第12話 次に必要なのは・・・

 我が家に帰って来た。


 バタン


 寝室のドアを閉めて、ベッドに寝転がる。



 あ~、幸せ~~~。

 少し歩いたから胃の中の肉を消化出来たようで、もう全然苦しくない。


 危うく餓死するとこだったけど、ひよこポンチョのおかげで何とか窮地を脱することが出来た。

 あ・・・、肉のタレで服を汚したりしてないだろな!?


 ポンチョを脱いで、念入りに調べてみる。


 ふーーー、大丈夫だった。


 それにしてもこのひよこ、なんで眠そうな顔してるんだろ?

 普通ひよこってお目目パッチリだと思うんだけど、なぜかこのひよこは目がトロ~ンとしてるんだよね。



「・・・・・・」



 もしかしてコイツ・・・、あひるじゃね!?


 いや、あひるが眠そうな顔してるってのもただの偏見なんだけどさ、こうじっくり見てみると、あひるの方が近いような気がしてきた。


 どこかに商品名が書いてあれば判明するんだけどな・・・。

 う~む、どこにも書いてねえな。


 しかしコイツはもう、俺の中であひると認識してしまった。

 よし、お前は今から『あひるポンチョ』だ!今まで間違って呼んでごめんな~。


 まあとりあえず肉のタレで汚したりはしてなかったけど、ものすごく大事な武器だから大切に使わなきゃいけない。


 肉の匂いが付いたかもだし洗濯を、・・・あっ!

 そういやこの世界に来てから一度も風呂に入ってないぞ!


 こりゃあいかん!ショタがどれほど可愛くても、臭かったら全てが台無しだ。

 裏の小川で水浴びして来よう!あと着ている服の洗濯もせんとな。




 ◇




 身体を洗った後で服をゴシゴシ洗濯してたら、日が暮れて薄暗くなってきたので屋敷へと戻った。


 しかし替えの服が無いので、屋敷で見つけたバスタオルに包まっているんだけど、暖かい季節でホント良かったよ。今が何月なのかは知らんけどね。


 濡れた服やポンチョは、別の部屋で見つけたハンガーに掛けて乾かしている。

 明日の出陣する時間までに乾くといいんだけど・・・。



 とりあえず水と食料は何とかなった。いや、食料はその場しのぎなんで全然安心なんて出来ないんだけどさ。

 現状じゃ行き当たりばったり感満載だし、次のステップへと進むことにしよう。


 やはり大きな壁は言葉が通じないことだ。


 今日の感じから言って、愛嬌振りまきながら『あい!』ってセリフだけでも戦えなくはないけど、もう5歳なのに言葉が分からないってのは、アホの子だと思われるかもしれんのよね。


 というか、他人がどうこう以前に不便でしょうがない。


 言葉がわからないのを大勢に知られるのもちょっと嫌だから。専属の家庭教師みたいな人が欲しいとこだな・・・。


 いや、こんな危険極まりない家に来てくれる家庭教師なんて絶対いないだろうし、来てくれたとしても流れ弾で死なれては洒落にならん。


 やはりこちらから出向いた先で言葉を教わるしかないな。


 う~~~ん、近所のおばあちゃんが理想かな?そんな都合の良いおばあちゃんが見つかるかは知らんけど。

 まあ教師をやってくれるなら誰でもいいや。



 そんなことを布団の中でしばらく考えてたら、いつの間にか眠っていた。






 ************************************************************






「くそう、また真っ暗だ」



 いい加減、夜中に目覚めるってルーティンを変えなきゃいかんな。


 夜もう少し起きていられたら朝目覚めるようになるんだけど、どうもショタの身体は忍耐力が無い。っていうか、何もやることが無いのが悪い。


 今日の召喚で暇つぶしグッズとか出ないかな?

 テレビとか家庭用ゲーム機に出て来られても困るんだけどさ。


 だって、電気が無いんだもの!


 何が出るにしても、電化製品以外で頼みます!食い物も歓迎ですぞ!

 って、まだ召喚できるようになるまで時間があるんだった。


 しばらくゴロゴロしていよう。




 ◇




 明るくなってきたな。もうオッケーだろ!


 ベッドから降りて服を着ようと思ったら、まだ生乾きだった。

 仕方がないのでバスタオルのまま所定の位置に着く。



「電化製品以外でお願いします。・・・召喚!!」



 ショタの小っちゃなお手々の50㎝ほど先。


 その一点に力が収束して空間が歪む。そして召喚魔法が発動した瞬間、部屋は眩い光に包まれる。



「目がああああ!目がああああああああああ!!」



 ヴォン!



 光が雲散し、その役目を終えると同時に力場も消失する。



 やっと光が収まったか・・・。


 召喚魔法をやめるつもりはないけど、毎回この光に目がやられるのはキツイぞ!

 もう少し慣れたら目を瞑った方がいいかもしれんな。


 いや・・・、もし万が一危険な物が出て来た場合、目を瞑ってると大怪我をしてしまう可能性があるのか。

 うーむ、しばらくは様子見かな?目に悪すぎるからサングラスとか欲しいかも。



 ―――目の前には、細長い30㎝くらいの膨らんだ布があった。



「なんだこりゃ?」


 布っつーか、中に何か入ってるな?しかしオレンジ色の布なあ・・・。

 左側にボタンがあったので、それを外して中身を取り出してみる。



「リコーダーじゃん!!」



 いらねーーーーーーーーーーーー!一体誰のリコーダーが出て来たんだよ!?



[なまえ:田中]



「・・・・・・・・・田中って、どこの田中だよ!?」


 田中くんなのか田中さんなのか知らんけど、なんか悪いことしたな・・・。

 リコーダーが紛失したら、学校で騒ぎになってしまうじゃないか!


 とりあえず言えるのは、間違いなくこれは中古品だということ。

 しかし目の前にリコーダーがあると吹いてみたくなるな・・・。


 部屋の机の中からハンカチを持って来て、全体をさっと拭いた。



 プーーーーーピーーーーー



 一応鳴る。


 そういやさっき暇つぶしグッズが欲しいとは考えたけど、田中くんのリコーダーとか出ても全然嬉しくねえぞ!


 田中さんじゃなくて田中くんにした理由は、自分で書いたであろう『田中』って文字がデカくて汚かったから。これはたぶん正解だろう。


 うーむ・・・。


 どうせ服が乾くまでお出掛けも無理だし、リコーダーの練習でもすっか。

 俺は田中くんを超えてみせる!



 なぜか練習に熱が入ってしまい、気付いた時には服が完全に乾いていた。

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