第3話・僕殺し


 次の日、ベットの上で寝る僕は昨日の事を思い出しながら立ち上がる。あの、反応後。気まずさのまま時間が過ぎ。寝る場所を親友が譲り、彼はソファーで眠っている。


 ソファーによるとまだ彼は寝ており油断していた。綺麗なまつげに穏やかな表情を上から眺めていると……ちょっと変わった感情が私に生まれる。


「黙ってるとカッコいいんだから……起きないと殺されるよ」


 ボソボソと喋る。起きないように……


「……」


 寝息は変わらない。ほっぺをつつくが起きない。


「……キスしちゃうぞ?」


 起きない。私は頬に触れるか振れないかで……離れ。そのまま摘まむ。


「あぐぅ!?」


「起きなさい。寝込みを襲われます」


「あ、おはよう……」


「おはようございます。昨日は取り乱し……申し訳ありませんでした」


「そ、そっか。ああ、夢かと思ったが……いや。いい夢だな」


「起きてください」


「冗談じゃないか……怒らないでくれ」


 僕は頬をつねって彼を起こす。昨日の事は昨日の事と割り切った。


「調子良さそうだね」


「そうですね。何か軽い感じがします。今なら囲まれても大丈夫そうです」


 胸が軽い。いや、僕は自分でも思うけど、胸に重い物はついてる。軽いのはこう……気持ちがフワッとしている。感情で体の動きの良し悪しはよくある話だ。


「胸に大きいの2つついてるのに?」


「気持ちの話ですが?」


「納得、それは……本当にうれしいな」


 ああ、確認したのか。僕の気持ちを。


「お腹空いただろう? どうする? お店に行く? 良いところ知ってるよ?」


 僕は少し引きながら、グイグイくる親友の姿に私は恐れを感じた。あまりの豹変にちょっとわからなくなる。


「えっと、グイグイ来すぎでちょっと……怖い」


「面白い冗談だな。人を殺すような鋭い目をするのに、等身大な女の子みたいな事を言って」


「……王子の前では弱いです。近いのも恥ずかしいですね」


 親友になにか一瞬、隙みたいなものを感じる。魔力の乱れなのかそういう雰囲気を感じる。


「なんで、今。油断したんですか? 危ないですよ」


「観察力あるの厄介だな。正直に言うとかわいい事を言われて狼狽えたんだ」


「かわいい事を言いましたか?」


「自覚がないからかわいいんだ」


 僕はもうわからない表情をする。親友の事を理解していたと思ったがそれは全く違い。知らない面を見ている。


「……まぁでも。海岸はまだ閉鎖中だから……繁華街へ行こう」


「いいですよ。海より得意な場所です。護ってみせます」


「……俺が君を護る側になりたいんだけどね」


「何か? こっそり愚痴りました?」


 私は首を傾げる。


「気にしなくていいよ」


「護る側になりたいのでしたら。油断しないでくださいね」


「聞こえてるよね!?」


 親友が驚き、バツが悪そうな顔をするのは面白い。僕の知らない顔を私が暴いて見せてくれる。


 そう、親友は女の私にしか見せない顔をする……





 繁華街は昼間でも繁盛している。お土産屋や遊び場のカジノがあり、今は海は閉鎖されており客が多く。ユニフォームを来ている球団ファンもいる。ここは敵地だったと思い出させてくれる場所で。ウミカモメがマークの騎士団が牛耳っている。だから、王子様は嫌われているファンにとって。だが、王子様だからと喧嘩を売ってくる、そんな危ない行為をする人は居ない。


