私(僕)は彼(親友)の肉体派令嬢(ボディガード) 。だけど親友にとっては……婚約者候補!?

水銀✿党員

第1話・私(僕)は彼(親友)の肉体派令嬢(ボディガード) 。だけど親友にとっては……婚約者候補!?


 ある日ある日、僕ことメリル・ウォルブラッドは頭を悩ます出来事があった。それを考える前に何故こうなったか振り返ろう。そう、僕は立派な要人警護を得意とする暗殺者一家の裏切り者の家に生まれた。


 厳しい厳しい英才教育。苦しい苦しい薬物耐性をつけて一番初めに仕事が生まれたのは……王家の第一王子。年も近く同年生まれのエリートの護衛が始まりだった。


 懐かしい初めて人を殺ったあの感覚。華々しい活躍にすぐに僕は彼の護衛となった。


 年も近い事も重なり、いい友達。大人の護衛を出し抜く遊びの数々で仲良く怒られ、仲良く危機にも陥った。


 そんな子供だった僕たちも大人への準備する時期が訪れた。そう、学園入学である。エリート貴族のみ入れる教育。いや、エリートが入校断りが多い中で受け入れてくれる少ない学園の一つ。もちろん護衛として僕も入学することになったのだが。


「反政府、敵勢力からの暗殺者」


 父親から聞く新情報。新事実。そして、第二王子以下の勢力争い。僕の親友には多くの危険が孕んでいた。


「ずっと護っている訳にはいけない。『見せしめ』が必要だと王も言っている。やりすぎたんだ奴らは」


 王の耳さえ入る腐敗、それを正そうとする勢力筆頭の重要人物に親友がいる。親友は王の寵愛を受けている。それほどに期待されているのだ。まぁ、趣味が合うと言うのもあるだろう。


 故に一緒に入学し、一緒に学園生活をすると考えたのだが……


「お前は令嬢として挑め。遠くから眺め敵を排除する側にな。裁判所に『処刑人』として登録した。生与奪を託すぞ。頼んだ、未来のため」


「はい、畏まりました。あの……令嬢と言う言葉が聞こえたのですが……」


「そうだ。我が家の秘薬。潜入捜査、暗殺するための薬だ。お前は性別を変えて潜入しろ」


「!?!?!?!?!?」


 僕の疑問に父親は笑う。我が家の暗殺者として伝説級に活躍した理由。作戦予定に腕の立つ暗殺者が必要だった。


 そう僕は遊撃隊として期待されているのだ。


「顔を割れている男のお前は出すのは囮として有能だろう。しかし、それは同時にお前を危険に晒す。それでは100%の力を出せない。絶対に仕留める確率をあげるための苦渋の決断だ」


「……あいつは……テルになんて説明すれば……」


「それは王と私で話をする。申し訳ないが……数年間身を隠せ」


 思い出す。父親の冷たい決断に僕は仕方ないと思いつつ批判混じりで私欲で罵った。暗殺者としては二流の感情に動かされると言う最悪な方法で。


 そして、薬を飲み諦めて学園に令嬢として潜入した。偽名はメリーナ・ダージリン。一応、上の名前が本名と近いのは変な反応をしないためだ。メリルと言われて反応してもメリーナなら聞き間違えで誤魔化せる。


 偽装のために色んな手法、偽装書類が出来上がり。そして入学。制服のドレスに……親が用意した慣れない下着に苦しめられ。仕事だと割り切って心を殺して今に至る。


「……」


 何度思い出しても悪夢だった。そして僕は……


「ぼ、私はメリーナ・ダージリンと言います」ニコォ


 愛想笑い、悲しいほどに演じるたびに心が悲鳴を上げた。


 苦しい自己紹介も済み、私は作り笑顔で待っていると。声をかけてくれる。


「メリーナ・ダージリンさん。よろしくぅ~」


「よろしく、ミルク・アッサムさん」


 目の前の同業者。情報屋の娘と偽装友人を演じる。目的は仲のいい友人を作り浮かないようにする事。彼女はふわっとした無害そうな風貌で天然のような素振りを見せる。情報屋の娘と言われるのは柔らかく無害そうだからベラベラ喋ってしまい。秘密を握る役だからだ。なお、秘密機関員。伏せられている。


