第2話・いきなりの行為(好意)は許されない
唐突な状況に僕の脳が理解したときにには唇は離れており、僕自身で唇を確認後に親友の頬に平手打ちをかまして叫んだ。
「何してる!!」
張り上げて肩で息をしながら、頭を振る。親友とキスをしたと言う事実が僕に落ち着きを失わせる。
「イテテ、ごめんなさい……」
僕は首を掴み、壁にたたきつける。
「何故!!」
「……親友の妹に手を出すほどにバカになった。いや、親友をダシに近づいただけか。とにかく……俺も実は……焦ってる」
フーフーと荒れる鼻息を落ち着かせ。親友の表情を見ると真っ赤に頬は紅潮し、額に汗をいっぱいにして申し訳ない顔をしていた。唇を噛み、落ち着かせながら。小さく溢す。
「許さない……でも、今日のご好意は忘れない」
「……ごめん」
空気が重くなる。重くなった空気に使用人が『風呂が沸きました』と伝え、僕は手を離して部屋を出る。何事もなかったように使用人に偽りながら。親友から離れる。今は顔も見たくないと思い風呂場へと入った。
頭に何度も何度も思い出す感触を頭を振って追い出そうとするが……生々しい事実がへばりつき。離れなかった。風呂場で服を脱いで、全身鏡を見た時……
ゆっくり唇に手を触れる。自分自身に綺麗な女性が立っていると思い。親友が見ていた自分をまじまじと見た。
あまり、見ないようにした。自分自身を今初めてしっかりと認識する。綺麗な青い瞳と長く艶のある栗色の髪に僕自身をやっと評価する。
「すっごい美人じゃん……俺」
何処か、遠い夢だと思っていた。何処か現実ではないと思っていた。
だが……それは全て砕けた。
そう、目の前の女性が私なのだと。
鏡から離れ、丁寧に体を洗って湯船に浸かりながら僕は……ずっとずっと唇を触り……泣きそうな親友の表情が浮かび続けた。
のぼせそうなほど湯船で呆けていた僕は髪をタオルで丁寧に乾かし、温風を生む魔法で優しく髪を乾かす。化粧水をつけ……肌の手入れをして。黙々と女性の準備をする。
仕事だからとか、そう思っていた。今は何か分からない。
逆に落ち着き、恐怖を感じた。このまま部屋に戻ると……親友が居るんじゃないかと。
索敵し、ドア越しに人の気配を感じず。胸を撫で下ろして部屋に入る。もちろん彼は居ない。しかし……机には夜食として切り分けられたパウンドケーキと紅茶の入ったポット。折られた手紙が置かれていた。
手紙を手に取り、中を見ると綺麗な字で謝りの文字と……なぜ凶行に走った旨が書かれていた。親友らしからぬ行為と申し訳ない事を書かれた文面に目を細め……そして。
『どうやら、君を好きになってしまったらしい』
言い訳の文字に僕は唇を結んで。胸に手を置き、深呼吸する。露骨な好意に落ち着いていた頭が沸騰しそうになる。心臓は壊れんばかりに鼓動し……
手紙を煙草のように私は丸めて、空いた皿に乗せて火をつける。
誰にもみられないように。僕だけがしっているように。隠すように。燃やして消す。
「…………」
そのまま、筆記用具を使い……紙に記す。
『今は許す事ができません。手紙は燃やしました。ですから……友達から始めませんか?』
僕はあんな事をされても。親友が悲しむ姿、一人にすることは出来なかった。
例え、昔の自分では無くても。親友だから。
*
寝付けない。目を閉じても思い出すのはあの感触。
火照る体に嫌気が差す中で……僕は知った王宮の中を散歩しようと考えた。ゴーレムを見るだけでも面白い。
気を紛らわせるために……部屋を出て廊下を歩き。お気に入りのテラスまで行く。そこは僕のお気に入りのベンチがあり、そこに座ると。綺麗な双子月と満点な夜空が見えるのだ。王宮には光がほとんど無い。ゴーレムは光で見ているわけではないからだ。
ベンチに座り、カンテラを消して星読みの魔法を唱える。すると星が反応を見せてハッキリと夜空の星々の輝きが増える。
満点の星空に今日は雲もない日に火照った体は落ち着く。
「うわ、驚いた。君……起きていたのか」
「……!?」
背後で声がし、ビクッとなる。油断していたのか全く気付かないほどに夜空に目を奪われていたらしい。
「ごめん、今さっきの今……だからね……」
「……何故ここに?」
許したわけじゃない。だけど、そんな悲しい顔をしないでほしい。悪いことをしているのが僕の方じゃないかと思ってしまう。
「眠れなくて。親友が好きだったこの場所で星を見ようと……君はどうしてここに?」
「私も寝付けず……廊下を歩いてるとベンチがありました」
「……ごめん」
「……謝らないでください。これ、手紙の返信です。ドアの下に入れようと思ったんですが。お渡しします。部屋で見てください」
「あ、ありがとう」
「…………」
すごく調子が狂う。
「隣、いいかい?」
「謝らないのでしたら。はい」
ベンチに親友が座る。そのまま親友は空を見上げた。笑顔で……夜空を見上げた。
「……星読み魔法使えるんだね」
「はい。必要なことですから」
「親友も使えた。実はここ親友が大好きな場所でね。周りに星を邪魔する光も無く、静かで……夜空の一つになった気がすると言うんだ。もちろん、俺は別に興味はなかった」
「……そうですか」
「でも、今は違う。この星空の下。どこかで親友が見ているだろうなと思ってたまに見上げて初めて気が付いたよ。あいつが好きだった物を綺麗だと気付いたのは居なくなってからだ。寂しい気持ちも居なくなって初めて感じたさ」
「……」
親友は……そうか。僕は親友を知ってる。でも親友は僕を知らない。それは非常に寂しい事なんじゃないかと僕は気付かされた。だから……まるで死んだかもように思い出を語るのだ。
