第15話「神を冠する品(1)」


 冒険者ギルドのギルド長は、『ダガルガ』と見た目通り強そうな名前だった。

 助けたことを恩着せがましくするでもなく、竹を割ったように真っすぐでいい人そうではあったけど……威圧感がすごすぎて。


 彼の迫力に気圧されそうになった私は、余計なことをしゃべる前に、早めに切り上げて我が家に帰ることにしたのだった。





「あ~ん……んふふっ♪♪」


 お行儀よく椅子に座ったヴィッテが小さな口で頬張っているのは、ギルド帰りに私が買って帰ったマリトッツォ的なお菓子。


 切れ込みを入れた柔らかい丸パンには、これでもかと言わんばかりに大量のクリームが詰め込んである。

 私もさっき食べたところ、クリームがほんのり柑橘風味で程よく甘さ控えめだから、たくさん食べても胸やけしないおいしさだった。


 幸せそうに食べるヴィッテを見るだけで、私まで自然と笑顔になっちゃうねぇ……気に入ってるみたいだし、そのうち似たような感じのクリームたっぷり系おやつ作ってみようかな!




 ぴょんっと近寄ってきたスライが文字を表示した。


・・・・

>マキリ。

>冒険者ギルドでのアイテム売却に関して、情報共有を希望します。

・・・・


「あぁ、そうだね……結構いろいろあったから、話がちょっと長くなるよ?」


 私はギルドで書いたメモを片手に話し始めた。





 ***





 時々挟まるスライの質問にも答えつつ、思い出せる限りの説明を終える。

 おやつタイムを終えたヴィッテも途中から聞き役に合流していた。


「……とまぁこんな感じ。無事にアイテムは全部売れたし、ギルドのスタッフさんに丁寧に説明してもらえて分かったことも多かったし、行ってみてよかったよ……で、これがアイテムを売ったお金。魔法鞄マジカルバッグを買うのに一部使っちゃったけど、まだまだいっぱい残ってるから、スラピュータを試作してみるには充分だと思う」


 そもそも私たちがお金を稼ぎたかったのは、新たな魔導具『スラピュータ』を作りたかったから。いい感じのアイデアはまとまったけど、肝心の開発資金が無くて詰んでたんだよね。

 思わぬ形で大金が手に入ったことで、資金問題はクリアできたと言っていい。


「これもヴィッテちゃんがいっぱい魔物を倒してくれたおかげだよ」

「あれぐらい たいしたことないわ。必要ひつよーなら また たおしてあげるね!」

「……うん、ありがと。まぁその時は相談する」


 ヴィッテの教育とか倫理的な観点でいえば、小さい子を頻繁に魔物と戦わせるのはどうかと思う。

 だけど背に腹は変えられないし……何よりヴィッテ本人が戦うのを楽しんでいる節がある。私がどうこう言っていいのかも含め、ちょっと悩みどころだな。


 まぁ今日の遠征で売ってないドロップアイテムがまだ大量にあるから、当面は彼女に討伐をお願いする必要はないはずだけど。




「ってなわけで資金問題は解決したことだし、最短で明日の仕事帰りだったら魔導具工房にいってスラピュータ作りの相談しに行けるけど、それでいいかな?」

「おっけーよ。はやいに こしたことないもの!」


・・・・

>ヴィテッロ様の決定に異存ありません。

・・・・


「じゃ、今日のうちにいろいろ準備しておくね!」





 ***





 その夜のこと。

 私はスライ2号と相談しつつ、1階の食卓で “作りたい魔導具の発注用資料” となる書類を作っていた。


 うちの会社でウェブサイトを作る時は部分的に外注する機会が割と多くて、その時の経験がすごく活きてる気がするな……先輩に「情報は過不足なく最小限に、なるべく短く分かりやすく!」って教わってた頃を思い出すよ。


 ただしこの世界にはパソコンも文章・資料作成ツールも無いから、全部手書きで書かなきゃなんないのがちょっとまだ慣れてないけど。



 で、ネット検索できない分をフォローしてくれてるのが2号なんだ。

 スライ本体オリジナルと違って自分から意見を言う事はないけど、ずっと付きっきりで私の質問になんでも細かく答えてくれるのはすごく助かる。さすが私の教育係担当を自称するだけあるね。


「……よし、こんなもんかな、なくさないうちにしまっておこう。2号もおつかれさん!」


 作り終えた資料を揃えて魔法鞄マジカルバッグに入れておく。




 ここでぴょこぴょこと2階から降りてきたのはスライ。


「あれスライ、いつも通りヴィッテちゃんのそばにいなくていいの?」


・・・・

>現在は分裂体が警護中ですので問題ありません。

・・・・


「そっか。何か用事?」


・・・・

>マキリのアイテム『神の翻訳眼鏡LV1』および、スキル【言語自動翻訳LV1】に関して、検証を希望します。

・・・・


「あっ、そういえばちゃんと確認してなかったな……」



 ステファニーいわく、私のメガネは『神の翻訳眼鏡LV1』という売却不可能クラスなレアアイテムで、『所持していると、スキル【言語自動翻訳LV1】使用可能』という効果だって言ってた。



・・・・

>『神の翻訳眼鏡LV1』のように、アイテムへ “神” との名称付与が可能な存在は、私が知る限り『神』以外は有り得ません。

>非常に貴重なアイテムだと考えられる事から、早い段階での検証を推奨します。

・・・・


「というかそもそも、この世界には普通に神様がいるの?」


・・・・

>私が知る限り、神の存在を裏付ける記述はヒトの世に数多く見られます。

>多くの記述に共通するのは「神はこの世界を管理する唯一の存在であり、『原初の神殿』にて世界の全てを見守り続けている」との内容です。

>少なくともヒトの多くは神の存在を信じており、否定するヒトは少ないと考えます。

・・・・


 神様の存在を裏付ける記述……。


 そういえばこの間買った絵本『勇者と魔王の物語』のお話は、神殿っぽいところにいる神様が勇者をこの世界に召喚するところから始まってたな。あれはあくまで物語だから、“存在を裏付ける記述” なんて大層なもんじゃないっぽいけど。


 まぁ魔術や魔物が存在する世界だもの。神様も存在したっておかしくはないよね!

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