「学園~生活~ふあんですねぇ~」


「え、ええ。そのお趣味は?」


「しゅみはぁ~人間観察ぅ~野球観戦だよぉ~」


「同じですね。野球観戦」


 口裏合わせの野球観戦仲間。野球観戦は女性では珍しい趣味であると思われているのを逆手に、人が入りにくい空気を出せる。


「どこぉがすきですぅ?」


「えっと、スターズ………」


「じゃぅくしょぉう~と~ら~のおやつぅ」


 口裏合わせだから許しているが一発殴っても怒られないと思う。


「あなたは何処ですか?」


「そんなのもちろん~がおがおだよぉ」


「334……面白い球団ですこと」


「………」


 大人しい令嬢の額に皺が寄る。やり返した。口裏合わせの趣味なのに何か変な気持ちだ。


「さすがぁ~ぷろぉねぇ」


「なんの話かしら?」


「うんぅ。にわかぁ~じゃぁないなぁ~って」


 女声で女性ぽい喋りをするなんて……なにかムズムズする。


「でもこれでわかったわ。同じ趣味だけど『宗教』が違うわね」


「そうぅ~ねぇ~」


 仲良くする振りをし、二人で行動して。目標を護衛する。彼女と話してスイッチが入った気がした。


「仲良くしましょう」


「はぁい」


 柔らかく左右に揺れる彼女に握手する。そしてぼくたちは最初の任務についたのだった。






「居ますね。テルが」


「そぉうでぇすねぇ~変わった髪色」


「そりゃ、白髪がもうあるからね」


 廊下の先で人だがりが出来ている。親友とは、親よりも深く親の知らない事を共有する間柄を差すと僕は思う。故に一緒に学園生活(男で)出来たら良かったと思うが。それは子供の意見である。目の前で新たな学友と楽しそうに笑ってる姿にモヤるが。それは仕方ない事だと割り切った。


 スカートの中に隠した。暗器の六角手裏剣魔法付き毒塗りをポケットから確認する。棒のスカートにはポケットから足に直接触れられる穴が開いている。


 スースーするスカート。だけど動きやすいと思った。布が少ないだけで邪魔になりにくいんだと。


「ねぇ~本当に~いるぅのかねぇ~暗殺者~」


「……あの学友ぽい人がずっとズボンに手を入れてます。動きもゆったり。臭うんです」


「近付いて確認してみまぁしょぉ~」


「大丈夫? 戦い?」


「だいぃ~じょぉ~ぶぅ~。だってわたぁしぃ~」


 頭を指差す。そして納得した。


「亜人ですぅもん」


「そうか、羊の亜人か」


「……悪魔ぁ~悪魔まぁ~」


 人ならざる者。昔は少なかったが今は多くなった人種だ。彼女の意見に従い……僕は親友に近付いた。近付き睨み付けられてアタリだとわかる。手が早いと思いながら人だかりに身を寄せると。


 ビシッ!!


「つっ!?」


「!?」


 一人の男に首筋に針を刺される。毒の針を刺された僕の反応に驚いた男の顎を拳で殴り足を不自由にし、左のポケットからメリケンサックを取り出し腹に深々と殴りつけ。メリケンサックを隠す。


「ぐおっ!?」


「……あらぁ。もぅ~仕留めるぅ」


 騒ぎが起き、一体何事かとざわつく。親友もその騒ぎを冷ややかな目で見ていた。大人しいその背後でズボンの男が動き、僕はスカートの中の足にある。六角棒手裏剣を魔力を込めて投げた。魔力は『私意の向き』『人の目に映らない』『当てた相手に毒を入れる』を込めた特注であり。ズボン男の手に当たり、小型のナイフを溢す。


「あらぁ、おみぃごとぉ」


「初日から来ますかふつう…………」


 愚痴を溢し、慌てる男子生徒に近付いた。周りは悲鳴をあげる前に起きた出来事を理解せず。ただただ僕は目立つ。これが、僕が女に偽装した理由かと納得する。あまりに予想外な動きに対応出来てなかった。


 きっと僕に針を刺したのはたまたまだった。痺れて動かない令嬢に慌てて介抱しようとした隙を突くために。


「ふむ。お見事。知らない君」


 そんな焦ってもいい状況で親友は冷徹な笑みを浮かべて軍靴で痺れる男の首を蹴り、倒れた男の胸ぐらを掴む。


「おい、雇い主は誰だ?」


「……」


 もちろん言わないだろう。僕は立ち上がり、殴って苦しんでる男を監視する。数分後に衛兵が現れて身柄を渡した。周りの学友、令嬢は距離を取り続ける。


 殺さずに吐かせるために連れていかれる二人は叫ぶ。


「俺たちだけが!! 狙ってると思うなよ王子様!!」


 負け犬の遠吠え。だけど、情報は得た。複数人まだ居ると言うことを。落ち着いたと思い親友に声をかける。


「お怪我はございませんか? 王子様」


「ああ、君のお陰で大丈夫だった。動きが早くて油断したよ。護衛と離れてはダメだね?」


「……」


 そういえば親友の友のふりした護衛がいない。


「王子様、護衛をお付けください」


「……残念だけど。護衛が上司の命令で離れた瞬間だったよ。偽装工作にまんまと引っ掛かった。まぁ同じ年の学友でそんな立派な護衛も珍しいしなぁ。まぁ怒らないよ。完璧にはなれない」


