第37話「判明した、さらなる事実(1)」


 冒険者ギルドからの帰り道。私は見知らぬ男たちに誘拐され絶体絶命のピンチを迎えるも、なんやかんやで無事に無傷で生き残ることができた。


 もちろん完全に助かったわけじゃない。

 ほんとなら私も、ここから早く離れるべきってのも分かってる。

 万が一にも誘拐犯たちが戻ってこないとも限らないもの。


「だけど縛られたままじゃ、逃げるに逃げらんないのよね……」


 現在の私は大量のロープで椅子にグルグル巻きにされた状態。

 色々試してはみたんだけど、移動は実質不可能だった。




 ていうか、ここどこだよっ!


 屋根が崩れたおかげで、建物上空は確認できるようになった。

 だけど見えるのは雲ひとつない青空だけ。聞こえるのは風の音だけ。

 連れて来られた時は眠らされてたからそれ以外の情報は皆無。

 これじゃ居場所の判別なんかできるわけがない。


「助けを呼ぶにしたって、近くに人がいるかすら分からないし……誘拐犯とかが近くに潜んでる可能性を考えると、大声を出すのはかえって危険かもしれないんだよな…………でもまぁひとまずの危機は脱した気がするし、どうせ1人じゃ身動きできそうもないし、しばらくは静かに様子を見るか」


 そう腹をくくったら、何だかほわっと気が抜けた。

 あとお腹も空いたし喉も乾いた。




 最後に口にしたのは、ステファニーが淹れてくれた紅茶だったな。


 そういやギルドの近くで、美味しそうな焼き立てチーズパン売ってたんだよね。「帰ったらヴィッテと一緒におやつ食べるから」と思って我慢したけど……こんなことになるなら迷わず食べとけばよかった。


 チーズって、なんであんなに食欲そそるんだろう。

 こんがり焼けば香ばしい匂いが辺りにあふれて、とろ~りとろけたところをパクッとかじれば、口いっぱいに濃厚な旨みが広がって……。



 ……うん。

 なんか余計に空腹感が増してきたぞ。


 いったんチーズは忘れよう。





「それにしても、あのドラゴンって何だったんだろ……?」



 忘れもしない新鮮な衝撃ドラゴン襲来


 こっちの世界に来てから “魔物” と呼ばれる怪物を見かける機会は何度もあった。

 だけどさっきのドラゴンは今まで見たどの魔物よりも大きく、そして明らかに強かった。

 建物を軽く一瞬で半壊状態にしちゃったのに、全力って感じでもなかったよねぇ……もし本気だったら、たぶん被害は屋根と壁の一部だけじゃ済まなかった気がする。


 それに迫力もすごかった!

 目が合っただけなのに、本能的に「あ、これまずいやつ!」って命の危機を感じたもの。



「……気になるのはやっぱり『ドラゴンが何しに現れたか』ってことだよね。急に現れたかと思ったら、すぐに飛んで行っちゃったけど」



 今になって考えると、無傷で済んだのは全部ドラゴンのおかげだ。


 あの時、私は会長の手下に剣を向けられていた。

 スラピュータを回収をするよう脅されて、観念した私が渋々ながら会長の要求を飲もうとしたまさにその瞬間、いきなりドラゴンが現れて。


 誘拐犯たちが私を置いて逃げちゃった時は、ほんとどうなるかと思ったよ……。

 まぁ逃げてくれたからこそ剣で刺されず済んだし、怪我らしい怪我もしてないし、ドラゴンはすぐ飛び去ったし、危機は脱したっぽいよね。



「もしかして、わざわざ私を助けに来てくれた……とか??」



 思い返せばタイミング的には完璧だった。

 一般市民が悪党から剣を突きつけられてしまった直後とか、まさに映画の “ヒーロー登場!” って感じだよね!