 そもそも王子様だと気付かれていない。顔を知っている人も少ないのがよく。殺気も感じずに過ごせた。やっと座れそうなお店に腰を落ち着かせて飲み物を啜る。


「拍子抜けですね。テル様」


「あまりに人が多いし、ここで騒げば保釈金無視の極刑だろうね。政治思想的暴力主義者として裁かれる。理由はどうであれな」


「そうですね。あまりに重い刑だと誰も殺りたがりませんよね」


「周りを巻き込むからダメであって……バレずに個人だけ狙うなら、違うかもね。君ならどうする?」


「……」


 僕ならどうするだろうか? そう考えて自分の体を下を見る。爪先の見えない体で思う事は……


「体で誘って……宿で殺ります」


「絶対、俺が認めない方法だね。君、そんな事を考えると思わなかった。もっと純粋で純情かと」


「お家をご存知ではないですか?」


「そうだけど。そうだね。君なら俺を一瞬で殺せるね」


「気を付けてくださいね」


「ああ、もちろん。女は怖いよ」


 冗談みたいな話だが。金持ちの名家ではよくその手段で殺られていたり、弱味を握られたりするので気を付けないといけない。特に王族はそうだろう。


 ならもっと警護をと話になるが。そのとおりで親友だけがあまりにも薄い。だが、それは誘い込みとも取られており警戒はされている。


「テル様は逆に怖がらせそうですね」


「どうして? 優しいよ?」


「襲われたら。殺しますよね?」


「君以外なら」


「私ならいいと?」


「命預けてるからね。親友がなぜ……大好きだったか言うと。王族らしからぬ自由を手に出来たからだ。王宮から出ず、世界を見れず、遊びに行けず。ただただ大人の道具として使われる兄弟。それでも殺されてしまう兄弟とは違うのは彼と……今の君のお陰だ」