「………」


 ああ、親友だなぁと思いながら僕は一礼する。僕が王子側だと即効バレてしまった。それにしても素晴らしい蹴り技だ。


「待って。君のような腕利きを親友以外に初めて見た。名前だけを聞かせてほしい」


「メリーナ・ダージリンです。王子様」


「ミ~ル~ク・アッサム~でぇ~すぅ」


 ミルクが入りこんで自己紹介し、不思議な空間になる。柔らかい脱力する雰囲気。それに親友は笑う。場所を移すべきかと考える。皆の視線を集めている。


「愉快な二人だね。名前は覚えた。顔も覚えた。君たちが護衛騎士だね」


「はぁい」


「はい。外からの監視を担当させていただきます」


「そうか、でっ……君たちに依頼したい事がある。少し来てくれないか?」


 唐突のお願いに僕は首を振る。


「わかった。立派な仕事人だ。父に報告しよう」


「はい、ありがとうございます」


 親友は溜め息を吐き。背中を見せる。僕は首の傷を治療し、同じく溜め息を吐いた。バレるかと緊張した。流石に親友に見られるのは恥ずかしいし、気持ち悪がられるだろう。


「ミルクわかちゃった」


「何が?」


「王子様……実は強い?」


「……まぁね」


 良血なのだ。魔法使いでも。そんな親友の背中見続ける。そして……誰も近付かなかった。







 事件後から数日がたった。令嬢として生活は息苦しい。家に帰ってはすぐに寝間着に着替えて『俺は男だ』と言わないとやっていけないほどにストレスがかかった。トイレの時など特にあの象徴がなく悲しい気持ちになり。大きくなる胸を触って嫌悪感を抱く。


 変わりゆく体に溜め息が募る。いつか薬を飲まなくていい日が早く来ることを願いながら。青い星のチームが負けてふて寝する。打線はいいんだ。打線は……なんで勝てないんだよぅ。


 そんな日々に父親から話があった。慌てて、僕は父親の言う場所に向かい、集合住宅型屋敷の一室の中に居る人を見て背筋が冷える。


 魔法で隠された一室に王様と王子様、そして……父親が座っている。慌てて即興の令嬢風、ご挨拶をして父親の隣に座る。


「これが俺の隠し子で切り札だ。今回、いい結果になったな。王子様直々に御礼に来たぞ」


「ありがとうございます」


「ふむ、お前に似ずに綺麗な娘だな。母親似か?」


「ああ、母親似だ」


 王と父親は親しそうに話す。ナイトの叙勲を貰った父親と王は昔からの仲だそうだ。そして……親友は愛想笑いで話を合わせていた。嫌なんだね、そこ。


「王子様こんにちは」


「ああ、こんにちは。待ってたよ。お父さん少し話をするからいいかい?」


「ああ、いいぞ」


「ここの一室を借りた。くれぐれも話だけな!!」


 僕は鍵を借りて、嫌な汗を流す。こんなのどうみても……『お見合い』だった。親友に着いていき部屋を出る。鍵を借りたと言うことは恐ろしい想像が生まれて首を振る。吐き気がする。


「安心してくれ。別に襲おうとかそう言うのじゃない。『お見合い』に装って君に直接、話を聞きに来たんだ」


「そ、そうなんですね」


 『良かったああああああああああああ!!』と心で叫ぶ。間違いは無くて良かった。そのまま鍵の部屋に入り、僕は中の簡素な部屋の絨毯に座る。座って気が付く、飲み物を用意しないと。


「あ、ごめんなさい。飲み物用意します」


「いい、話が先だ。座ったまま聞いてほしい」


 親友が真面目な表情をする。僕はバレないように振る舞い続ける。


「実は俺に大切な親友がいる。名前はメリル・ヴラッドウェイで長男。君は知っているね?」


「は、はい。お兄さんです。最近まで知りませんでした」


 設定を思い出す。僕は今は分家の子だ。


「君は秘蔵っ子だろうからね。文献や君の出立は不明だ。逆に暗殺者として最高にいい状態。君の兄は護衛として顔が広くてね。それも俺専属の……呪いで鈍くなるかもしれないほど。当てやすい」


 そう、親友専属兼稽古役として仕事していたのだ。そして、もう一つ。人付き合いを上手くなるための練習としても。


「その親友が行方不明だ。俺に一言も言わずに手紙だけ残して遠い場所へ仕事に向かった。まぁ、もちろん。あいつなら潜入捜査は簡単だろう。だが、わざわざ俺の了解を待たずに動かした」


「お兄さんとは親友だったと伺ってます。学園一緒に行きたかったと」


 嘘は言ってない。学園でバカをしたいなと言い合った仲だ。


「そう、手紙でもそう書かれてた。しかし、俺は嘘だと臭うんだ。何かを隠されてると直感がある。親友を遠ざけないといけない理由とかあるのかと」


「顔を知られ過ぎたと聞いてます。お父様は流石に殺されたくないと」


「そんな甘い父親とは思えないけどな。俺は行方不明の親友を探してる。お父様にも文句言ったが護衛は奴じゃないと俺は嫌だ。他の奴が友人の振りするのは腹が煮えくりかえる。俺の事を知ったかぶりするから余計にな」


「苦情は承ります」


「まぁ、何が言いたいかと言うとあいつと青春を送りたいと思ってたんだ。バカな事をして笑い合って、王である父親が懐かしそうに学園の話を聞いてきた。同じ思いをしたいとな」


