第10話 二度目の召喚

 頭の中をハンバーグだけで埋め尽くし、他のすべてをシャットアウトする。



「ハンバーーーーーーーーーーグ!!」



 ・・・まだダメなのか!?


 ちなみにこれはあの芸人のモノマネじゃないぞ。俺のは魂の叫びなのです!!



 時計が無いから何とも言えんけど、たぶんもう昼は過ぎてると思うんだよね。

 俺の腹時計は完全にぶっ壊れてるから使い物にならんけど。


 しかし魔力を数値で見ることが出来れば、すごく楽なんだけどなあ。


 そもそも魔力なんて存在するのかもわからん世界出身だからなのか、残量がどれくらいなのかまったく感じられないのよ。


 俺はまだこの世界に降り立って2日目のルーキーだからな~。

 何年も暮らしてりゃ、少しは体感出来るようになるのだろう。


 電子レンジを見る。


「あっ!」


 ベッドの上でハンバーグなんて召喚したら、布団を汚してしまうじゃないか!

 それに電子レンジも置いたまんまだから、寝る時に絶対邪魔くさい。


 あぶないあぶない!召喚はベッドから降りてやった方がいいな。

 電子レンジも部屋の隅に運ぼう。



「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!!」



 それほど大きくない電子レンジなのに、ショタには重いぞ!!


 ベッドから降ろす時に落としかけたけど、何とか隅っこまで移動させた。



「ってかこの電子レンジって、俺の家にあったヤツじゃないよな?」


 一体誰の電子レンジなんだろ?

 新品って思えるほど綺麗なんで、これはまだ未使用だった可能性がある。


 もしあの時電子レンジを思い浮かべていたとしても、新品を思い浮かべるかねえ?

 まあ、召喚魔法を使うと新品状態になる可能性もあるけどさ。


 うーーーーーむ。


 とにかく次の召喚に成功すりゃ、何かしら判明するだろ。




 ◇




 夜になった。



「ふざけんな!いつになったら魔力回復するんだよ!?」



 結局口に入れた物は水だけだ。

 もう腹が減りすぎて、その辺の草とかを毟って食べたいくらい追い込まれてる。



 ・・・思えば召喚に成功した時間って深夜だったよな?

 ってことは、深夜になれば丸一日経過したってことで、ワンチャンあるんでね?

 正直もう、そこに賭けるしかないような気がする。


 もしダメだったら、街中に行って食料を盗むしかないのかもしれない。

 折角異世界に転生したのに悪事を働くのは非常に不本意ではあるけど、このままじゃマジで餓死しちまう。


 裏山で草食動物になる手もあるけど、絶対腹壊して悲惨なことになると思うし。


 あっ!?そうか!まだ山で木の実や果物を探したりしてないのか。


 ・・・今思うと、俺は甘えてたんだな。

 ショタの姿じゃ何も出来ないって、自分そのものを過小評価していたんだ。


 こういう時は野生に活路を見出すもんだろ!

 もう明日は朝から森に特攻だ!野生動物も狙撃も怖いのは一緒だ!!



 あーーー、やっと吹っ切れたわ。

 目が覚めたら召喚は試してみるけど、ダメなら野生児で再出発だ。


 起きてても辛いだけだからもう寝る!



「おやすみ!」






 ************************************************************






 真っ暗だ。


 やはり早く寝すぎるとこのパターンになっちまう。



 ホワ~~~ン



 ランプの光は柔らかく、俺のささくれた心を癒してくれる。

 じゃあ早速召喚してみるか?


 あ、まだちょっと早いか。確か昨夜は1時間くらいボーっとしてから、ブチ切れたハズだ。

 もう少し布団の中で微睡んでいよう。




 ◇




 さーて、戦闘開始だ・・・。


 念の為に体感で2時間近くゴロゴロしてたから、召喚から丸一日経ったと思う。

 もっと明るくなるまで待った方が確実だけど、今すぐ試したいのよね。


 おっと、場所移動せんと。


 ランプもあっちに持って行こう。



 精神を集中し、頭の中をハンバーグで埋め尽くす。


 つい皿の上に乗ったハンバーグを思い浮かべてしまうけど、皿だけが出たんじゃ台無しだ。イメージから皿を排除して、ハンバーグのみに焦点を合わせる。



「ハンバーグ、出て来いや!!」



 目の前の空間が歪み、眩い光に包まれる。



「来たッッッ!!」



 光の中に何かが出現しているのが見えた。

 そして役目を終えた光が消失する。



 ヴォン!



 そこには俺が待ち望んでいたハンバーグが!・・・ハン・・・、絶対これハンバーグじゃねえよ!!


 ランプの光でちょっとわかりにくいけど、黄色い布??


 召喚する時に、あの元プロレスラーみたいな掛け声を発してしまったから、入場する時に着ているガウンが出て来たとかじゃないだろな!?


 あ、でも布の中央に動物の顔みたいなのがあるような・・・。


 え?ひよこ!?

 マジで意味がわからん。何なんだこりゃ?



 ひよこの頭を持ち上げてみる。



 なんかくちばしの下に大きな穴が開いてるんだけど、これってココから顔を出すんじゃないのか?


 着ぐるみ??いや、しかし着ぐるみにしては下半身が無いよなあ。



「あーーーーーっ!!」



 わかった!これはポンチョだ!!

 たぶん親が子供に着せたりして、可愛さを倍増させるグッズだ。



 しかし何でコレが出た??



 ・・・もしかして俺の召喚魔法は、日本の物をランダムで呼び寄せるんじゃないのか?ハンバーグを思い浮かべていたのにポンチョとか、まったく繋がりがねーもん。


 電子レンジの次に出たのがポンチョだからな、こりゃランダム説が濃厚だろう。


 はあ・・・。

 ランダムじゃ食い物なんて期待できねえよ。


 もう明日からは野生児の誕生だ。

 折角だからひよこポンチョを着て野山を駆け巡るか?

 なんだよ、その可愛い野生児は!!



 ・・・・・・ん?



 待てよ?・・・もしかするとこれは使えるかもしれない。


 露店で肉を焼いてるおっちゃんの前で、可愛いひよこショタが串焼きを物欲しそうにジーーーっと見つめていたとする。


 一本あげたくならんか?

 だって、ひよこショタが見てるんだぞ?


 普通の質素な服を着た子供じゃ『なんだ、スラムのガキか』って思われて無視されるのが関の山だけど、それがひよこショタならば話は変わってくる。


 母親とはぐれてしまった、裕福な家の子供。


 それが優しいおっちゃんじゃなかったとしても、商売人ならば『優しくしておけば何か見返りがあるかもしれない』と考える可能性だってある。



 ・・・なんか、いけそうな気がしてきたぞ。


 たとえおっちゃんに無視されようとも、通りすがりのお姉さんとかが奢ってくれる可能性だってあるんだ。




 ―――希望がみえた。



 

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