言い聞かせながら、思い出で寂しさを紛らわしている。そんなの気付いたら本当にかわいそうじゃないか。
「……私……その、私も星は好きです」
「そう。やっぱり親友の妹だからかな……似ているね」
ああ、『似ている』。この言葉に悲しみがあったなんて……わからなかった。
「お兄さんもきっと……寂しく思ってます」
「うーん、どうだろうね? 何も言わずに消えた奴だ。もう……居ないのかもな。危ない仕事する家だ。覚悟してだろう」
「……生きてます。絶対に手紙が証拠です」
「あれ、君が書いているんだろ?」
「あっ……」
「内容に現実身がなく。微かに……君の匂いがした。手紙の内容も苦し紛れな妄想のような内容だから……ごめん」
「……気付いてたんですね。ごめんなさい」
手紙……本当に何も書けなかったのだ。僕は今、君の隣に居るなんて書けない。キスをしたからこそ余計に……僕を見せる事が出来ない。
知らないうちに親友と……男の親友とキスなんて……嫌じゃないか。
「ああ。そして……君の優しさに驚いたよ。だけど友人は友人。君は君だ」
「……ごめんなさい。軽い気持ちだったです。悲しませたくないと」
「いや、大丈夫。俺も悪いことを……ああ思い出したくないから別の話がいいかな?」
「気遣いは結構です。そんな事よりも……少し寒くなりましたので部屋に戻ります」
「わかった。送ろうかい?」
「いいえ」
断り僕は逃げるようにその場を去る。そして、ドアを閉めて背中にドアを押し当てたままペタッと座る。
「はぁはぁ……きっつい」
息も絶え絶え……こんなので戦えるのかとさえ思う。僕はどうしてしまったのだろうか?
*
次の日、母親が王宮に迎えに来てくれたる手筈になった。一応令嬢である事、娘を思う母親と言う形だ。早朝にしては遅い起きに合わせた朝食を親友と取る。手紙を読んでくれたようでいつもと変わらない親友にあれは悪夢だったと思えるほどには落ち着いた。
「昨日の事はご内密に」
「わかってる。流石に君の母親に殺されたくはない」
「はい」
釘は刺した。
「君の母親から、昼には顔を出すと言っていた。残念ながら襲撃者は多額の罰金で釈放されてる」
「そんなのやめた方がいいのに……」
「膨大な金額だ。それも商家の貴族だろう。金が全てとは言わないが。騎士球団を見てると金が全てとも思う。年棒序列が強さに直結しているし……金だよ。もしも、君がオーナーで金を出されたら許してしまうだろう?」
「………」
何も言い返す事が出来ない。年棒を払ってあげれてない気しかせず。たぶん……頷くだろう。
「君が秘蔵っ子な理由がわかる。情に脆い。それは君の家ではご法度だろう」
「はい」
我が家は戦闘民族。敵に情をわき逃がすことをヨシとせず。命令のまま倒せと言う。母親に父親が二流、僕も二流と言われていた理由はそこにある。情で生与奪を決めてしまう所があるからだ。しかし……一つ言い訳させてくれ。
情など、感情が豊かになったのは少なからず親友。君のせいだけどなと言いたい。幼少期に出会った結果だ。
母親の教育だけなら。きっと……殺戮ゴーレムと変わらなかった。
「あっ……」
「どうした?」
「いえ、疑問があって。個人的なので忘れてください。お母さんに聞かないと」
「わかった。聞かないよ」
母親の心情が見えた気がする。母親が親友との交遊を許している。これを確認する日が来たと。
トントン
「入っていいぞ」
「はい、お嬢様のお迎えが来ております」
「わかった。下がってくれたまえ」
時刻を見ると昼前、少し早い到着だ。席をたち使用人についていく前に親友を見た。ついて来ないようで、僕は手を小さく振る。
「ありがとうございます。さようなら」
「あ、ああ……さようなら」
反応が遅れ、そのまま手を振り返し口を抑えていた。その反応は思い出すからやめて欲しいが無視をして母親の元へ行く。
母親は王宮の馬車駐車場におり、僕は駆け足で近付いた。
「大丈夫だったのですね」
「ええ、たんまり貰ったわ」
「保釈金ですか……」
「そう、保釈金。あなた……花を散らしてないのね?」
「お、お母さん!?」
僕は花を散らす意味を考えて何を言うんだと驚く。母は愉快そうに笑い。下品な事を言う。
「男と女が一つ屋根の下。間違いは起きる物よ」
「気持ち悪いことを言わないでください」
「そう? あなたも父親とそういうことして生まれた子よ? まぁ、私は花に毒を塗ったけど。あいつは耐えたわね」
僕は眉を歪ませる。母はそれを見てケタケタと笑いながら馬車に乗り、僕も続いた。馬車の中で僕は疑問を口にする。
「お母さん、何故。王子との交遊をお許しになったのですか? 理由を今……知りたいです」
「保釈金の話より。そっちの話を聞きたいのね。もちろん『感情』を生ませるためよ。情を……生ませるため」
「そうです。それが不思議なんです。殺すのに邪魔になりませんか?」
「そうね、邪魔になるわ。でもね……二流の暗殺者じゃないと出来ない事があるの。情がない暗殺者の最後は死しかない。止まることのない馬車は崖に落ちる。そう、最後のブレーキが情よ。感情よ」
「……えっと。お父さん関係ある?」
「あるわ。私が唯一殺せなかった男よ。わかった? あなたねぇ…………愛されてる子よ」
「…………」
母親はそう言いながら僕の顔から背ける。なんとなくわかった事だが……僕も母親似なのだろう。
恥ずかしいとすぐに目線を反らす癖。母親譲りだと知ったのだった。
*
あの騒動の後。僕の周りは大きく変化した。王宮に入った事で噂が立ち。そして……僕の出生を調べる者が日に日に増えていく。