「どういたしまして」


 素直に褒められるとうれしい。


「だけど、親友にない特徴で君はかわいいから目に優しい」


「……ど、どういたしまして」


 外形を褒められると素直に恥ずかしい。繁華街を眺められる店で言うには恥ずかしいだろうに親友は堂々と言う。


「あんまり言ってると。噂と監視の目で王様にまで話が行きますよ」


「報告、噂は勝手にすればいい。事実にする気持ちだから」


「……私が縦に首を振ると?」


「いつか、その時が来ると信じている」


 真っ直ぐな瞳に私は負けて顔を背ける。


「直視は恥ずかしいです」


「瞳、本当に綺麗だよね」


「亡くなったらプレゼントします」


「怖いことを……そろそろカジノ行こうか?」


「不正の温床ですよ? 無駄金です」


「じゃぁ……服を買いに行かないか?」


 私は頷く。服のセンスに自信があった……そう親友が好きそうな服を僕が知っている。





 夏休み。別荘で一緒に生活も慣れた頃。僕は体調を悪くした。股の先から血が滲み。赤く染める下着に慌ててトイレへ駆け込んだ。


 体の内側から痛みを発し、大きい太鼓を叩かれているようなほど、鈍い痛みが続く。


 痛みか引いてもフラフラとし、親友にソファに座らせてもらい。大きいため息を吐いた。


「生理です」


「なるほど。子供出来る体作りなんだね」


「言い方に悪意を感じます……頭が痛いので……やめてください」


「暗殺技能者が生理で弱るなんてなぁ。薬は飲んでないのか?」


「……そう言えば痛み止めがあります。鞄の中に」


「わかった……取りに行こう」


 僕は親友にお願いし……そして後悔することになった。何故なら……


「えっと、これでいいな?」


 取りに行った親友がガチガチに固まってしまっているのを見て……なにを見つけたかを察した。薬を飲んで……沈黙を殺すように聞く。


「見ましたか?」


「ああ、その。避妊薬と検査薬だね」


「お母さんが入れてたんです。必要だろうって」


「実は狙われてるのは俺の方?」


「勘違いしないでください……使い機会は訪れません」


「わかってる。流石に婚約してないのに……それは……早い」


「……」


 僕は考えてしまう。親友とそういう行為をするのだろうかと。出来るのだろうかと。だが、体は正直だ。既に子供が作れる所まで変化した。


 そういうのを想像出来なくはない体になった。


「……王子様は興味があるんですか?」


「男なら皆あると思う。特に好意があれば尚更。気を付けた方がいい。君は綺麗だ。他の男も狙ってくる。親友が俺に紹介しなかった理由はわかる。『自制心』を疑ったからだ」


「けっこう正直に話してくれますね」


「信用してくれてるからね。信用を裏切りたくない。あと……王族は卑怯が出来る」


「身分で迫る事とお金で迫る事ですか?」


「それは入口。一回でも許すと二度と忘れられない洗脳染みた最悪な事が出来る。王族は子孫を増やすためにある能力がある」


「……何ですか?」


「麻薬みたいに触れたら最後。それを話すのはちょっと女の子の前では憚れるが。気を付けた方がいい。本当に」


 聞いた事がある。呪いなのか、魔法なのかわからないが。優秀な奪う能力があると聞く。奪い、奪った者の関係者を破滅させる手段。政略結婚で王子を送り込み。毒で支配下にするような恐ろしい話を。


「だから、姫が政略結婚で好まれたんですよね?」


「そうそう、王子だと姫全員、王妃が狙われる。全員が王子の物になって托卵でそこの王家は絶縁する」


「恐ろしいですね」


「恐ろしい。妃、姫同士が争って国が荒れて気付けば滅ぶんだから。気を付けないといけないんだ」


「では、王子は大丈夫じゃないですね。近寄らないでください」


「困る!!」


 私は笑う。少し辛い痛みも引き、お腹を擦る。こんな僕でも子供出来る事を不思議になりつつも使う事ないだろうと思い。ちょっと私は……残念に思った。


 そう、何故か残念に思ったのだった。






 襲撃も何事もなく。ただただ、親友と過ごした夏は終わりを迎える。


「……夏、ありがとう。楽しかった。またね」


「ああ、またな」


 別れの挨拶とまた会おうと言う約束をして帰って来た家には母親がおり、抱き締めてくれた。


「おかえりなさい、あら……まだ生娘のまま?」


「覚悟も決めてないし、諦めてもいません」


「好意はあるのにねぇ」


「……」


「あら、本当に好意はあるのねぇ」


「うるさい……」


 まだ、僕にはその好意があるがどう言った物かを夏で確認出来ずにいた。


 どうしたいのか、どうなりたいのか。全然思い付かない。


「でも、楽しかった?」


「うん」


 しかし、少し素直になれた気がする。まだ偽ってはいるが……少し私を出せるようになった気がする。





 学園が始まる前に僕は自分のクラスに顔を出す。定期報告としてミルクというフワフワした令嬢に会いに来ており、警護隊員同士で報告予定だ。一人である僕はクラスに入り、先に来ていたフワフワした令嬢に挨拶する。


 学園は休みだが少しの衛兵と運動する子しかいない。校門は開いている。


「おはようございます。ミルクさん」


「お~は~よ~う。夏でずっと王子様と一緒だったんでしょ?」


「はい、無事でした」


「ふ~ん、無事だとおも~う。だって……『特殊能力者』でしょ~」


「報告上がってますね。そうです」


「そうなんだぁ~ふふふふん。魔法使いであんな良血は逆ににんきぃ~なの~。みぃ~んな彼が欲しくなってるぅ。殺すじゃぁない。そう……彼のミルクは金塊をうむぅ。最強の魔法血統」


「らしいですね。それが何か?」


「護衛はぁする。けどぉ~独り占めはゆるされぇなぁいのよ? 王子様の寵愛は王子様のミルクを独り占めする。それは魔法名家には不利益になる」


 突然流暢に喋り出し、殺気を感じてしゃがみ。スカートの中から魔法札を落として閃光を生む。元々首があった所に刃が通り紙を数本切られる。


「つぅ」


 高速で廊下に移動し、走って逃げると後ろから男性が追いかけて来る。特徴な細身の長剣は刀身が片刃であり、匠な鍛冶師による物とわかる。そう、斬ることに特化した『刀』と言う武器だ。学園にあっていい武器じゃない。


