第29話「神様のお告げと、原初の神殿(2)」
ステンドグラス越しの日当たりも優しい昼下がり、『原初の神殿』の応接室。
紹介状の内容を確認した先輩神官から許可が下りたとのことで、この世界の『神様』については神官の少年イアンが教えてくれることになった。
新しく淹れた紅茶を上品にひと口すすってから、まずはイアンが口を開く。
「マキリ様、お預かりした紹介状によれば『神様について教えてほしい』と考えておられるそうですね! 何でも事情がおありだとか?」
「ええ、まぁ……」
確かに事情はある。
だけどいきなり “異世界から来ました” と言っても信じてもらえないだろうな……言葉を濁しつつ、嘘にならない範囲で状況を説明してみるか。
「その……
「とんでもない! こちらこそお越しくださり感謝しかありませんよっ」
「え?」
教えてほしくて来たのは私のほうだ。
どうしてイアンが感謝するわけ?
「神様の教えを広めることも神殿の重要な使命であり、僕たち神官はそのための存在でもありますから。最近は神殿を訪れる方も減ってしまいましたが……こうしてマキリ様がいらしてくださったのも神様のお導きでしょう。その素晴らしいお心がけに敬意を表し、精一杯お話させて頂ければと思います!」
迷いなく笑顔で語るイアンに、私はすごく “
仮にもし日本で初対面の人に同じことを言われたら身構えていただろうなぁと考えると、なんだか不思議な気分である。
だけどここは日本じゃない。
この世界の人々は神様の存在に疑問を抱いてないようだ。
私はまだ半信半疑なんだよなぁ……。
とはいえ少なくとも、現段階で神様の存在を完全否定しちゃいけないとは思う。
常日頃から『神の翻訳眼鏡』の超常効果にお世話になりまくってるし、冒険者たちが私を助けたのは神様のお告げがあったからだと言ってるし……なんたってここ
魔術や魔物も存在しちゃう別世界。
日本における常識は、まず疑ってかかるぐらいでちょうどいいのかもしれない。
まぁ全部疑ってかかるのは疲れそうで、なかなか難しいとは思うけどね。
***
神官であるイアンは、神様にまつわる話をたくさんしてくれた。
基本は各地に伝わる夢物語な言い伝え。
彼の語りが分かりやすかったこともあり、 “物語” として聞く分にはとても楽しかった!
ただし内容としては大半ぴんとこないというか、私の現状に関係あるとは思えないものばかりだったけど。
私が半分諦めかけていた頃だった。
「……古くからの言い伝えによれば、この『原初の神殿』は神様の救済が始まる場所だとされています。そして神殿に仕えておられる『神託の巫女様』をはじめとする数少ない人間だけが、
「ッ!」
聞き覚えのある言葉に思わず反応してしまう。
冒険者であるテオとタクトは、神様から “森にいる人間を助けてやれ” とのお告げがあったと話していた。このあたりを詳しく聞くことで、何か手掛かりがつかめるかもしれない。
「た、例えば…… “一般の冒険者がお告げを聞いた” みたいな例はこれまでにあるんですか?」
「はい! 各地に残されている伝承として、巫女様ではない一般の方が受けた神託にまつわる話が多数残されています。中には『神様のお告げを聞いた』という冒険者の方もいらっしゃるようですよ」
「そのお告げって、神様はどういう目的で出してるんでしょうか?」
「ん~……まだまだ新米である僕ごときでは神様の尊い御心を理解しきれていないでしょうし、目的を代弁するなど恐れ多くてできませんが……根底に “深い愛” があるのだけは事実かと! 神様のお告げにより幾度も世界が救われてきたという史実が数多く残されていますからね」
「世界が、救われる……」
先のお告げは「私を救え」というものだった。
もしかして神様には “私を救うことで間接的に世界を救う!” みたいに何かしら壮大な思惑があるんだろうか?
***
ひと通りイアンに話を聞いた私は神殿を後にした。
結果的には行ってよかったと思う。
興味深い話も聞けたし、お菓子もすごくおいしかったし!
そして帰りは待たせていた貸馬車に乗せてもらい、行き同様にトラブルなく街まで戻ることができた。
「ただいま~」
充実感たっぷりで我が家のドアを開ける。
1階キッチンで孤独に待っていたのは、
「……ど、どうしたの?」
私が慌ててたずねると、スライが体へと文字を表示した。
・・・・
>
>
>……マキリ。
>本日の冒険者2人組とはどのような関係ですか?
>旧来の知人と推測しました。
・・・・
本日の冒険者2人組……。
……ああ、テオとタクトのことか。
スライはスラピュータ内の分裂体越しに状況が分かるもんね。
「テオとタクトは私の命の恩人なんだ。この世界に来た初日に命を助けてもらったのが初対面で、今日は偶然の再会で……あ、でも別にそんな深い付き合いってわけじゃないよ? 2回しか会ったことないもの」
・・・・
>そうですか……。
・・・・
スライはそのまま黙り込んでしまった。
何となく、
思い返してみれば、スライが私の交友関係を気にしたのは初めてだ。
私がどこで誰と話そうが特に詮索してきた記憶はない。
だけど今日のスライは……。
……少し悩んだ後。
私は疑問をストレートにぶつけてみることにした。
「ねぇ、あの冒険者たちと何かあった?」
・・・・
!!
・・・・
珍しく動揺するスライ。
明らかに挙動が不審すぎるんだが。
「……
再度の質問を受け、スライの動きが止まった。
そのまま私のほうへと向き直り、そして文字を表示した。
・・・・
>あの冒険者は、ヴィテッロ様の父上の
・・・・
「へ……? それ、どういう――」
・・・・
>奴に相違ありません。
>
>
>……
・・・・
ただの私の勘違い。
スライは回りくどい言い回しが多いから、いつもの紛らわしいやつだろうと。
そう信じたかった。
そうであってほしかった。
だけど勘違いじゃないと気づいた瞬間――。
……目の前が、真っ暗になった。
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