「わがままは困ります」


「子供なんだ。わがまま言う」


 親友のこんな感情は初めて見た。ここまで僕の事を気に入っていたのかと。


「だから、君にお願いだ。親友を取り返してくれないか?」


「……私では反抗するのは無理です」


「そうか。親友の場所ぐらいしらないか? お別れの挨拶ぐらいは……」


「あの、お兄さまの代理……させてくれませんか?」


 僕はつい漏らしてしまう。ハッとして頭を振り、発言意味を考える。


「お兄さんの代理?」


「申し訳ございません。お忘れください……」


「……お兄さんに文を送る事は出来るかな?」


「は、はい。大丈夫です。それなら許してくださいますでしょう」


「よし、わかった。なら、あいつに文句の手紙書くから、頼むな」


 僕は奇妙な約束をしてしまう。そして……これが苦悩の道になるとは思いもしなかったのだった。





 密談後、父親に呼ばれた。王とテルは帰り私だけである。煙草を吸う父親に嫌な顔をする。


「お前の事を王に話した。これからの事も納得してたな。そして……一応、釘は刺してくれるらしい。その気があっても大丈夫だと。流石にな」


「ああ、良かった」


「安心するのは早いぞ。残念だが、最初の試みでお前が確保した男二人は……消された。牢の中で首元を斬られて絶命。死人に口なし。犯人はわからない」


「杜撰な……なんで管理を」


「全くな……だからこれからもすまないが女性で潜入し、裏から護ってやってくれ」


「一緒に過ごす事になってしまったんですけど?」


「まーた気に入られたか、お前。本当に王子様に気に入られやすいな。男に戻すにも少し早すぎる。お前を調べてる情報屋が四苦八苦して、そのまま捕らえられてる。すまないがそのままだ。今回使った暗器と追加で欲しいの言え、用意する」


「じゃぁ……小型魔法カードをホルダーと共に。魔法カードは自分で魔方陣と魔力を込めます」


 同じ武器は読まれやすい。棒手裏剣の本数を減らし、インスタントで唱えられる魔法カードを小型化してスカートに隠す。スカートの有能なのは太ももに色んな装備を隠せる。


「分かった。手配しよう」


 僕はガッツポーズをする。カード型の魔導書は小型であればあるほど高価なのだ。使う機会なんて滅多にない。


「それと、お前に偽装用の隠れ家として数個鍵を渡しておく」


「はい」


「あとはそう。注意がある。女の状態であれこれやると薬で戻りたくなくなるから気を付けろよ。俺らの家はそれで性別変わりやすいんだ」


「わかりました。では、お家に帰ります」


 僕はお辞儀をし、息を吐き。そして……頭を抱える。


「手紙書かないといけないんだ……」


 面倒である。







 男と女で教室は違い、僕が出る幕はない。しかし、午後からは違ってくる。親友が露骨に構ってくるのだ。逆に護りやすいので楽ではあるが。護衛の立場が変わってしまう。遊撃隊再編が必要だろう。


「そういえばお兄さんとは話をしたの?」


「えっと、少し」


「俺の事なんか言ってなかった?」


「気を付けろって。すぐに遊び出す」


「それはお前だけだと面向かって言いたいが……居ないんだよなぁ」


 素直に知らなかった。ここまで常識人だとは……僕は知らない事を念頭に聞く。


「えっと。お兄さんとどんな事を?」


「護衛から逃げて。困らせたり、暗殺者にそこを狙われて死にかけた。一緒に毒耐性を上げるために揚げた毒蜘蛛を喰いあった」


「……」


 僕は悩む。驚くべきだろうが本当にあった事を思い出して溜め息を吐きたくなる。そういえば滅茶苦茶振り回されていた。


「女湯を覗き見しようとして親友に殴られたし、親友のおやつを盗み喰いして滅茶苦茶殴られたし、クッキーに塩入れて怒らして殴られたし……」


「ろ、ろくな思い出ないですね」


「いや、滅茶苦茶楽しかったぞ。油断するんだよ。親友、お前はおれの一番の友達っていい声で言うとコロッと騙される。アホだったよ」


「……」


 心当たりがあった。こんなことするのはお前が親友だからとか言い訳に。親友以外にしたらそれはそれでサイコ野郎だから安心はしていた。だが、殴るのはやめなかった。それとこれとは別である。どれだけおやつの隠し所を考えても、魔法で見つけてくる。そのせいで鍛えられた魔法たち。