そして……僕が男だった時のメリルが噂の表へと出てくる。そう、消息絶った僕自身を探す者も増えたのだ。
だから、父親は考えた。俺に相談無しに。そして……僕は僕の葬式に参加する。僕の顔を偽装した死体を見たとき……震えが止まらなかった。
そこまでするのかと思った。だが……理解もした。恨まれる家で復讐も多い家。それなのに父親母親は子を成した。人質にされる弱みを作った。
そう、守るのに必死なのだ。手段が異常なだけで。例え……女に偽装し、別の人生を送ってもいいぐらいに対価を出さないと僕は生き残れないのだろう。
そう考えると……今の状況に諦めに似た落ち着きが生まれる。そして、不思議な気分を楽しむぐらいには余裕が生まれた。まぁ、余裕な理由は僕より遥かに落ち込みがひどい人がおり。それを見てると可哀想になっているからだ。
「……王子」
「あ、ああ。君か」
葬式は静かにひっそりと行われた。襲撃者を気をつけての事。しかし、噂はしっかりと流された。そりゃ……王子が号泣している声や涙姿を見たものが多いからこそ嘘とは思えなかったのだろう。母親や父親の名演もある。
流石……父親、母親。魔法使いを騙せるほどに精巧に僕に偽装したと考える。親友がわからないのだから。
「落ち着きましたか?」
「あ、ああ……彼は灰に?」
「……はい」
病原菌などの危険性があるため火葬が主流である。火葬場には親友はついて行かなかった。耐えられなかったのだろう。僕の家で、ソファーで項垂れている。
「お兄さんは……きっと。幸せ者だったと思います」
僕自身が僕自身の人生を語る。なんとも言えない。バラす事も考えた。だが……それは嫌だった。女の子になってるなんて恥ずかしくて言えない。だが……
「……そうかな。俺は迷惑ばかりかけてた。ずっと続くと思ったんだ」
こういう、失ってから気が付く話はよく聞く。だけど……僕がと説明するのは……嫌だ。だから……私は考えた。
「自分を責めるのはやめてほしいです」
彼を後ろから抱き締め、耳元に優しく囁いた。
「君……うん。そうだね。親友ならそう言うの怒るな確かに」
「はい……それに私は生きてると信じてます」
匂わせる言い方をする。ハッキリ言っていないから大丈夫だろう。
「……それは君の中に生きてると言いたいのかい?」
ドキッとする。だが、これは良くある物語のセリフだ。
「えっと……解釈は任せます」
「……君は本当に優しい。友達にするには足りないほどに」
友達以上を求める。だけどそれは失った故の弱い発言だった。心が弱ってる事を察し私は続ける。
「……親友なら。いいですよ」
「はは、本当に君はお堅い令嬢だ。ここは婚約と言ってもいいんじゃないか?」
「元気出ましたね」
「ああ、そうだな。君は本当に不思議な子だよ。だから秘蔵っ子だったのかな。君なら男を選び放題だ。それぐらいに魅力だよ」
「……それは王子様でも同じではないですか?」
「僕は血統。君は人柄だ。その差は大きい」
唐突なベタ褒めに少し恥ずかしくもなるが。調子を取り戻した事に安心する。いい家の王子様なのだから弱ってる所は漬け込まれやすい。現に……近寄ろうとした虫は多かった。
だが、王子は突っぱねた。上部だけの慰め言葉に怒り、悲しんだ。あまりの感情の大きさに私は今を許している。
「ありがとう、楽になったよ。離れていいよもう」
「本当に大丈夫ですか? 親友を追って生きませんか?」
「……自殺はしない。必ず……俺は親友を忘れない。貰った強さを大事に生きるよ。残念なのは秘蔵の魔法。まだ誰にも見せてない隠し切り札をぶつけられなかった事かな?」
「なんですかそれ」
「君にだけ教えるよ。『親も知らない。俺の魔法』を」
僕は離れて隣に座り、魔法内容を聞く。二人だけの新しい秘密な話を共有するため。
*
学園が休校となり時期が始まる。そう、夏の訪れ。その時期に僕は親友に打ち明けた秘密がある。体を鍛えるのが少し好きだと匂わせた。
「……本当に親友の趣味と一緒だね」
「野球好きですから」
「じゃぁキャッチボールでもする?」
「いえ、どうしましょう」
女になってから、体を鍛えて変わった事が出来るようになった。だが、やはり力強さは弱まった。なので……
「重量上げしたいですね」
「……本当に?」
「はい、少し大きい剣に重さを感じるのが違和感なんです」
「それが必要な事はあると思う?」
「敵の武器ほど便利な物はないんです。現にドレスの下は正面で戦う事を想定してません」
「ああ、はいはい。わかったわかった。仕事真面目な君の事だ……可憐な君に合わせよう」
「別に合わせなくても……」
「いや、親友だからね」
そう言いながら学園内にあるトレーニングルームへ向かう。少数だが、武家の貴族たちの子がクラブを作り競い合っていた。中には……騎士の子もおり。それを眺める令嬢たちが楽しんでいた。他にも屋外に運動場があり、そう言う楽しみはある。健康な男性は人気だ。
僕は思う、学園内で一番淫らな場所だと思う所なのだ。
「……ここ親友と来たかったな」
「今は私が親友です」
「ごめん、感傷に浸るなバカって親友に言われるな」
トレーニングルームに向かって着替えを済まし、訓練所の併設された場所に移動する木剣、バットなど様々な物が置いており。鍛えるに便利そうな道具も多い。バーベルもあり、僕はそのバーベルで体を鍛えようと考えた。
まぁ、本当の所は体を動かせば親友もその間は僕を忘れるだろうと思って連れてきた。
「おいおい、王子様がこんな所でなんだぁ? 女連れて」
「ははは、見学席ならあっちだぞ」