「僕を売ったんですね。彼女は」


 逃げる中で冷静に判断し、たまに追いかけて来る男性に棒手裏剣を投げる。だが、最小の動きで避けられて……僕は廊下の突き当たりに追い込まれる。そのまま、振り向き。僕は男と相対し、睨む。


「何者です? その刀を扱うには高い技術が要ります」


「答える義理はない。首を置いてけ」


 スッと摺り足で近付く。一瞬でも間合いに入れば首はなくなるだろう。僕が持つ暗器はバレない所で強いが正面からは全く効果はない。武器が魔法だけで無さすぎる。


「学園で、私を誘い込み。私を狙うのに目的が変わってるらしいですね。ええ、ごめんなさい『知ってました』。家族からね」


 私の言葉に摺り足が止まる。そして……雪粉が舞い。私の頬に触れる。刀を持つ男の背後に親友が立っている。僕の閃光で気が付いてくれたのだ。敵も袋小路である。


「彼女を殺そうとするのはいったい誰の差し金だね?」


「王子様……彼女は国母にふさわしくない。あなたと戦う気はないです」


「……ちょっとそれは。一方的な押し付けだよなぁあああああ!!」


 ピキピキと廊下が凍り、僕は先に窓を割って外に逃げる。男はしまったと言う表情をしているが手遅れであり、僕は戦闘音を聞きながら再度廊下の突き当たりへ行くと。男は両手両足を凍らされて手が出ずに震えている。


「王子様!! 目を覚ましてください!! どこの馬もわからない女です!!」


「そんな女に出し抜かれて、無様に刀の技術も俺に向けれず。惨めじゃないか?」


「王子様!! お願いします!!」


 妄信的な僕への悪意に、標的が僕に変わった事がわかった。それは邪魔者を消すために刺客を送るよくある方法。今回は切り札を使わずに捕らえる事が出来た事を喜ぶ。


「衛兵に突き出しますか? 王子様」


「いいや。衛兵も買収されてるだろう。彼は学園内生徒だけど。流石に金を積まれても許す事は出来ない」


「では、どうするのですか?」


「……犯人を教えてもらう。さぁ雇い主を教えてくれ」


 男が憎々しいと言う目で僕を睨む。だが、頬を親友に殴られ顔を捕まれて拷問される。


「げほ、王子様……」


「俺が質問してる。彼女を殺せば……お前の雇い主にチャンスが来ると思う浅はかさに従うお前。勝手に国民の意見を代表するような言い方。全てムカツクが許してやる。さぁ言え」


「……王族が汚される。暗殺者です、こいつは!!」


「自分の手で汚す気がない奴の方が今の時代。信用ならない……顔も隠すような奴だろう? しょうがない……棒手裏剣貸してくれメリーナ」


 僕に彼はいきなりスカートに手を入れて武器を奪う。私は「きゃぁああ!?」と言う悲鳴を上げて手で防ぐ。


「いい太もも」


「……」


 冗談なのかわからない。でも触られた瞬間驚いた声に恥ずかしくなる。


「かわいいだろ? 彼女は俺の婚約者だ」


「ま、まだ婚約者じゃ……」


「ははは。『まだ』ね」


「……」


 敵の前で余裕を見せる親友に呆れる。


「王子様……騙されてます」


「ふーん。鍛えられた人間って頑丈なんだ。気づいてないみたいだけど。君の腕……」


 棒手裏剣を右腕に刺して抜き。傷口から血が出る所が凍って行く。痛みはないのか震えた唇に「ひぃ」と言う小さい悲鳴が出ていた。


「このままだと凍って壊死して刀を掴めなくなるよ?」


「ま、待ってくれ。雇い主は!! ミルク・アッサム!! ミルク・アッサムだ!!」


「……わかった。ありがとう。行こう」


 僕は頷き、そして……ついていく時に親友が振り向いた。


「あっそうだ。忘れてた。凍り溶いてあげる」


 親友はそう言いながら振り向き。能力を弱めて凍りを溶かす。しかし、逆に溶かしても手裏剣の毒が彼を蝕み。痺れさせた。


「凍りは溶いて許してあげる。戦いを始めよう」


「……え?」


 親友の手には氷の騎乗槍。ランスが生み出され握られており。僕はわかった。ああ、許す気ないんだなと。そして彼もわかったようだが動けず。そのまま口を氷で防がれて騎士槍が貫かれる。槍は溶けて血と混ざり……犯行凶器が溶けてなくなった。


