第16話「神を冠する品(2)」


 ヴィッテが寝静まった夜。私とスライで、アイテム『神の翻訳眼鏡LV1』とスキル【言語自動翻訳LV1】を検証することにした。



「じゃあスライ、どこから検証し始めよっか」


・・・・

>スキルは複数が干渉し合う可能性も考えられます。

>よって検証に入る前に、まずはマキリのステータスの全容把握からの開始を希望します。

・・・・


「ステータスの全容把握ってどうすればいいの?」


・・・・

>ヒトは10歳を迎えると、自らのステータスを閲覧可能になります。

・・・・


「何それ初耳! どうやったら見れるかな?」


・・・・

>念じる事で閲覧可能なはずです。

・・・・


「ええっと…… “ステータスを見たい” ――」



 念じた瞬間、空中に半透明の青いウィンドウが現れた。



・・・・

名前 マキリ・クズミ

種族 人間

称号 世界を渡りし者

状態 健康

LV 11


 ■基本能力■

HP/最大HP 86/43+43

MP/最大MP 20/10+10

物理攻撃 9+9

物理防御 5+5

魔術攻撃 7+7

魔術防御 6+6


 ■スキル■

能力値倍化LV5★、言語自動翻訳LV1


 ■装備■

布の服、革の靴、神の翻訳眼鏡LV1

・・・・


「おぉ~~ッ!」


 いかにもRPGっぽいステータス表示にテンションが上がる。


・・・・

>なお他者のステータスを閲覧する場合は【鑑定】のような特殊スキルが必要であり、【鑑定】スキルを所持していない場合は閲覧が不可能。

>私は特殊スキルを所持しておらず、マキリのステータスは現状確認が不可能です。

・・・・


「そっか、このウィンドウはスライには見えてないわけね……じゃあ紙に書くよ」


・・・・

>ならば加えてスキル効果も記載希望です。

>先と同じ要領でステータス詳細について念じる事で閲覧可能かと。

・・・・



 言われた通りに念じてみると、ステータスウィンドウの表示が変わった。



・・・・

名前 マキリ・クズミ

種族 人間

称号 世界を渡りし者:2つ以上の世界を訪れた者に与えられる

状態 健康

LV 11


 ■基本能力■

HP/最大HP 86/43+43

MP/最大MP 20/10+10

物理攻撃 9+9

物理防御 5+5

魔術攻撃 7+7

魔術防御 6+6


■スキル■

※LVがMAXとなったスキルには★がつく

<称号『世界を渡りし者』にて解放>

能力値倍化LV5★:常時全ての能力値が2倍

<アイテムにて解放>

言語自動翻訳LV1:人が扱う言語の意味を理解し、書いたり話したりできる


■装備■

布の服:一般的な布製の服

革の靴:一般的な革製の靴

神の翻訳眼鏡LV1:所持していると、スキル【言語自動翻訳LV1】使用可能

・・・・





「……はい。これでいいかな」


 手元の紙にステータスを書き出し、スライに向けて置く。


・・・・

>成る程。

>この構成であれば、ステファニーという冒険者ギルド職員の見解に私も同意します。

>現状、マキリの能力は戦闘に適しません。

・・・・


 ステファニーもそうだけど、初日の冒険者たちにも同じようなこと言われた。

 でも私の場合、そもそも “強さの基準” が分かってないから、いまいちピンと来てないんだよなぁ。



「……参考までに聞くけど、どういうところが戦闘に向かないと思う?」


・・・・

>戦闘に適したスキルが皆無であり、かつ基本能力値が非常に不足している点でしょう。

・・・・


「でも【能力値倍化LV5★】とかすごく強そうだよね。これとか戦闘向きじゃないの?」


 ゲームだと、デメリット無しの『全能力値が常時2倍』って色んな能力値を底上げできるから割と悪くない扱いの強化バフだと思うんだ。もちろん作品にもよるけどさ。


・・・・

>【能力値倍化LV5★】自体は、間違いなく優秀なスキルです。

>所持者次第では、戦闘にて非常に強力な効果を発揮するでしょう。

>ですがマキリは現状、基本能力が非常に不足しています。

