第11話 ショタを極めろ!

 計画を必ず成功させるため、勇気を振り絞り、命を賭けて、大広間にあった鏡を寝室まで持って来た。



 言葉を話せない俺が唯一出来ること。それは可愛さを極めることだ!


 見た目はすでにパーフェクトなんだけど、中の人がショタの素人なわけですよ。

 俺はこの可愛さを使いこなさなければならない!


 目指すのは、思わず抱きしめてしまうほどの可愛らしさ。


 絶対に知性を相手に悟らせてはならない。

 何を考えてるのかわからない子供なんて気持ち悪いだけだからな。


 天真爛漫で無邪気なショタを完璧に演じきるのだ。

 生きる為に、俺はプライドを全部捨てるぞ!


 計画的に可愛さを身に付けるとか・・・、まあこれが『あざとい』ってヤツなんだろうけどさ、俺の場合は命を賭けた『あざとさ』なんだ。誰にも文句は言わせない!



 異世界で生き抜く為に、俺はショタを極める!!




 ◇




 にぱーっと笑顔になったあと、両手を広げてピョンピョン飛び跳ねる。



 よし、完璧だ・・・。



 やってて悲しくなって来るけど、これを一連の流れで出せなければショタとしては二流だ。

 例えいらない物を貰っても全力で喜べ!無反応が一番相手を傷つけると知れ!


 そして最も重要なのは、喜怒哀楽を大胆に表現することだ。


 怒る時はプンプンに怒れ!悲しい時は大泣きしろ!

 周りの人はショタの一挙一動を見ているぞ!!




 ◇




 ふ~~~、そろそろ昼くらいだろうか?


 戦いの準備は整った。とうとう街へ繰り出す時が来たのだ!


 ひよこポンチョは着ている。

 手提げ鞄も持った。石鹸も入ってる。


 そうそう、この部屋にある机の引き出しに、新品の石鹸が大量に入っていたのだ。


 食い物をくれた人にお返しでこれを渡せば、次回また奢ってもらえるかもしれんからな。それに施しではなく物々交換ならば、ショタの心も痛まない。



 ・・・よし、出発だ!!



 一度や二度の失敗で諦めるな。何か食えるまで今日はひたすら粘るぞ!






 ************************************************************






 みんなこっちを見ている。



 てくてくてくてく



 黄色いひよこポンチョを着たショタが歩いてるんだ。そりゃ見るよね。

 ただ、男性よりも女性の熱い視線を感じるのは気のせいではないだろう。


 堪えろ!逃げちゃダメだ。


 恥ずかしさで赤面してる場合ではない。この注目こそが勝利への道筋。

 落ち着け・・・、必ずチャンスは来る!



 あっ!露店がみえたぞ!!



 いやまだだ、この辺の露店はアクセサリーだったハズ。

 目的地はもっと先にある!



 てくてくてくてく



 串焼きの匂いで気を失いそうになる。


 でもまだだ!この先にある広場まで行けばベンチがいくつか設置してあって、そこには人も大勢いるのだ。そして食い物屋もいっぱいだ!



 てくてくてくてく




 ―――広場に到着した。




 とうとうここまで来てしまったか・・・・・・。


 いや、弱気になるな!どれだけ練習したと思ってる!?

 俺ならやれる。受け身になるな!勝つまで攻め続けろ!



 いくぞ、戦闘開始だ!!



 辺りを見渡すと、20歳くらいと思われる女性二人組がベンチに座って会話をしているのを発見した。


 ・・・どうだろう?いけるかな!?


 まるでナンパをしに行くような感じだけど、俺にそんな度胸など無い。

 これは生死を賭けた戦いなのだ!聖戦なのだ!!



 とてててててててて


「よいしょ」


 ベンチで会話をしているお姉さん達の隣にピョンと座った。



 お姉さん方が会話をやめて、こちらをじっと見ている。


 やっべえ、ドキドキする。とてもじゃないが視線を合わせられない。



「「$¥ア@セ&=イ~~~!!」」


「#%rイ+ェ¥qセ?」


 何言ってるのかさっぱりわからないけど、いきなり食いついて来たぞ!!

 落ち着け、大丈夫だ。練習通りに動けばきっと上手くいく!


 お姉さん達の顔を見て、にぱーっと笑顔を見せた。


「「$¥ア@セ&=イ~~~!!」」


 なんか『かわいい~~~!!』って言ってるような気がする。

 二人ともめっちゃ笑顔だし、チャンス到来だぞ!!


 キョロキョロと周囲を見渡す。


「わあ~~~~~~~~~!!」


 とてててててててて


 すぐ近くの串焼き屋さんの前まで走って行き、串焼きをジーーーッと見つめる。

 頼む、お姉さん達!追いかけて来てください!!


 ドドドドドドドドドドドド!


 お姉さん達が来たと思った瞬間、露店のおっちゃんから串焼きを買い出した。



 釣れましたーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!



 い、一撃だと!?

 嘘だろう?えええええ?こんな上手くいって良いの!?


 お姉さん達から串焼きを1本ずつ渡され、両手に串焼きを持ったまま、さっきのベンチまで連れて行かれた。



 お姉さん達の優しさに笑顔で答えると、なぜか赤い髪のお姉さんの膝の上に抱えられる。

 どうやらここで食べなければいけないらしい。


 と、とにかく食べよう!もう空腹の限界なのだ。



 パクッ



 ・・・・・・死ぬほどうめえ。


 何の肉かはわかんないけど、とにかくタレがめっちゃ美味い!

 思わず涙が零れそうになったけど、ここで泣くわけにはいかない。


 この場でショタに求められているのは涙ではなく、美味しそうに食べる愛くるしさなのだ!


 赤い髪のお姉さんの顔を見上げて、にぱーっと笑顔を見せる。


「「$¥ア@セ&=イ~~~!!」」


 うん、超絶にあざといっス。


 でもこの乱世を生き抜くには、愛嬌を振りまくしかないのですよ。

 少なくとも自力で食っていけるようになるまでは、ショタの可愛らしさをフル活用していくしかないんだ。


 串焼きを一本食べ終わると、今度は青い髪のお姉さんの膝の上に抱えられた。


 ショタのコンパクトボディーでは、串焼き一本でもう結構お腹いっぱいなんだけど、この展開だと全部食べきるしかないよね。



 串焼きを食べ終わると、赤い髪のお姉さんが串を捨てに行ってくれた。


 しかし食べ過ぎてお腹が苦しい。

 これならもう、夕食は何も食べなくても大丈夫だな。


 ふにょん


 ん?


 ・・・・・・大変なことに気付きました!


 膝の上に抱えられてるから、後頭部にお姉さんのおっぱいが当たってます!!

 食べるのに夢中で気付いてなかったけど、実はこんな状況だったとは・・・。


 しかしなんだこの突然の幸せラッシュは!?


 ショタすげーーーーーーーー!ずっと苦労の連続だったけど、本来のポテンシャルはこんなに凄かったのか・・・。やっぱ家に閉じ篭ってちゃダメだね。



 それからしばらくお姉さん達のマスコットキャラになっていたけど、二人はこのあと用事があったみたいで、泣く泣く解放されることとなった。


 そして、お別れの時に石鹸を渡したら大変喜ばれた。


 ふ~~~、食った後が長かったけど、ようやく生きる術ってヤツを見つけたよ。

 そろそろ屋敷に帰るとしますかね・・・。

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