「どうした。頭が痛いのか?」


「い、いえ。お兄さんのイメージが少し」


「ああ、俺が変なだけで。お兄さんはまともの優等生を演じたぞ。俺も真似はしたよ」


「大人に怒られることしてますよね?」


「それ以上に褒められる成績残してる」


 そう、そこである。いい成績残すのに変な感じが大人の目から『面白い子』として注目を浴びさせる。非常に悪い子。大人に都合のよい成績。


「本当にあいつ、何処に行ったんだよ」


「そうですね」


 隣に居る。


「それにしても、君。綺麗だね」


 ぞわっとした。距離を空ける。


「いや、露骨」


「ごめんなさい。男には慣れてません」


 男性恐怖症(自称)を演じよう。そうしよう。


「なるほど。じゃぁ、親友連れ出そうとした社交界へ一緒に行ってみようか? そろそろ体を動かしたい。狙った奴を捕まえるのが仕事だろ?」


「危ないです」


「葬式であいつを呼び込むぐらいには覚悟してるよ」


「……」


 勇敢と言うよりも、少し無謀で、それでいて運がいい。まーた僕は振り回されるのだろう。


「今、笑った?」


「お兄さんが苦労したと言う話を思い出しただけです」


「そうか。あいつがそんなことをなぁ」


 僕は……嬉しいのだろうか?


「そういえば君のドレス姿も見れるな。お兄さんに自慢してやろう」


「……」


 僕はやらかした。すっごーくやらかした。





 

 女の体で生活し、ドレス着用社交界デビューと言う波乱が目の前に迫り。僕はストレスで爆発しそうだった。


 仕事と割り切るには、一日ずっとは難しい。故に僕は休日に禁忌を犯す。


 女の子の姿でスイーツ専門の貴族御用達。美味しいパフェを作っている店に『一人』で来たのだ。


「男のときは流石に恥ずかしくて入れませんでしたが……今なら……」


 そう、ストレス発散のため一人で店に入った。中は広く、そして美味しい甘い匂いにうっとりしながら。店員に席を案内して貰い。苺を豪快に使ったパフェを頼む。魔法で動くポットから紅茶が注がれ、先入れミルクのカップに入り混ざり綺麗な白い暖色になる。


 一口飲むと身体中からストレスと言う名の凝り固まった魔力が抜け落ちるかのような錯覚が起きて……大きな溜め息を吐いた。


「ああ、楽しみですね」


 ワクワクしている中で僕は親友の手紙を読む。内容は僕の事が書かれていた。『お前の妹は美人なんだな』から始まる日常のあれこれに申し訳ない気持ちになる。


「ああ、ここで読むものではなかったですね」


 そう、気持ちが滅入るのはやめよう。手紙を手持ち鞄に隠す。


「お連れ様ですね。こちらへどうぞ」


「ありがとう。えっと……やぁこんにちは」


「こんにちは……えっ!?」


「君が窓際に座ってるの見えて嘘をついてここに来たよ」


「なんでお、おう………トル様が!?」


 僕は目の前に座ってる親友に驚く。


「いや、親友が好きな店だったから。ケーキを買いにくるついでに情報を、この肖像画をスイーツ屋に見せては聞き込みしてるんだ。こっそり王宮を抜け出してね。まぁ、今日は君とのデートと嘘をつくよ」


「は、はい」


 親友の索敵範囲内だったとは思わなかった。親友も紅茶を頼む。


「親友と同じ甘いのが好きなんだね」


「は、はい。お兄さんに教えて貰った店です」


「なるほどな。お兄さんはここのパフェを食べたいと願ったからね。奢ってあげるよ。手紙に書くから……『妹と行ったんだよ』とね」


「恥ずかしいのでやめてください」


「やめるよ。うん」


「ありがとうございます」


 僕はドキドキする。緊張で嫌な汗が出る。そんな中でパフェが運ばれ。親友が驚く。


「兄弟揃って苺が好きなのか。遺伝かな」


「お、お兄さんも好きなんですね」


「それはそうだね。苺が大好きだった。男なのにかわいいと大人には評判だった。演技かと思ったら『素』でバカにしたなぁ。女々しいと」


「ひどい人ですね」


「そりゃ、くっそ甘くて優しい親友相手だからな」


 親友の口から聞かされる。本人の話はこれ程恥ずかしい物かと狼狽える。暗殺一家の精神訓練にはもってこいの羞恥心トレーニングだ。苺のパフェの味が唯一、逃げる選択肢をおさえてくれる。