「そうだ。温室育ちの坊っちゃんが用はないだろ」
「……」
騎士の子だろうか。軽装でわかる筋肉の厚みに鍛えられている事がわかった。そんな中で、親友が上着とズボンを脱ぐ。それに騎士見習いの男達は笑みを向ける。僕も久しぶりに見る親友の体に中々、素晴らしいなと考えた。背中にしっかりと筋肉瘤が浮き上がり、足にも立派な瘤がある。
「王子様だが、騎士に命令する身。負けてはられないよ。どう?」
自信満々な言い方に今さっきまで軽口を叩いていた男たちが謝辞と握手を求める。それに親友は答え、何も言わずに絡まれることはなく。ただ黙々と鍛え出した。
その光景にポカンとする僕は親友を見ると……
「筋肉は嘘つかない。親友が教えてくれた最高の言語だよ」
僕は心で首を振り『教えてない、教えてない』と否定する。言ったのは『鍛えたら殺され難い』だ。だかた鍛えようっと言っただけである。
「案外、鍛えてるとね。結構、人付き合いでも便利なんだ。ただ、俺は才能がなく。これが限界なようでね……太り難い体質。魔法使い向けの体だから……苦手なんだよ。親友みたいな体の使い方は出来ない」
「それでも強い男として魅力的と思います。驚きました」
「うん!! ありがとう!!」
親友が嬉しそうにグッと拳を固めて軽くガッツポーズでキメてくる。ちょっと暑苦しい感じが懐かしく思う。喧嘩の時の魔法使いでは考えつかない滅茶苦茶鋭いストレートに地面に倒された事を思い出す。あれから僕は本気になった。
「……どうした? ボーっとして?」
「あっいえ……私はそのままダンベルで鍛えるので自由に」
「わかった。少し、集中しよう」
僕は分かれ、大胸筋を鍛える訓練を開始する。最近、胸が大きくなり。支えるためと考えての事だ。後は足腰を鍛えたい。一撃で仕留めれるパワーを求める。
そう考えて親友を忘れて没頭し、一通り無理のない筋肉トレーニングを終え。様子を伺える暇があると親友がなんと……今さっきの3人とバトルしていた。
バトル内容は……ダンベルの持ち上げる重さで競うパワーリフティングをしていた。どれだけの重さを持ち上げられるかと言う戦いだ。ようは力比べである。
そんな仲間に入って親友は笑みを溢して仲良く笑い合い。溶け込み、名前も聞いていた。そして……私は……
「おもしろそう? 私もいい?」
何故かイラつき、男の中に入る。もちろん、みんな私の胸や足、お尻など見つめる。わかるもんだ、値踏みする顔を。親友も同じ目線を送る。ちょっと汗で軽装が透けてるか疑ったが大丈夫だ。問題ない。
「えっと、ちょっと重いんじゃないかな?」
「本当に? じゃぁやってみるね!!」
いつも絶対にしない、嫌いな演技ぶりっ子令嬢を演じて……寝転んで定位置からダンベルを両手で掴みスッと持ち上げた。そして3回上げ下げし、定位置に戻して笑みを溢す。
「結構軽かったね」
私の優秀な血統は示した。馬鹿力に4人は静まり、真剣な表情になる。
「女の子ってバカにして持てないキャハハを期待してる所悪いですけど。このぐらいでヒィヒィは女々しいですわ。ね? 王子様」
「お、おう。なぁ、もっと重いので勝負しようぜ」
私の一言に男4人は真剣になり、重量上げの重さを上げて行く。僕はそれを見てスッキリした気持ちで応援した。
ただ、なんであの時イラッとしたのかはわからずじまいだったが。
*
夏休みまであと数日、二人で過ごす午後で親友とお茶会をしている時に相談を受けた。トレーニングによって仲良くなったのはどうやら兄弟だったらしく。3人兄弟と友達になり、親友以外に新たな友人が出来た旨。名家とは言えないが騎士家として魅力的な3人の親友はこの縁を大切にしたいと僕に相談する。
もちろん、新たな友達に僕は喜びを打ち明けたが……何処か心で引っ掛かりも生まれた。なので親友と……
「なんで怒ってるのかわからない」
「怒ってない。別に怒ってない!!」
「いや、怒ってる」
理由の不明な喧嘩をしてしまう。そして沈黙が流れ落ち着いた時に僕は謝った。
「……ごめんなさい。イラついてたんです」
「わかってる。君をほったらかしにして遊びに出かけるのが嫌なんだろう」
「……いえ。大丈夫です」
「それは大丈夫じゃないから言う。大丈夫だ」
「………」
私は親友を取られるのが嫌なんだろう。気付いたが、それはなんて小さい器なんだと思う。
「ごめんなさい。私はどうやらちょっとジェラシーを感じたようです。ごめんなさい」
「あっ、いや、その……えっと」
「?」
「嬉しいな……そう思って貰えるの」
「!?」
照れた表情で頭を掻く親友に私はそっぽ向く。
「恥ずかしいですが。言わないと勘違いされますから」
「ああ、わかってる。親友だもんな」
「はい」
私は満足し、ベンチで木影を眺める。日差しが強い中で夏が来ることを感じさせる。
「なぁ、ちょっと気になるんだけど。筋肉見ていい? この前の出来事が不思議でしょうがない」
「いいですよ。どうぞ」
「では」
僕は素直に了承し、そして……それは自然と流れるいつもの親友とのスキンシップだと思っていた。
そう、忘れていた。僕が女だと言うことを。
「えっ!? ちょ!?」
夏のため、素足だ。親友は立ち上がって僕の前に座り、足の靴をもってまじまじとふくらはぎを見ながら触る。慌てて夏の蒸れない短めのスカートを掴んで前を隠し、失言をしたことを悔いる。
「ま、まって!!」
私の静止を聞かず。太ももまでゆっくりと触る。スカートの中に手を入れられてあまりに酷い行為に体は硬直した。
「おかしい、筋肉で固そうなのに……すべすべで柔らかく。それでいて……」
パーン!!
