第26話「冒険者への、市場調査(2)」


 エイバスの冒険者たちのニーズを調べるべく、冒険者ギルドに依頼クエストを出して協力者を募集することにした。


 そして依頼クエスト指定日。

 1組目の協力者として現れた冒険者パーティは、なんと私が異世界に来た直後に助けてくれた2人組だったんだ。





「あのっ、先日は本当に……本当にありがとうございました!」


 開口一番ぺこりと私が頭を下げると、金髪の男が笑顔で答えた。


「どーいたしまして♪ っていっても別にそんなたいしたことしてないけどね」

「いやいやいや! 私が命拾いしたの、あなたたちのおかげですから!」

「俺達のっていうか…………なぁ?」

「あ、ああ……」


 黒髪の男が気まずい顔でうなずく。



 ええっと……すごく意味深っぽいんですけど……?





「……何かあったんですか?」


 私がたずねると、ためらいがちに黒髪の男が口を開いた。


「実はあの日、あなたと出会う前にからお告げがありまして――」

「へ? 神様?」 

「だから、その……俺達が助けたというより、と表現したほうが正確なのかもしれませんね……」


 彼はゆっくり語り始めた。




 私が異世界に来た初日のこと。

 冒険者である彼らは元々依頼クエスト関連の用事があり、少し離れた村へと向かってエイバスの街を旅立ったという。


 直後に神様から “森にいる人間を助けてやれ” とのお告げが。


 とりあえず周囲を捜索したところ、魔物に襲われそうになっている私を発見。

 慌てて遠距離から魔術を放って救出したのだとか。




「……というわけなんです」

「たぶんあとは君が知ってるとおりだと思うよっ」


 あのあと状況を聞かれて、エイバスの街まで送ってもらって、家や仕事や当面の生活資金の面倒まで見てくれて。


 ほんと至れり尽くせり。

 2人には、感謝しかないよ……!



「あれ? でもあの時、お2人は街から旅立ってましたよね?」

「旅立ったねぇ…………で、無事に依頼クエストを済ませて、予定通りエイバスの街に帰ってきたのが3日前ってわけ」


 なるほど。

 元々そんなに長旅の予定じゃなかったんだね。


「それで君は元気にやってた?」

「はい、おかげさまで! 赤の石窯亭の皆さんも、家を貸してくれてるオーナーさんもすごくよくしてくれてますし……」


 ひさしぶりに再会した私たちは、しばらくの間、お互いの近況を報告し合ったのだった。





 ***





「で、他に聞きたいことはあるかい?」


 話がひと段落したところで、柔らかな笑みを崩さず聞いてきたのは金髪の男。

 神絵師のイラストから抜け出たみたいなイケメンっぷりは健在で、気を抜くと見惚れそうになっちゃうねぇ。



 ……そんなつぶやきは心の中だけに留め、意識的に頭をフル回転させて答える。



「えっと…………そうだ! “神様” ってどういう存在なんですか?」

「「!」」


 男たちの表情が困惑へと変化した。


「う~~ん、難しい質問だなぁ」

「でもお2人は神様のお告げを受けたんですよね?」

「そうなんですが……むしろ、説明がしづらいというか……」




 私自身は神様に会ったことないし、神様の存在すら信じ切ってるわけじゃない。

 だけど私の相棒メガネにはいつの間にか『神の翻訳眼鏡』という名前がついてて、異世界言語問題をことごとく解決してくれるすごい存在になっていた。


 そして冒険者な彼らが助けてくれたのは神様のお告げがあったからだと。てことは少なくとも神様は、この世界に私が飛ばされたのを知ってたのだけは確定っぽい。


 もしくはさ、そもそも飛ばしたのが神様の仕業な可能性も考えられるよね?

 異世界物作品でそういう描写って定番だし。



 考えれば考えるほど「“神様” は自分と無縁だ」って言い切れなくなる。だからこそ神様について知ることで、何か掴めるんじゃないかって期待したんだけど……。




「……そっか、神殿に行けばいいんだよ!」


 金髪の男が何か閃いたらしい。

 隣で「その手があったか」と黒髪の男もうなずいている。


「神殿って神様をまつるあれですか?」

「うんそれ! この近くに『原初の神殿』っていう場所があるんだよね。俺達みたいなじゃなくて、神殿に仕える神官達に聞いたほうが詳しく教えてもらえると思うぜ?」

「なるほど……」


 いきなり神殿と言われてもあまりぴんと来ないけど、“神官” っていうぐらいだから、きっと神様の専門家なんだろうな……うん、いい方法かも!



「じゃー、あとで神殿に紹介状書いとくよ!」

「え? 紹介状が無いと入れない感じの場所なんですか?」


 紹介状が必要となると、なんかすごく敷居が高いイメージだけど……。


「そんなことないよ!」

「原初の神殿なら『何も持たずに飛び込んだ人より、知り合いから紹介された人のほうが少し便宜を図ってもらえる可能性がある』という程度の軽い感覚でいいと思います。基本は誰でも入れる、初見歓迎な場所ですから」

「なるほど。ちょっと安心しました」


 近くにあるという原初の神殿。

 今日は時間もあるし、後で様子を見に行ってもいいかもしれない。




「……それよりさー、君、なんか用事があって依頼クエスト出したんじゃないの? 関係ない話ばっかりで時間が過ぎてる気がするけどだいじょーぶ?」

「やばっ……!」


 今日の目的は、冒険者にスラピュータの調査を手伝ってもらうこと。

 いつの間にかすっかり脱線しちゃってたねぇ。


「ならさっそく本題だけど――」

「待ってください! その前にお2人のお名前を伺ってもよいでしょうか?」



 一瞬、顔を見合わせる男たち。



「あぁ……そーいえば自己紹介してなかったか」

「言われてみると確かに……」


 思わず全員で苦笑い。

 うん、なんかタイミングがなかったんだよねぇ。

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