 といっても、私にドラゴンの知り合いなんかいないはずだからなぁ。

 あんなに助けてもらえるような心当たりもないし……。





「…………いや、待てよ。よくよく考えたら私、に日頃ものすごくお世話になってるな」



 ――


 まさに人間離れした存在の代表格。

 神殿のイアンによれば、世界各地に神様にまつわる伝説が残っているという。


 直接会ったことはないけど、異世界初日に冒険者たちテオとタクトが私を助けてくれたのは “神様のお告げ” のおかげらしかったり、愛用の翻訳眼鏡は “神の名” を冠するチート級アイテムだったりと、どうやら何かと助けてもらってるっぽい。



 そういえばさっきのドラゴン、ピンクを帯びた銀色のウロコが光を受けてキラキラしてて綺麗だったよなぁ。

 あれがもし “神様から遣わされた救い” とかだったら……うん。違和感ない。


 まぁあくまで推測に過ぎないし、断言はできないけどね。





 ――……ドカドタドガドダッ


 静まり返っていたはずの空間に、妙な物音が響き始めた。




「えッ、何⁈」


 音は徐々に大きくなり……なんか段々近づいてきてないか?

 焦りはするものの、縛られて身動き取れない状況じゃ逃げも隠れもできやしない。


 これは地震? いや、足音だよ!

 ずいぶん乱暴な走り方だけど、いったい誰の――。





「マキリッ 助けに来たぞッ!!! ……おぉォッ⁈ どうやら無事みてェだな!」

「だ、ダガルガさん……!」


 怒涛の勢いで大剣片手に駆け込んできたのは、冒険者ギルドのギルドマスターであるダガルガだった。

 とても心強い味方の登場に、私はやっと一息つけた気がした。




 まずは縄を切って私を解放したあと、彼はすぐさまたずねてくる。


「おい! 会長どもはどこへ消えやがったんだ?」

「ダガルガさん、なんで会長が犯人だって知ってるんですか?」

「何って決まってんだろ? お前がスラピュータで連絡くれたじゃねぇか!」

「へ……?」



 犯人に捕まる直前、私は眠らされていた。

 そして目が覚めた時にはグルグル巻きに縛られていた上、私の端末スライ2号は会長に奪われてしまってたから、こちらから連絡なんかできるわけないんだけど……。


「……ちなみにどんな連絡が来たんですか?」

「おう、これがログだ!」



 ダガルガが見せてくれた端末画面には、私からのチャットが表示されていた。


 知らない男たちに捕まったこと。

 誘拐犯は4人組で、『エイバス中心街 商店連合会』の会長とその手下3人であること。

 スラピュータの回収をせまられて剣で脅されたこと。


 加えて私が知らなかったはずの現在地まで書いてある。

 ていうかここ、エイバスの街の中の我が家の割と近くなんだけど!



「送られてきたのは以上だな。ってかお前ずっと縛られてたんだろ?」

「ええ、まぁ」

「じゃあどうやって連絡してきたんだよ? この情報、お前のスラピュータから送られてきたんだぞ?」

「私の端末から……あっ」



 そうか、2号が連絡してくれたんだ!


 私の持つスラピュータ端末の中には、スライの分裂体で、私の “教育係” を自称する『スライ2号』が入っている。

 たぶん危機を察知した2号が、気を利かせてダガルガの持つ端末スラピュータへ連絡してくれたんだろうな。


 というかスラピュータ、“自動緊急連絡” に “自動位置情報送信” もできちゃうのか。まぁ本体のスライがむちゃくちゃ優秀だもんなぁ……これって今後のサービスに活かせる新たな事実な気がするし、あとでスライと相談してみようっと。




 とりあえずダガルガには、適当にそれっぽく説明しておくかな。


「……えっと実はですね、私の端末には実験的に “” を特別実装してまして」

「おぉ! すげェじゃねぇか!」

「まだテスト中ってことで私もどうなるか分からなかったんですが」

「そうかそうか! うまくいってよかったな、ガハハハ!」


 こちらもうまく誤魔化せてよかったです。




 それにしても2号、ほんとにありがとう。

 君が連絡してくれたおかげで命拾いしたよ……。


 心の中で2号へ特大の感謝を贈ったところで、ようやく私は肝心の2号の姿私のスラピュータが見えないことに気づいたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る