「待てって言った!! 感想もなし!!」
「ごめん。でもなんでそんな体なのにあんなに力強いんだ? 親友もそんなだったけど……」
「と、特殊体質なんです!!」
「それに触っていいって。なんで?」
「よくよく考えると恥ずかしかったんです。えっち!!」
「……うん。良いもの触った」
私は立ち上がって全力で前に蹴り上げた。スカートで前を隠しながら顔の顎を蹴り上げる。そして……今度は見られて大丈夫な物を履こうと決意を固めた。
ガッツリ蹴り上げため、倒れた親友に近づき倒れた親友の近くでしゃがむ。
「……ごめんなさい」
「いや。俺がデリカシーなかったよ。ただ……いい蹴りだ。脳震盪で立てないかも」
「ごめんなさい」
「いいよ、元気だから。青空と君の瞳の青が綺麗だ」
「……早く起きてください」
本当に親友は心臓に悪い。
「足は太いな」
恥ずかしさをそのままにお腹に拳を叩き込む。
*
夏休み、襲撃者から奪った保釈金の一部がお小遣いとして僕の懐に入ってきた。どうせお忍びで何処かに遊びに行くのだろうと母親に言われ、多めに貰える。
「……決めてない」
「決めてないの? でも、王子様は既に馬車で待ってるわ」
「!?」
初耳である。
「お母さん。準備出来ておりません」
「準備出来てるからそこの鞄持っていきなさい」
「お母さん。武器は?」
「一応、あなたのいつも常用してるのを入れたわ」
「ありがとう」
「一応、お得意様だから。粗相のないように」
「護衛の任務請け負ったんだね。わかった。覚悟する」
「ええ、売ったわ」
「……?」
「早く行きなさい」
聞き間違いじゃないなら『売った』と言った。腕を売る事だろうと解釈する。母親は言葉足らずが多い。
僕は急いで家の庭に出ると親友が待っていた。満面の笑みで外行きの礼装を身のつけている。
「お呼ばれしました。どちらへ?」
「海へ行こう。解放したプライベートビーチだ」
「……危ない所です。反王政派第二第三王子派の大好きな場所です。事故死に偽装しやすく。恐ろしいです」
「だから解釈されたビーチだ。プライベートビーチの個人だけの使用はある意味で周りには誰もいない。目線が多いところだと衛兵も多く治安維持部隊も駐留。また、怪しい人物は見分けがつく。水着姿は武器を隠し持てない」
「……私も武器を持てないですが?」
「安心してくれ。俺が君を守る」
「えっと、私は護衛ですよ? 腕を買われたのです」
「ならば無理難題を力でねじ伏せてくれ。お高い金は払ってる」
馬車は動きだし、龍の咆哮が響く。気性難な竜だ。
「俺の秘密を知ってるだろう?」
「魔法が得意なんて信じれません」
「そろそろ、襲撃者を減らすべきだ」
「……わかりました。しかし、私は服を着て付き添います」
「……」
「なにか?」
「目立って恥ずかしいから離れて」
「…………それは危ないです」
馬車の中で僕は親友と議論をし、結局決着をつけるため。球団賭け事で決着を決めることにした。
先発の防御率から算出されたリード点数を含めて移動する馬車の中で魔石から流れる映像で決着が決まる。
リードあり賭けだったのに二桁点数差でぼろ負けし、僕は親友の言うことに従う事になるのだった。
「……弱い……なんであんなに甘い球を……ふざけるなぁああああああ!!」
「君、野球だと性格変わるね。おもしろすぎる」
悔しい思いのまま、馬車は揺れる。
*
別荘についたときには既に夜だった。竜馬車、飛空挺の開発で速度や足などで遠出がしやすくなったお陰で海水浴が流行り元々は王族だけが夏休み用に別荘が設けてあり、金持ちの道楽だった。しかし、今は忙しいので実際使用されるのは極稀であり、貸し別荘である。王族の収入源でもあり宿泊施設として活躍している。
王族というか、商売人みたいな所は私設騎士団を持つために必要なことなのだろう。いつか親友もそれを操らないといけないのかもしれない。
部屋に入ると一年前に来た事を思い出し、首を振る。僕は初めて来た事を考えないといけない。
「わぁ、綺麗な部屋ですね」
「使用人は全てゴーレム、小さい事は自分でやらないといけないから大変だけど大丈夫かい?」
「使用人教育もしっかり受けておりますのでご安心ください」
「なら任せるよ。では……今日はもう遅い。そこに用意して貰った冷食を食べよう」
「少しお待ちを……」
僕は用意されたサンドイッチを一口一口毒味をする。問題なく食べられるので安全だとわかり、そのまま問いかけた。
「大丈夫ですね」
「……ククク」
「何がおかしいんですか?」
「いや、俺は魔法で悪意を調べられるし……それに」
親友が一つ掴み。笑みを溢して口に含む。
「間接キスは大丈夫かい?」
「!?………お仕事です」
「なら、おいしくいただこう」
親友の男の時と違い。悪戯が少し、しっとりしてる。いやらしいと言えばそうだが。心に刺さる物が多い。紅茶を私は用意し、口を閉じた。
「あら、機嫌損ねた?」
「……」
