が残るんだ。


 何でそんなことをしたのかというと、悔しかったから。

 倒したゴーレムはお前らが片付けろや!って意趣返し的な気持ちもあったんだ。


 今考えるとゴーレム達には可哀相なことをした。本当にごめんよ!


 とにかくこの布陣ならば、もし全滅したとしても入り口を塞ぐ壁となってくれるだろう。


 そしてその1時間で冒険者達が北門に到着すれば、防衛を引き継いでくれるさ!



 よし、これで北門の守りはバッチリです。

 あとはドラゴンのいる場所まで強行突破するだけだ!!

 

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