>2倍になったところで一般的な冒険者の攻撃力や防御力に遠く及ばず、戦闘への活用は難しいかと。

・・・・


「うわぉ……2倍でも低いってよっぽどだね……」


 ……まぁ詳しく説明してもらえたおかげで、ちょっとすっきりできた気はする。





・・・・

>マキリのステータスの全容把握は一旦完了しました。

>続いては実際にスキル【言語自動翻訳LV1】の検証を希望します。

・・・・


「そうだね、やろう。スキル検証って何を調べるもんなの?」


・・・・

>適切な検証の内容や方法はスキルにより異なります。

>まず検証すべき内容としては、『発動条件』および『効果』でしょう。

・・・・


「発動条件かぁ……メガネのアイテム説明には『所持していると、スキル【言語自動翻訳LV1】使用可能』って書いてあるね」


・・・・

>この場合は『所持していると』との記述が示す範囲が、具体的にどの状態を示すかを調査するのが適切かと。

>アイテム説明文における『所持』は通常、『身体に触れる状態での所持』を意味するケースが多数です。

>現在マキリは眼鏡を装着している状態のため、眼鏡を外し、身体から離す事が検証として適していると考えます。

・・・・




 、か……。



「……了解! ここにはスライと2号しかいないしね」






 ふぅと軽く息を整えてから。メガネをはずし。

 そして、ゆっくり、目を開ける。



「わっ、初めて見る文字!」


 さっきまでは普通に漢字やひらがななど見覚えある文字が並び、で書かれてたはずのステータスウィンドウの文章が、に変わってた。


 それなのに、文章はちゃんと読めるんだ。

 文字自体は分からないけど “頭の中に勝手に意味が流れ込んでくる” っていえばいいかな?



 さっきスライ用にステータスを書き写した紙のメモにも、ステータスウィンドウと同じ文字が並んでる……ってことは私、気付かないうちに知らない言葉を書いてたのかっ⁈



「ねぇねぇスライ! これって何語?」


 メモを見せつつたずねると、スライが文字を表示した。


・・・・

共通言語ラグロスです。

>この世界に住むヒトの多数が使用する言語であり、共通言語ラグロスの表記には共通言語文字ラグロイドという文字が使用されます。

・・・・


共通言語ラグロス共通言語文字ラグロイド……パッと見た感じだとスライが今使ってる文字もそうだよね?」


・・・・

>その通りです。

>なお、現在マキリが会話に使用している言語も共通言語ラグロスかと。

・・・・


「えッ、そうなの⁈」


 私としては普通に日本語でしゃべってる感覚しかないんだけどなぁ。



「ってことは、メガネから手を離したらどうなるんだ……?」





 そっと食卓にメガネを置く。

 ただし手はメガネに触れたまま。


「ステータスウィンドウは……ちゃんと読めるね」




 メガネから手を離す。


「あっ、読めない」




 再びメガネに手を触れる。


「読める……読めるぞッ!!」




 慌ててメガネをかけてみる。


「おぉ、ウィンドウ表示が日本語に戻った……」




 メガネをどうするか次第で変化するステータスウィンドウ表示がおもしろくて、私はしばらく、思いつく限り色んなパターンの動きを試しまくったのだった。





 ***





 ひととおり試した結論としては……


 ――翻訳眼鏡メガネめちゃくちゃすごい!!


 軽く検証しただけでも、このアイテム1つあれば、言葉の問題をなんでも解決出来ちゃう感じがして、まさに “神アイテム” って感じ!



 ちなみにスライがメガネをかけて試した場合、私と違って、日本語も 共通言語ラグロスとして読めたんだって。まだまだ色んな可能性がありそうだなぁ。





 それにしても、よくよく考えて見たら、違う世界に来たのに街の看板とか書類とか本とかで使われてる文字が全部、漢字とかアルファベットとかひらがなとかっておかしいよね……。


 ……私、なんで気づかなかったんだろ?

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