「ごめん。でも、聞かないといけない。ベットに関して。一つしかない」
「……!?」
僕は思い出した。ベットは一つ。それも、ダブルベットであり。一緒に寝ていたことを。
「使用人の部屋を使います」
「残念だが、離れた別宅は一般向けに貸している。使用人用の物もな。それに俺達は大人になる準備期間だから……頑張ろうな」
「えっ!? 近くに一般人が居るんですか!?」
昔は解放していなかったっと思う。
「ああ、もちろん。身分は証明されてるから安心してくれ。そこで相談はここのソファーで俺が寝ようかという話だ」
「……」
僕は悩む。ソファーを見てみると寝るには少し……足りないような気がする。窓に近く危ない気もする。
「………王子様を床に寝かせるのはいけないと思います」
「そう? 寝癖でたまにベット落ちてる」
笑いそうになる。思い出したのだ親友の体がベットから消える瞬間を見た日を。
「はい、私がここで寝ます」
「令嬢に床で寝かせるのは……依頼人を守るのが仕事だ。体も休めながら」
「……はめましたね?」
「どうかな? 今、思い出したよ」
「……わかりました。汗を流して準備します」
私は流石に……匂いを気にした。
「ベットメイキングは済ませてあると思うよ?」
「……ベットに仕掛けるのが簡単なんです。それに私も隠したいです」
「わかった」
僕は覚悟を決める。昔から親友を護って来たのだから自信をもって仕事を完遂すると。
*
寝間着、枕には罠が仕込まれておらず。部屋は安全だった。魔方陣もあり、魔法攻撃に対しても鉄壁の防御力が発動している。ベットの下に親友は剣を。僕は枕に短剣を忍ばせる。
寝る時になり僕は心を殺した。
「では、おやすみなさい王子様」
「おやすみ。結構、恥ずかしがると思ったけど落ち着いてるね」
「……仕事ですから」
「ありがとう」
一応顔を反対に向けて眠る。昔を思い出して一緒に寝るのは大丈夫だった。焦る必要はない。
そう、言い聞かせて寝る。
「……えい」
「!?」
だが、親友は僕に首を手を回し抱きしめて来た。ビックリした私の心臓は跳ねる。
「お、王子様!?」
「おっと、動くな。このまま寝させてもらうから」
「えっぇつ」
「……おやすみ」
私は唇を噛み。鼻で深呼吸する。大丈夫と言い聞かせて落ち着きを取り戻した。そして……寝息が聞こえ……良かったと思う。
疲れていたのかすぐに寝てくれた事に感謝し目を閉じた。流石に私も眠いのだから気を失うようにまどろみ記憶がなくなる。
次の日。僕は目が覚めた時に親友の顔があり、ビックリして突き飛ばして起こしてしまった。いつの間にか親友に抱き付いて眠っていたらしく。親友は珍しく寝癖は発動していなかった。
「いてて、おはよう」
「お、おはようございます!!」
「元気いいね。朝から」
「は、はい!!」
私は顔を背ける。親友の寝顔は可愛くて綺麗だった。
*
僕の受難は続く。母親が用意してくれた鞄の中身をゆっくり確認していると……水着が出てきた。そして、お薬が数個あり。それが避妊薬と書かれており慌てて鞄の中に隠す。
「どうした? 焦って?」
「あっ……いえ」
「あっ水着もって来たんだ」
「はい」
僕は母親の用意周到な準備を憎む。親友の前で……水着を着るなんて恥ずかしい事をしないといけないからだ。
「賭けに負けた。魔法での約束の強制力がある。俺は楽しみしてるよ」
「うぐぅ」
露出が凄い。今は肌を見せるのがトレンドなのか下着と変わらない。親友と浜で女性を眺めていたのが、眺められる側になるとは思わなかった。
「恥ずかしいのかい」
「はい、実は……初めてで」
「……なら無理はしなくていいよ」
「……」
親友の残念そうな顔に私は折れる。
「頑張ります」
「よかった。一人で泳ぐのは流石につまらないと思ってたんだ」
ガチャガチャと親友が準備をする。箱に飲み物とグラスを入れて、敷物とパラソルを準備する。前もって準備させていた物だろうか。手際がいい。
「では、行こう」
「……あの、着替えて行きませんか?」
「そうだね。そうしよう」
僕は髪が痛まないように先に手入れと海に対する防御材のオイル塗布する。面倒だが……私を見る目があるので気になるのだ。
*
海につくと白い浜辺に多くの旅行客で賑わっていた。一般人の方々に紛れるように日差しを帽子で防ぎながら。上着を羽織っていい場所を探す。朝から結構な人数がおり、騎士も水着に剣をもって徘徊していた。
「……昔から多いですね?」
「観光業でお金を稼がないといけないからね……ん、昔?」
「昔に数回来たんです。小さい頃ですね」
僕は危うく失言から致命傷を受ける所だった。危ない。ここが解放されたリゾートで良かった。プライベートだった場合は一瞬でアウトだろう。来たことがあると言うのはそれだけ気を付けないといけない。
そう、僕はちょっと弱くなってる。すぐにボロが出そうだ。
「ここでいいかな。今のうちに用意しよう」