「まぁ、君が普通にスイーツ好きならいつかあいつに出会えたら言ってくれ。待ってるってな。お前の席は空いてるぞと」


「わ、わかりました」


 本人、目の前に羞恥心はないのだろうか? ないだろうなぁ。心臓に毛が生えてる。心霊現象見たいからと入った廃屋で普通にビビっても出会って喜んでたしな。


「にしても、明日楽しみだね」


 僕はスプーンをへし折ってしまう。思い出した社交界に対するストレスがぶり返したのだ。







 僕の母親は今の僕の姿を気に入る。綺麗な青い瞳に僕の瞳は母親譲りだと何度も思わせる。それぐらい、血が濃い。


「流石、私の娘よ。これで男を捕まえて情報引き出せるわ。終わった後は思考が弱くなってペラペラよ」


 母親の言葉を聞きながら親友はそんなことせずともペラペラ喋る事を考える。


「まーた、王子様の事を考えたでしょう」


「………」


「顔に出やすいのは……二流のお父様似ね」


 ぞわっとする。しっとりした物言いに僕はなすがまま。髪と化粧を施される。


「私が育てた子には思えない」


「……」


 息苦しい、首に手が延びている。


「でも、その眼は私譲り。怖いけど……『他人ごと』で殺せる眼」


 僕は気が付く。鏡の僕は怖がっておらず。母親の手を掴んでいた。


「合格、体が覚えてる。良いことよ、反応大事」


「……お母さん思い出しました。ありがとう」


「いいえ、何も考えず仕事に集中しなさい。油断しちゃダメよ。見てるから、ずっとね。見てるから」


 僕は囮(エサ)になったのだろう。お母さんの。


「………エサはどっちかな、お母さん」


「ああ、ゾクゾクする。いい子よ本当に」


 僕の母親は歪んでいる。綺麗な顔にべったり貼られた魔物を連想した。





「わざわざ、私を迎えに来ていただきありがとうございます」


「なに、気にしなくていい。大切な大切な親友の忘れ形見だ。本当に君は親友に似ていて思い出させてくれるよ。青い宝石のような瞳がね。それに……ドレスが似合ってて素直に眼に優しい」


 社交界デビューの付き添いに親友が立候補した。親友の妹に悪い虫がつかないようにと配慮して。もちろん心のなかで一番悪い虫なのは君だろうとツッコミはした。言えない事がもどかしい。竜が引く馬車の中で悶々としていた。


「褒めていただき、ありがとうございます」


「何か他人行儀だね。もっとフレンドリーに話してもいいよ。青い星のチームについても聞いてあげる」


「でしたら、なんで買ったんですか? なんでいつもいつも選手を奪うんですか? なんでですか?」


「それはお父さんに言ってくれ……文句つけようがない。それにあれはボーナスだ。活躍した選手に対する。払えないのだから……仕方がない」


「むぐぅ……成金球団!!」


「成金じゃなくて元々お金を持ってる球団ね。なんで、あんな弱いチームが好きなんかね。君もお兄さんも」


「……」


 小さい頃に見たチームが青いチームだった。それだけの事だが、子供にとっては運命的だ。それに強いチームに勝ったと言うだけで好感度が上がる。


「……いつか必ず。金持ち球団になって選手が出ていかない。いいチームになるんだ」


「俺が生きている間に見れるといいね? もちろん、今年も優勝はあのチーム」


「……」


 親友のこの表情がすこぶるムカつく。そして、悔しい。


「そう、落ち込まないでくれ。仕方がないじゃないか、父親がチーム持ってるんだから。まぁ、許してもらえるように生試合のチケット。用意してあげるから」


「見に行けたら。その日に入れるチームです……」


「……」


「……」


 親友の表情に汗が浮かぶ。珍しい親友の焦った表情に僕はニヤリとしてしまう。たまにはいいだろう。今を楽しんだって。


「うぐ、ひどい、ひどいでづ。お兄さんに言いつけてやる」


 嘘泣き。もちろん効果はよく、親友はもっと焦り出す。


「ご、ごめん。親友はもっと突っかかって面白かったからつい。よし、グッズを買ってあげよう!!」


 ピンっと泣き止んでしまう。嘘泣きだが、顔をあげる。それに安心した表情の親友は胸を撫でる。


「良かった。あんまり物でつるべきじゃないけど。焦ってそういう手段しか思い付かなかった。しかし、約束だ。一つだけ用意しよう。」


「……二つ」


「わかった。二つな」


 親友のこの豹変した優しさに驚く。全く知らない面の親友、女性には優しい親友に僕は新鮮な気持ちになった。知らない事を知るいい機会だったかもしれない。


「ありがとう。楽しみにしてます」


「……ああ、親友はグッズのバットで喜んで。それで襲撃者倒してたな。たまたま手元にあった武器がそれだった」


「へぇ……」


 親友がその話をし出す瞬間、思い出して赤面する。


「そしてバット折って、すっごーく悲しい顔を今でも忘れないな」


 僕は悶絶したかった。叫びたくなるのを堪えて静かに笑った。ごまかすように。社交界耐えられるかなと思った。





 社交界。それは業界人が人脈づくりのために開かれる舞台。婚約者や、多くの縁を紡ぐ場所である。親友と出会った場所でもある。


 親友とは出会ったきり一回も社交界に顔を出していない。故に……そう。珍しいことだったのだろう。


「こんにちは王子様」


「王子様……私はこういう者です」


「トル君が珍しい……」


 人だかりが出来上がり。金属プレートの名刺を交換する。親友は一度覚えた顔を忘れないほどに記憶力がよく……2回目だと、名刺を断り、人離れした能力を見せつけた。もちろん覚えて貰ったと喜ぶのだから……良いことだろう。そんな人だかりの付き添いとしてもちろん僕にも話が振られる。