「……エグい」


「ああ、しないと極刑をしないと。同じように金で雇われる。君を殺そうとしたんだ。文句は言えないよ」


「ですね。ミルク・アッサムですか……」


 僕たちはクラスに戻るが彼女は居らず。手紙だけが残っており。親友が開けると……


 全ての顛末が書かれており、本当の雇い主が手紙に書かれていた。それは夜会で襲撃したあの顔を隠した令嬢の名前であり。親友は手紙を潰す。


「両家が君の敵らしい」


「わかってます。嫌われる家ですから」


「俺は大好きだけどな。逆に熱くなる」


 僕はいつから立場が変わったのだろうか? そして、私は頼った。そう甘えた。


 護衛対象に助けを求めるのなんて論外だ。だけど……


「怖かった。ありがとう」


 私は嘘をついて彼の気を引こうとする。そんな中で私の机に一枚の手紙に気が付いた。


『あなたの招待を知っている』


 私は急いでその手紙を隠す。胸の中に。


「何かあったか?」


「いいえ」


 胸騒ぎがする。本当に……





 僕は知らず知らず敵を増やしてしまったようだ。最初は反体制、反王政、反第一王子派だけだった。しかし、いつしか過激王子派、王子の婚約者組が増え。それらが直接……僕を狙う。


 男のままなら、大丈夫だった事が異性になって許されなくなる。


 そして親友は知らされてないようだがお見合い用に何人かの女性のプロフィールが作成され……それが令嬢たちに共有されているらしい。


 彼女らが刃を取った理由は夏休み。僕と親友の仲に危機感を覚えたからだ。そして、結託し排除に回る。驚いたのはミルクもその一人だった事だ。


 金持ちは王家の格を欲し、魔法使いは王家の血と王子の能力を欲し、多くの令嬢は王家の金を欲した。


 では、私は何を欲しているのだろうか? それはわからない。わからなくなった。思い出す時間が足りない。


「やって来ましたよ!! ミルク・アッサム!!」


 何故なら僕は今、手紙に書かれた場所。商家の投資で立った教会に一人で来ているからだ。学園が始まっている中で、僕はここに呼ばれた。


「ごめんなさい。彼女ではないわ。名前は伏せるわね。一応」


 教会は簡素なベンチを並べ、ステンドグラスに角の生えた6枚の羽根を持つ女神。剣を持つ女神。バットを持つ女神の像が鎮座して、その前の台座に腰かけて扇子で顔を隠している。


「お呼ばれしました。メリーナ・ダージリンです」


「そんな家、ないでしょ? メリル・ウォルブラッドさん」


 ついにバレる日が来た。私は胸を押さえる。胸の奥に鋭い痛みがした気がしたのだ。外傷はない。


 きっと、心の中の傷だろう。僕はそう判断する。


「いい表情ね。バレないと思った? あなたの死体偽造で多くは騙せたでしょう。暗躍するだれかに殺された。有名でしたものね。騎士顔負けの護衛さん」


 口を塞ぐ事も考えない。僕が狙われてる間は僕の責任である。皮手をはめて、深呼吸をする。


「はい、大正解です。僕がメリルです。では、知ってるでしょう、男です。ご安心ください。婚約者にはなれません」


 チクッと私の胸が痛み出すが僕は無視をする。


「すごい名演ね。でも、元々女の子だったのでしょう? 男の子は悪魔に見つかりやすく浚われやすい。密教では隠すために男装させてわからなくする。色々あるわ。でも、そんなどうでもいい話よりも問題は」