パラソルをひらき、敷物をひいてボックスを置く。ボックスの中身は瓶の飲み物が入っており、魔石が熱を奪い冷えている。それを親友が栓を抜き僕に渡してくれる。
「ありがとう、お金の物持ってきた?」
「いいや、一緒に泳ぐために持ってきてない。ボックスは盗まれてもいいからね。飲み終えたら行こう」
「はい」
親友が腰に手をつけてグビグビと勢いよく飲み干す。僕も急いで飲み干して上着を脱ぐ。少し、恥ずかしいと私はおもい。胸と股を手で隠す。親友がへんな所ばかり視線を寄越した。
「似合ってる似合ってる。スタイルもいい。足がちょっと太ましいけど」
私は親友に近付いて尻に蹴りを入れる。
「いつぅ、緊張溶けた?」
「怒りしか沸きませんが?」
「まぁ、まぁ」
腕を組んで少しむくれる。だが、親友は気にせず僕の手を掴んで引く。そのまま従い海に入るとヒヤッとしながらも温度に順応する。
「泳げる?」
「泳げます」
「じゃぁ、魔法で海水の中をみようか?」
「はい」
親友の魔法で海面から水中を見ることが出きるようになる。砂に潜った魚が顔を出しており、足でほじると慌てて逃げ出す。ベラと言う魚だと思う。
「わぁ、ベラですね。あの岩礁を見たいです」
「岩場ねぇ。いいよ行こうか」
僕のお願い通り、足のつかない深みの岩礁に来ると驚いた声をだしてしまう。
「あっスベスベマンジュウガニが隠れてる」
僕は潜ってその蟹を掴む。アワアワする蟹を眺める。スベスベした丸いかわいい蟹だ。なお美味であるが猛毒種であり食べるには耐性持ちでないといけない。
「怖くないの?」
「かわいいですよ?」
「いや、そうだね。一般の令嬢と比べじゃいけないね」
「あれ、オニオコゼじゃないですか?」
「なんで君は危ない奴ばかり見つけるかなぁ。触るなよ」
仕方ない、生まれつき毒耐性があり。毒を蓄積し、魔物から身を護る人間だから。好物に毒を持つものが多い。母親の大好物はフグの肝である。逆に魔物も僕を避ける。
「モリがあれば……美味しそうですね。なかなか大きいです」
「いや、漁業組合から怒られるし……騎士に見つかったら武器所持で逮捕だ」
「魔法で仕留めますよ」
「やめなさい」
「ふふ、冗談です」
クスクス笑うが。僕は知っている。彼がこっそり密漁していたことを。
「まぁ、親友とこっそり取ったことがあるが……ダメだぞ」
「はい」
海に浮きながらなんだかんだ楽しんでいると大声が響く。大きい大きい魔法で強化された大音量の声に僕は気付く。
「王子様、海から出ましょう」
「ああ、魔物警報だな。海に魔物が出たからでないと……あれは!?」
僕も親友の視線の先を確認する。大きい魚影と黒い背鰭が一直線に向かってくる。大きい大きいその魔物に僕は親友に言う。
「囮になります!! 速く逃げてください」
「いや、君を置いては!!」
「私は護衛です」
流石に狙いを定められた海の魔物に何処まで戦えるかわからないが。目玉をえぐり、頭蓋を割るぐらいは出来ると思う。
「……だが、君は親友が残した大切な人だ。それに、これは俺狙い」
ピキッ
海に音がし、そして親友は僕を抱き寄せた。その瞬間に海に氷壁が浮き上がり、黒い魚影を巻き込む。そのまま黒い姿は大きいイルカのような姿で白い模様があり、数メートルにも及ぶ大人のキラーホエールだとわかる。
そのまま氷壁に飲まれるように包まれ、暴れる事を許さず封じる。僕はそれを『秘密』だと気付かされる。
親友の切り札。それで私を助けた。
「いいのですか? 秘密だったのでしょう?」
「君が怪我をするよりマシだ。それに……」
親友が氷漬けにした物体を見つめる。
「仕組まれた事故だ」
「……そうですね」
キラーホエールの脳だろう部分に杭が食い込んでおり、まだ魔力を感じられた。操られており、そして杭は砕ける。証拠を消すように。
「今日はもう泳げませんね」
「ああ」
親友は少し残念そうにしながら、浜に上がり助けに来た騎士に顛末を話した。そして……海岸は閉鎖される事になった。
その日、後で聞いた話だが魔物を封じる網が人為的に壊され、船で警戒していた騎士がキラーホエールの胃袋の中から見つかった。
*
事件から一夜開けて、誰も居ない浜に僕と親友は訪れた。プライベートの浜となった場所で僕は白いワンピースで敷物に座り、海を眺める。あのあとキラーホエールは鯨油などの加工品にされるらしい。
「いきなりの襲撃者に驚きましたね」
「そうだな。釣りでもするかい」
「このまま海を眺めるだけでもいいですよ」
三角座りして膝に顔を乗せて親友を見る。つまらなそうな彼に僕は笑みを向けた。
「襲われるかもしれないのに……なんでこんな広い所に?」
「囮……騎士がはってる」
「なるほどです」
僕が近くに居ながら……心情を漏らす。
「楽しかったんですね……私。油断しましたよ。武器も置いて……」
「それは、俺が嫌がったから。君が謝る事はない」
「……私はその甘さによって弱くなってます。昔ならあの危険性をもっと早く勘づきました。なんで……私にこんなに構うんです?」