「君は?」


「ああ、親友の妹君だ。悪い虫をつけたくなくてね。社会勉強として連れてきた。人見知りだからお手柔らかに」


 親友の大人な対応にド肝を抜かれる。暴れ回ってた親友が大人しい。


「お兄さんが言ってた。大人にかみつく人って」


「いや、君がいる前でそれは出来ないよ」


「……」


 『本当に僕の前だけの姿だったんだね』と呆れつつ。社交界はすんなりと馴染み。僕は親友がわざわざ持ってくるスイーツを食べているだけになった。空気を読んでくれるのか非常に厚遇で驚く。人の目が僕に向けられるぐらいには目立つかもしれないが、それでも問題なかったほどに。


 もっと声をかけられるかと考えたが、そんなことは無い。逆に仕事がしやすい。臭う、刺客の臭い。


「少し、夜風に浴びないか?」


「はい、でも危ないです」


「君がいる」


 そう言われ僕は親友に近付き、周りを見ると伺っている人と目が合う。腕を引っ張られながらテラスに顔を出すと綺麗な双子月が空に輝いて浮かんでいる。テラスに呼び出した理由はきっと……


「まだ若いのに思い出話をしたくて君を連れ出した」


「……お兄さんのことですか」


「もちろん、出会ったのは自分の社交界デビューだ。兄弟がみーんな殺されてる中でだ。恐ろしいね」


「……ですね」


 一応護衛は居た。だが、残念ながら負けてる。犯人も見つかってない所から、騎士団の権威も揺らいだ。治安悪化もあった。


「君の手紙にも同じ内容があった。社交界で思い出したのだろう。俺も思い出せる。親友との初めての出会いがそうだった」


 あの時は父親の仕事を見学するためについていった。もちろんスイーツばかり食べており、父親の護る王子だけを知っていた。そのままテラスなんて危ない所へ移動するもんだから父親代わりに慌てて付いていった。


「あの時は、つまらなかったんだ。だからテラスを出たら親友が現れて危ない注意をする。『事故で殺されるぞ』って。まぁいきなり現れて言うもんだから……おもしれぇ奴って思った」


 思い出すのはそのまま肩を掴まれて話をする事になった。まぁ、親友ばっかり話をするのを相槌打つぐらいで警戒はしてた。


「話を聞くのが上手くて。年近い子供だからつい全部を打ち明けた。まぁそれがきっかけで仲良くなり。そして……このテラスから逃げ出して親友になった」


 そう、僕がテラスから飛び降りて下の地面に降りわざわざ魔法で準備をした。まぁ元々、暗殺者が使う予定だった魔方陣をそのまま使っただけだが。親友があまりにもつまらない愚痴が酷く、また狙われていたので逃げ出したのだ。もちろん、大人に怒られた。父親からは褒められた。


「逃げ出して、悪いことして初めて俺と言う人間を理解したよ。知らない世界があることも、そのまま隠れて暗殺者をやり過ごすのは面白かった。鬼ごっこだな」


 捕まったら死ぬのに思ったが、つまらない人生にはいいスパイスだったのだろう。聞けばあれから精力的に動いていた。魔法も……多くの努力を見た。


「そして、今も。昔と変わらず。治安が悪い!!」


 親友がいきなり叫び振り向く。白髪交じりの髪が目立つ彼の横顔は真面目であり、その視線の先を見ると。一人の令嬢と数人の男たちがテラスを囲んでいた。令嬢は扇子で顔を隠しており、その眼は冷たい。


「王子様、その娘は危ないですわ。出生不明の平民上がり。ですが、ウォルブラッド家に出入りしてますわね」


「どちらさんかな?」


「……お教えするにはもう少し時間を。あなたの婚約者見習いですわ」


「婚約者は取ってないが? 俺狙いじゃなくて彼女狙い。削って削って自分を選ばれるように誘導する気だね。王子様の婚約者は変死するなんて噂が立ったら。だーれも居なくなる。そういう手だろ?」


「……」


 答えないが答えない事が肯定と受けとる事が出来た。


「没落する貴族は短絡的に走りやすい。残念だけど、彼女は殺られはしない。親友の妹だからね」


「王子様、王子様の隣に立つには少し汚れすぎですわ。王子様の気を引くために事件を起こした。事件を起こした犯人たちは牢屋で絶命。その娘の家が用意した劇場なのです」


「彼女は綺麗な体してるけど? ふーん、話が合わないな……」


「王子様……少し。眠ってください」


 交渉は出来ない物理的な解決をする状況に僕はドレスのポケットに突っ込もうとするが親友に手を掴まれて止まる。


「……どうして?」


「いい目だ。親友と同じ、躊躇しない目だ。だが今日は俺がエスコートする。ほら抱きつけ」


 命令されるまま。無理やり抱きつき、スッと魔法で転けさせられて姫様抱っこの状態になり。テラスから飛び降りる。降りた瞬間にふわっと浮遊して地面に足がつき、そのまま僕も立つ。


 親友は鍛えてるのかすんなりと姫様抱っこを許してしまった。


「魔法、お上手ですね」


「血統主義の王族だからね。極まってるよ」


 テラスを見上げると数人の男が同じように飛び降りようとしており、親友が慌てて僕の手を掴み走り出す。王子様が口笛を吹くと馬車の音がし、王族専用の従者が現れる。段取りの良さに驚くが、最初からそういう作戦だったのだろう。