「なんでしょうか?」


「王子様があなたに婚約者候補として推している事が問題。正妻でありながら、愛妾も兼任する。私たちにおこぼれさえない事がわかった」


「………」


 僕には心当たりがある。私自身の唇に触れて確認する。


「確かに……好意を独り占めしてますね。ああ、チャンスを奪った」


 親友はずっと私の側を離れない。たまに令嬢が近付きいい表情で対応はしてもそれは社交辞令。心を開いたと言えない。影で彼女たちは『努力』しただろう。僕は彼女たちの努力を知ってる。


「髪を整え、化粧をし、体重を気にして、足の太さなどを比較し。親友の好みを調べて『一番』を目指す。報われない。私が居ると……あなたらは……そういう事ですね」


「わかってるじゃない。そう、私たちは期待をされてる。だからこそ動くの……では、交渉内容はわかるわね?」


 ベンチに座って祈りを捧げていた騎士たちが立ち上がり、盾と剣を抜き。門を魔法で閉められ閂がされる。逃げる事は出来ない。


「王子様来るといいわね?」


 僕は薬で男に戻っていれば良かったなと後悔し……そして、後悔したが絶対に出来ない事も考えた。


 女になるのに時間がかかった。男に戻るのも時間かかる。だけど……それ以上に親友の好意を無視できない。


 また、私が居なくなったら。また傷付ける。死にたくないと泣き叫ぶだろう。


「ああ、そうか。私は……」


 僕は思い出した。なんで大変なのに親友と一緒に居るのか。何でずっとこんな血まみれな手でも僕は大丈夫だったか。目を閉じれば瞳の奥に光がある。


 王宮内を嫌がる。満面な笑みを向ける親友がそこに居る。手を差し出し、死にたくないと泣いて言う親友が。


 騎士の剣が私に迫る。重騎士が私を壊そうとする。私も死にたくない。


 死ぬには……まだ早い。まだ任務は終わってない。私は……ああ、そうか。私は……死にたくないから弱くなったんだ。








 全て終わった。無我夢中でただ、普通に仕事をこなした。教会の床は血溜まりで汚れ、ベンチは私が掴んで振り回した結果ボロボロ。金属鎧の男達が倒れ、手首がないのも居る。


 手には刃がボロボロの騎士剣と大斧があり、投げ捨てて地面にへたり込み。天井を仰ぐ。


「……生き残った。ああ、生き残った」


 あの令嬢は何処かへ逃げたようだ。ただ、教会に一人で居ると閂で閉じた木の門がドンドンと音がする。


 遺体から、まだ使えそうな大斧を拾って閂を外す。すると内開きで血まみれの私は目の前の騎士を睨んだ。少し、身動ぎし一歩下がる騎士達の中に知った顔が見える。そして、悲しい表情をしてしまう。


