第38話「判明した、さらなる事実(2)」


 冒険者ギルドで待機中のステファニーとも通信で相談した結果、この場での犯人追跡は諦めることになった。そもそも状況からして誘拐犯は安全圏へ逃走済みだろうから追跡は難しい、ってのがダガルガの見解だ。


 そしてギルドとしては、1度持ち帰ってから今後の対応を決定したいと。


 私もそのほうが無難だと思った。『エイバス中心街 商店連合会』の会長&手下が今回の誘拐事件を起こしたのは、スラピュータ普及の影響――スラピュータが広まったせいで冒険者向け商売の収益が大幅に下がった――なんだとか。

 ここでどう対応するかは今後のスラピュータ展開にも関わってくる大問題っぽい気がするし、下手に動くと事態が余計混乱しそうなんだよねぇ。




 唯一の心配はスライ2号。誘拐された私が捕まっていた建物内をひととおり探してみたけれど、私のスラピュータ2号が隠れた端末は見つからず。


 おそらく会長が連れていってしまったんだろう。

 最後に持ってたのはアイツで、それ以外は考えられない。


 だけど端末魔導具自体はすごく丈夫に加工されてて壊すのは難しいはずだ。それにしっかり施錠されてるから開けるのも難しいはずだし……心配は心配だけど、よっぽどのことがない限り2号自身は無事だとは思うんだ、たぶん。





 ***





 話がまとまってすぐダガルガが家まで送ってくれた。

 玄関前まで着いたところで、彼は心配そうに振り返る。


「……でよォマキリ、本当にギルドウチで保護しなくていいのかよ? 奴らの事だ。大人しく引き下がるとは限らねェ。また仕掛けてくるかもしんねェんだぞ?」



 確かに会長たちが相当怒ってたのは事実。

 さっきだってドラゴンの登場でうやむやになっただけで、スラピュータ問題は解決してないまま。再び襲われる可能性だってあるだろう。


 というわけでギルド側からは「当面の間、マキリをギルド内で保護させてほしい」との申し出もあったけど、いったん私は断ることにした。


 そりゃさ、ダガルガみたいに強い人の横にいたら安全は安全だと思う。

 だけどこんな事態になった以上、一刻も早くスライやヴィッテと話し合っておきたい。

 ダガルガたちと一緒じゃ、さすがに魔物スライと会うのは難しいもんなぁ。



「ありがとうございます。でもお気持ちだけで十分です!」

「そうか…………まァ気が変わったらすぐ言えよ? いつでも駆け付けてやるからな!」

「はい、その時はお願いしますね」


 ダガルガはニッと笑い、ギルドのほうへと帰っていった。

 




 見送りもそぞろに、1人残った私は急いで玄関ドアを開錠しよう……としたけど、その必要は無かった。

 玄関の鍵は既に開いていたのだ。


 とはいえ「出かける時、確実に施錠したはずだ!」と言い切れる自信はないし、もしかしたら忘れちゃったのかも。とにかく中に入ろう。




「ただいまッ!! …………ん? ヴィッテちゃん??」


 時刻は15時前。

 いつもだったら私が玄関ドアを開けると同時に、「おかえり~!」と元気に飛びついてきたヴィッテがおやつを催促し始めるのが恒例な時間帯のはず。



 だけど今日の室内はに静まり返っていた。


 1階のテーブルの上には描きかけの絵。

 それに色とりどりのインクやペン。

 前に一緒に出かけた時に買ったヴィッテ用のお絵かきセットだね。



「おや? インク瓶の蓋が開けっ放しだ。ヴィッテちゃんにしては珍しいなぁ……」


 よく見れば瓶からインクがこぼれちゃってるし、真新しい紙も床に数枚散らばっている。


 “王女様” なだけあって、ヴィッテは子供の割に行儀が良い。

 それは絵の道具に関しても同様で、私やスライが何も言わなくても几帳面に全部揃えて置いてあるはずなのに。彼女らしくない。


 いつもヴィッテが座ってる椅子にいたっては、乱暴に引かれたまま放置状態。

 お絵かき中に慌てて放り出して逃げたとでも言うんだろうか。



「でも “逃げた” って、いったい何から? エイバスの街って私が知る限り割と親切な人が多いし、ヴィッテちゃんを襲うような不届き者なんかいるわけ…………あッ!」


 心当たりはただひとつ。

 そう、会長たち誘拐犯


 彼らは私がスラピュータの作成者だと知っていた。

 だったら私の家ぐらい知っていても不思議じゃないし、私が不在の間に押しかけてきた可能性だってあるわけで。



「そういえば玄関の鍵も不自然に開いてたな。あれ、もしかして締め忘れじゃなく、侵入されたからなのでは……」


 考えれば考えるほどヴィッテは奴らに襲われたとしか思えない。

 無事に逃げ切ってくれてればいいけど、子供の足じゃ難しいだろうし。




「ま、まさか。ヴィッテちゃんも私みたいに捕まっちゃったんじゃ……!」



 ――カタ……



 が頭を駆け巡った瞬間。

 天井から聞こえてきたのは微かな物音。



「だ、誰ッ⁈」


 思わず手近のホウキを手に取り、階段のほうへと身構える。



 凝視すること数秒間。

 2階から姿を見せたのは……おなじみの魔物スライ


 ぴんと張り詰めていた緊張が、一気に解けた瞬間だった。

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