 馬車に乗り、落ち着いた中で話を始める。


「……後は君の親が始末するだろう。俺達は逃げるだけでいい。社交界にもああやって動く者がいる。本当に自分で護らないといけない危ない時代だよ」


「助けていただきありがとうございます」


「…………ごめん。助けた訳じゃないんだ」


「では、どうして?」


「……かっこつけたかった。君は一人で切り抜けられるだろう。だけど今回、誘ったのは俺だ。そんな俺が最後までエスコートしないとカッコ悪いじゃないか。親友の妹に……いい顔をしたい。そういう気持ちだよ」


 ドキッとする。部が悪そうな顔で恥ずかしい事をスラスラと暴露し、照れた表情も見せる。


「ただ、君は不思議な子で。こんな事を晒して話してしまったよ。黙っていた方がカッコいいままなのに。ついつい、だらしない話をしてしまう」


「いえ、鍛えられてていい動きでした」


「親友には遅れを取らないように鍛えてるからね。負けないぜ」


「……本当にお兄さんが好きですね」


「違うな……それは、『大好き』だ」


 いい表情で、いい声で、『大好き』言われて顔が赤くなり背けてしまう。流石に心臓の音も聞かれたくないぐらいに狼狽える。


「……なんで君がそんなに狼狽してるんだ?」


「少し、恥ずかしい話だと思ったんです。すいません」


「まぁ、ちょっと熱い話だな………おっと」


 馬車が大きく揺れる。そして、親友が石を取り出して魔法文字を刻み天井に投げる。それは『加速』『貫通』『衝撃』が刻まれており、優しく投げた石が一瞬で屋根を突き抜けて何かに当たった。『ぐはぁ、ああああ』と断末魔が聞こえてグシャグシャと音がなる。


「やっば、馬車から落ちて死んだか?」


「……」


 僕は情けなくなる。あの一瞬、ドキッとしたから敵を見逃した事を。馬車に乗った敵を打ち落とした親友に腕の差を見せつけられたと。


「すいません……油断しました」


「先手必勝、親友の魔法と方法が役に立っただけだよ。確かに親友なら、乗られるまえに仕留めたかも」


 いや、流石にそこまでは……出来ないと思う。


「そういえば何処に向かって居るんですか?」


「今夜は危ないからね。安全に眠れる場所で王宮がある。ゴーレム徘徊してて安全だ」


「えっ?」


「ようこそ、我が家へ」


 僕は久しぶりに親友の家に招かれた。






 馬車に揺られながら、大きな騎士鎧を着たゴーレムが門を開け、王宮の中へ入り停車後に僕は降りる。懐かしい親友家に色んな場所を見て初めて見ました感を生み出す。


「物珍しいのはないよ」


「ゴーレムが」


「ああ、人間は信用ならないからね。ゴーレムは四六時中動けるし。魔力を補充してあげれば最高の労働者だ。簡単な命令だけなら最高にいい働きをする」


 僕はこの王宮が少し苦手だ。生きている者が少ないため、あまりにも変な気持ちになる。親友も割り切っているがあまりにも寂しい場所と考えており。住む場所ではいいが遊ぶには少し物足りない所だ。


「……ん」


「安心して欲しい……ゴーレムには敵では無いことの目印を君につけたから安心して欲しい」


「そ、そうですか」


 僕は冷や汗を出す。危うくバレる所だった。そう、ゴーレムが襲わない事が証明になってしまう所だったのだ。


「緊張しなくていい」


「わかりました」


 そのまま親友についていき、使用人に挨拶。その後に客室へと案内して貰い。そのままお着替えを借りる。ただ……違和感が強いには段取りの良さが思いの外いい事。


 服も寝るところも用意がいい。まるで最初から……準備していたようだ。


コンコン


「はい」


「失礼、ご飯はいらないね。冷えた紅茶の飲み物だけ持ってきたよ」


 水瓶を親友は持って現れる。棚からコップを出して準備をし、彼は椅子に座った。


「ふぅ、今日は大変な目に会ったね」


「はい」


 大変な目ならずっと会ってる。暗器を外す。そのまま机に向かい装備を並べた。


「少しはしゃぎすぎた」


「そうなんですか?」


「ああ、中々。面白いなと……」


「変わってますね」


「そう、変わってる。君も恐ろしい落ち着きようで」


 コップに注いだ紅茶を親友は飲み干し立ち上がる。僕は流石に安全と思い、外した暗器を机に並べ終わる。棒手裏剣だけは後で枕元に隠す予定だ。


「ん?」


 そんな僕に親友は肩をつかんだ後ろから。


「綺麗な髪だ。風呂を用意してる」


「すごく準備いいですね」


「それは、『狙ってる』からね」


「!?」


 僕はゾワっとして。振り向いた瞬間に…


「んぐぅ!?!?!?」


 奪われた。










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