「それを話すには外で誰か見ている場所じゃなく……別荘で話そう」
「はい。わかりました」
「……犯人早く見つかってほしいな」
僕はきっと見つからないと思う。手練れの魔法使いほど……自分の手を汚さない。特に魔物を操れるなら。
「そういえば私との関係、噂されてるようですね。『婚約者』と言う。情報を求めに数人が近くで観察してます。その中にいらっしゃらないですか? 犯人は」
「わかった。何処にいるか教えてくれ」
小さく砂浜に地図を書き教えた。たぶん騎士が向かうだろう。
「……噂について、意見は?」
「好きに言わせればいい」
「……そうですね」
「ちょっと別荘に戻ろう。囮はもう十分だろう……それに聞きたいなら説明する」
何かあるのか僕の手を引き、荷物をそのままに別荘に戻る。別荘に戻りソファに座って待っていてくれと言われ待っていると一個の魔石を持った親友が現れる。
「これ、わかるな?」
「記憶石ですね。契約石とも言われてます」
「知ってるなら早い。では、音声だけだが……」
それを机に置き、封印を解くすると父親の声が聞こえた。
「第一王子、お願いと言うのは?」
「……君の所にいる娘さんをくださりませんか?」
僕はビックリして親友の顔を見る。親友の表情は真剣そのもので冗談を言う雰囲気じゃない。しっかり聞いた方がいいと僕の耳に囁く。
「それは一度お断りしたと思いますが?」
「はい、わかってます。ですので交渉です。お金と条件をお聞きします。私に恩を売るのにいい機会と思います。親友が亡き今は関わりが薄くなっております」
「……それで秘蔵っ子を差し出すのは無理な話だ」
「では、最低限の条件だけでもお聞かせください」
「あの子が首を縦に振ったらだ」
「分かりやすくていいですね。では、お金で雇わせていただきます。親衛の騎士として。これなら問題ないでしょう?」
「いいでしょう。どうぞ。買っていただけるなら」
記録はここで止まっていた。そして親友は説明を入れてくれる。
「婚約までは行っていないが、親は君に委ねてる。仕事も俺が直接お願いした。雇い主だ。君の母親も承諾してくれている」
親友はあの日、あの時から変わっていない。それよりも、強い動きをしている。外堀を埋めた。
「どうしてそこまで……」
そういえば行動原理を聞いていなかった気がする。あの日から避けて来た。それをこの場で私は聞いた。震える唇で禁忌を問う。聞いてはダメだと僕が心で叫ぶ。
「最初は親友の妹だから大切に。そして親友の忘れ形見だからがこの前までは」
「今は?」
「……愛してる」
その言葉はどれだけ残酷だろうか。聞いた私は……膝に拳を乗せて固く握り締める。素直に答えられたらどれだけ幸せだっただろうか。何も知らない少女ならどれだけ親友を幸せに出来ただろう。だけど私は……彼を偽り続けてる。
「俺は一応伝えた。『嫌いだ、関わらないでくれ』と言われたら消えるよ」
「……」
「俺にはもう……君しか居ないんだよ。周りも、考えても」
消える。それはきっと……もう二度と関わらないと言う事以上に本当に居なくなる気がして私はどうしたらいいかわからなくなる。答える事は出来ない。でも……もう、親友と離れる事は嫌だ。
「ぐす……うぅ」
だから私は泣くことしか出来なかった。決められない、決められない。
「うぅ、うぅ……」
『断る選択』で親友を傷つけられない。だが、『親友だ』の嘘をつき続ける罪悪感を無視なんて出来ない。だけど、それで好意の拒否を私はしたくない。何もかも決められない。
「うぐぅひぐ」
握った拳に涙が落ち続ける。周りで親友が右往左往して焦っているのが物音でわかる。
「えっと、まぁ。そうすぐにって訳じゃないし。まだ若い。難しい選択だから。そのぉ……」
取り繕う親友に私は首を振る。
「私が悪いんです。私がずっと……『いい思い』をしてたから。ごめんなさい……ごめんなさい」
私のわがままが親友におかしい選択をさせてしまっている。これは僕が招き、私が無視した結果だ。
「えっと、なんで悪いと思ってるか聞かせてほしいけど……」
首を振る。知ったらショック以上に……嫌われるかもしれない事に今は耐えられない。昔なら耐えられた。でも今は……絶対に耐えられない。でも、ここまで堕とした責任もある。
「き、嫌われたくない……」
だから、小さく答えた。
「わかった。では『秘密』を聞いて嫌いにならない事を約束するし、聞かないから絶対に嫌いにならない」
「でも、それは……悪いと思う」
「罪悪感を抱いてるなら。それ抜きにして今の気持ちを教えてほしい。邪魔をしているそんなのは忘れよう」
甘い言葉に甘い私は頷く。ソファーの隣に座った親友に小さく囁いた。
「私も……たぶん……好意が……ある」
私は……私を偽れなくなる。
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