第9話 水をください

 夜が明けた。



 パカッ


 うん。やはりコイツはどう見ても電子レンジだ。



 深夜に目が覚めて、あまりの空腹に怒りの頂点まで達した俺は、とうとう召喚魔法を炸裂させたのだ。


 パカッ


 しかしまさか召喚士が、異世界からアイテムを呼び寄せる職業だったとは夢にも思わなかったな。


 パカッ


 でもさ・・・、俺が強く願ったのは食い物だったよね?



 パカッ



「なんで電子レンジなんだよ!!」



 パシーーーン!



 お前が活躍する場面って食い物ありきだろ!まずその前に食い物がねえんだよ!


 ・・・それにだな。


 ―――電源ケーブルを引っ張った。


 この部屋にコンセントなんてモノはねえ!!

 異世界に家電なんてのは無用の長物だろ・・・。こんなんどうやって使えと?



 ・・・いや待て、俺は召喚士だ。

 もしかすると何度でも召喚できるんじゃないのか?



 でも何で電子レンジが出たんだろう?

 あの時は絶対そんなの思い浮かべてない。


 ジャンクフードとか寿司とかラーメンとか、頭の中は食い物で埋め尽くされていたハズなんだ。レンジでチンする場面までは行ってない。


 でも頭の片隅にコイツがいたのかなあ?絶対思い浮かべてない自信あるんだけど、実際に出て来たわけだから可能性はゼロじゃないか・・・。


 よし!次の召喚では一つの食い物だけを強く思い浮かべよう。

 何にすっかな~、こんだけ腹が減ってると正直何でもいいんだけど。


 決めた、ハンバーグにしよう!



 ―――頭の中をハンバーグで埋め尽くす。



「ハンバーグ出て来い!!」



 ・・・・・・・・・・・・。



「ハンバーグ召喚!!」



 ・・・・・・。



「ハン」


 ダメだ、一体何がいけないんだろ?

 そういや電子レンジを召喚した後に力が抜けて、いつの間にか眠ってたんだよな。


 もしかしてMPが無くなったのか!?いや、ステータス画面にMPなんて項目は無かったから魔力って言えばいいのかな?


 そうだ!ステータス画面を見てみよう。何か項目が増えたかもしれん!

 ・・・えーと、どうやって見るんだっけ?


 確かあの時は召喚獣を、おっ!?



 名前:クーヤ

 職業:召喚士


【召喚獣リスト】


 ・なし



 出たーーー!そして変わってねーーーーー!!


 何で召喚獣リストに電子レンジいねえんだよ!?いや、まあ、あんまり獣っぽくはないけどさ。そしてやっぱりMPとか魔力とかの残量は見れないのな。


 しかしこうして見ると、やっぱ召喚士って召喚獣を呼び出して使役する職業だよな?何で俺は電子レンジを召喚出来たんだ?



 ・・・どうもあの現象はイレギュラーな気がするなあ。


 神様とはいえあのファンキー野郎が、『大当たり特典だから異世界から何か召喚出来るようにしよう!』なんて甘い設定にするとはとても思えん。

 連絡するとか言っといて完全に忘れてるような、正真正銘のクソ野郎だからな。


 そして現在召喚ができない理由は、たぶん魔力不足なんだと思う。

 異世界から物を呼び寄せるんだから、そりゃもちろん魔力もいっぱい使うでしょ。むしろショタが行使出来たのが奇跡なのではなかろうか?


 う~ん、魔力ってどれくらい待てば完全回復するんだろなあ?

 もうこの異世界召喚だけが頼みの綱なんだし、今日はこれに集中すっかな・・・。


 いや、その前に水だ!俺は喉がカラッカラなんだよ!




 ―――大広間のドアの前まで来た。



 ・・・嫌だなあ。この屋敷最大の狙撃ポイントになんて入りたくない。


 入ったら死ぬかもしれない部屋だぞ?こんなん足も竦むって!


 うん、この部屋に入るのは最終手段だ!

 まずは屋敷の周辺を探索しよう。井戸とか見つかるかもしれんし。




 ◇




 屋敷の外に出て庭をざっと見渡したんだけど、なんといきなり井戸らしき物を発見しました!



 とてててててててて



「・・・・・・井戸って、どうやって使うんだっけ?」



 四角く切った感じの石が50cmくらい上に飛び出ていて、約1メートル幅の穴が地底深くまで掘ってあるから、間違いなくこれが井戸だとは思うんだけど・・・。


 たしか井戸ってさ、ロープか何かの先に桶が付いてて、それを引っ張り上げると中に水が入ってる感じだったよな?

 そうだよ!確か井戸ってのは、上に屋根があって滑車が付いてたハズ。


 しかし目の前にあるコイツは、地の底まで落ちる危険性のあるただの穴だ。


 屋根は?滑車は?桶は?



「これじゃ、ただの落とし穴じゃねえか!!」



 クソがーーーーーーーーーー!!どうもこの屋敷は全力で俺を殺しに来てるな。

 こんなの井戸じゃねえわ!水が飲めるようになるまで、やること多すぎだわ!


 それにこの状態だと、中に何が落ちてても不思議じゃない状態だ。

 下手したら死体とかが沈んでる可能性すらある。


 ダメだ。却下だ。この奈落の穴に希望は無い。


 ・・・しょうがない、別の何かを探そう。

 バケツに水が溜まってたら、もうそれを飲む!


 野良猫だって水溜まりをペロペロしてるんだ。死にはせんだろ。



 とりあえず屋敷の周りを調べてみることにした。




 ◇




 ・・・ん!?水の音がしないか?



 屋敷の裏手に来た時、ショタイヤー は水の流れる音を捉えた。

 (※ 半径10M以内の音ならたぶん聞き逃さない)


 そして音の方へ近寄って行くと、そこには小川が流れていた。


 川は浅くて水の流れも緩やかなんだけど、川底の石がハッキリ見えるから、すごく綺麗な水に見える。とりあえず泳いでる魚は見当たらないな。



「っしゃあああああああああああああああ!!」



 バシャッ!



 小川に飛び込み、手をゴシゴシ洗ってから両手で水を掬った。


 あれ?そういや沢の水って飲んだらヤバイとか聞いたことあるぞ。

 菌があって腹を壊すだとかエキノコックスだとか。


 ・・・一度沸騰させてから飲んだ方がいいのかな?


 しかし ショタアイ は、とても綺麗な水だと言っている。

 (※ つぶらな瞳。かわいい)



 知らんわ!!

 腹を壊したら、またその時考えればいい。俺は断固水を飲む!!



 ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ



 プハーーーーーーーーーーッ!



「死ぬほどうめええええええええええええええ!!」



 日本の水道水なんてお話にならねーよ!

 この水ならば、お金を払ってでも買う価値あるね!



 腹が減りすぎていたのもあって、そりゃあもう限界まで水を飲んだ。

 とにかくこれで寿命が何日か伸びたな。


 屋敷で石鹸とか見つけて、ここで水浴びしよう。

 もしかしたら屋敷にお風呂があるかもしれんけど、狙撃されながらの風呂なんて一瞬足りとも寛げないからな。



 さ~て・・・。


 水場も発見したことだし、あとは部屋に戻って食い物を召喚するだけだ!

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