 見られたくないと思うようになった。目の前に

居る親友が近付き、私はビクッとする。


「大丈夫だった……みたいだな。遺体を回収。何処の者かを調べてくれ」


「…………どうしてここに?」


「学園で登校せず。何処にも居ないから探した。アッサムの家に向かい。聞いたらここに居ると聞いて……騎士を集めて来たけど……手遅れだったな」


「……ミルク・アッサムから何か聞いてますか?」


「いや、何も……」


 私は覚悟を決める。もう、女性の姿のままでは親友に迷惑しかかけない。わかっている……わかっているのに……


「……ごめんなさい」


「君は悪くない」


 親友は近付き抱き締めてくる。それが僕を殺す。


「……ごめんなさい」


 私は彼の腕の温もりに甘える。血で汚れた体を抱き締める親友の器の大きさに私は甘え目を閉じて緊張が切れた。







 私は……ナイフを両手に持って腹を刺す。誰の腹を刺しているのかは顔を見てわかり。綺麗な青い瞳に瞳孔が開いた状態で睨んでいる。だけど私は手を緩めず。僕を殺し続ける。


「学園終わったら戻るつもり」


「必ず戻ると決めた」


「……君は僕だ」


 血を流す口から僕は囁き。私を睨む。それに私は瞳にナイフを突き入れて抉る。


 容赦なく、何度も何度も刺して、刺して黙らせようとする。


「バレたんだ。もう隠す必要ないじゃないか」


「黙れ!!」


 口にナイフを刺しても耳に声が響く。


「何がいけないんだ? 僕は親友と……」


「あああああああ、うるさいうるさいうるさい!!」


「……君がこのままだと」


 僕の表情が変わる。顔の刺し傷もなくなり、親友の顔が口を開く。腹には私が刺したナイフがそのまま残り、血を流して血の涙を流す。


「なんで、俺を騙した? なんで俺に秘密にしていた?」


「ああああああああああああああああ」


「何で、殺そうとした?」


「してない!? そんな、違う!? 私は!!」


 首を振って後ろに倒れる。胸ぐらを捕まれて私にささやく。


「大嫌いだ。君の事」


 それは……私にナイフの如く鋭く刺さり私は痛みで泣き叫んだ。泣き叫んで……居ると明るくなり。見まれた天井を見て震える。ろうそくの明るさだけで照らされた天井に私は笑みを溢した。


 夢だった事を知り、安心する。そんな私の瞳に触れる人が居た。涙を拭う優しい手の主と目が合う。


「お目覚めか?」


「てるさま……?」


「激戦で緊張がほどけたから気を失ったんだ。全力を何十分だったかな。すごく暴れたのはわかるな?」


「えっと……はい」


 落ち着き、私は頭が回り出す。だが、怖いため親友の服を掴んだ。そのまま悪夢を見た事を漏らし……


「私の正体が皆にバレてるようです。隠してたんですけど。あらゆる方法で導いたようです。だから、苦手とする騎士を用意したみたいです」


「よく、死ななかったね」


「二度と悲しい思いをさせたくなかった……死にたくなかった。隣に居たかった。でも、もう終わりです。正体……お教えしなくちゃいけません。私の過ちを」


「……俺は聞かないが。そろそろ、俺抜きで勝手にされる事は嫌だな。それを聞いて関係が変わるのか?」


 私は頷く。絶対に変わる。どんなになっても。


「わかったなら、俺は今から最低な事をする」


「何を?」


「わかるさ」


 頬に親友は手を添えて唇を繋げる。何か、薬を押し込まれ私はそれを吐き出そうともがくが力が入らない。


「んぐ!? んんんん」


 舌で溶ける薬は苦い。だが、これがいけない物だとわかっても私は抵抗出来なかった。飲み込む事しか出来ず。ビンタしようとしてもペチっとだけ音がする。


「親友が本気出してその後に介抱してたから。知ってるんだ。弱くなる事を。俺に幻滅していい」


「だ、ダメ!! 絶対後悔する!! 絶対に!! 悩む!! ダメ!!」


 声で静止をお願いする。それしか出来ない。


「教えてくれる前にだ。今、教えてくれないんだろ?」


「あぐ……」


 私は……僕を殺そうとしている事を教えたくはない。だが、しらないと彼は過ちを犯す。


「まぁ、最悪最低な王子様だからな。文句は後で聞く」


 私の足は震え、動かない。ただただ……本当に少女になったように。






 早朝、私は一人で起き上がり。寝間着姿で立ち上がる。親友が居らず。慌てて、棚にある男に戻る薬を取り出した。


「飲まなくちゃ」


 そう思うが、私はそれを口につける勇気がわかない。


「うぅ……」


 昨夜は親友に酷い事をされた。あんなに酷い事をされ嫌になる所か。私は余計に……


「戻りたくないよ……戻りたくない」


 親友に確実に僕の心は止めをさされ殺された。







 

























 


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