第14話「昼下がりの、冒険者ギルド(2)」
私は冒険者ギルドスタッフの「別室の応接スペースで話したい」という提案を受け入れることにした。悪い人じゃなさそうだったし、なんで私が別世界の人間だと分かったかも聞いてみたかったんだよね。
女性スタッフは『ステファニー』と名乗った。
持ち込んだアイテムをいったん元通りリュックサックにしまってから、彼女に連れられ、窓口カウンター後ろの扉から奥へと進む。
案内された部屋は社長室みたいな雰囲気だった。端のほうに1組だけ仕事机と椅子が置いてあって、残りのスペースには大きな革ソファの応接セット。
この部屋は『ギルドマスター執務室』兼『応接スペース』なんだって。ただし現在、ギルドマスターは所用でちょっと出かけているんだとか。
2人とも席についたところで聞いてみる。
「私が違う世界から来たって、なんで分かったんですか?」
「……?」
一瞬、戸惑ったっぽいステファニーだったが、すぐに「そこから説明が必要でしたか」と納得したようにつぶやいた。
「スキルのおかげですよ。私は生まれつき【鑑定】スキルを所持しておりまして」
「もしかして “鑑定したものの詳細が分かる” ってやつですか?」
「ええ。厳密に言えば対象のステータスを解析できる
鑑定といえば異世界ファンタジー系の作品ではおなじみといっていいスキルで、作品によってはチート扱いされることもあると思う。この世界にもあったんだ!
「そんなスキルを持ってるなんて、ステファニーさんってすごいんですね」
「確かに珍しいほうのスキルではありますが……あなたほどではないですよ」
「私なんて全然です! 残念ながらスキルとかそういうの全然ダメみたいなんですよねぇ、ははは……」
「ええと……【鑑定】よりも、マキリさんのスキルのほうが
……へ?
私が、レアスキル持ち、だと……??
「……いやいやまさかっ。こっちの世界に来てから1ヶ月ぐらい経ちますけど、レアスキルっぽい実感ないですって。ここに来た初日に『
「確かにマキリさんの基本能力は一般の人間としては至って平均的な数値だと思います。戦闘向きでは無いのも事実でしょう。ですが “称号” も “スキル” も初めて見るものばかりですし、効果も素晴らしいと思います。まずは『
「え? そんな称号あるんですか?」
「【鑑定】で確認しましたので間違いないかと。マキリさんのステータス詳細によれば『世界を渡りし者』は2つ以上の世界を訪れた者に与えられる称号ということですよ」
「あ、もしかして私が別の世界の人間だって分かったの、その称号からですか?」
「まぁきっかけではありますね。厳密に言えば称号だけではそこまで分からなかったのですが、諸事情を加味して考えると、おそらくそうだろうと思いまして……」
ステファニーによると、さっき私が現れた時、他の多くの冒険者と比べて
色んな可能性を疑って、【鑑定】スキルで私のステータスを確認したところ、予想外の内容にびっくりしたと。
元々この世界には “異世界からの来訪者にまつわる伝承” が割とたくさん残されていて、その中で「来訪者は『世界を渡りし者』という称号を持っていた」という記述を読んだことがあるんだそうだ。
それで一か八かで「あなたは、
「なるほど…………っていうか私、そんなに不自然でした?」
「ええ。有り得ないほど」
即答かいッ!
そういえばスライにも “人間として不自然” っぽいこと言われたな……。
「……ちなみにどの辺りが不自然でした?」
「やはり窓口にいらっしゃるのが初めてであるにも関わらず、大量の高額アイテムを無造作に持ち込まれたという点ですね――」
「ちょ、ちょっと待ってください! これってそんな高いんですか?」
慌ててリュックサックから腕輪を取り出したずねる。
「この近隣の魔物としては非常に買取希望価格が高額な部類です。その腕輪1点だけでも、当ギルドを拠点にして活躍する他の多くの冒険者の数日分の稼ぎになりますよ」
「数日分……ちなみに、いくらぐらいです?」
「そうですねぇ。需要が高いアイテムですし、本日換金していただけるなら…………買取希望価格1500
「せ、せんごひゃくッ⁈」
1500
「ところでこちらのアイテムはどのように入手されたんですか?」
「森で魔物を倒しました」
「あなたが?」
「いえ! 倒したのは森に一緒に行った子です。私はあくまで付き添いというか、換金とかを頼まれたというか」
「そうですか、お連れの方が……場所はどの辺りですか?」
「えっと、『オークの集落』って言ってました」
「確かにこの『古びた
「そんなに珍しい物なんですか?」
「ええ。『オークの集落』といえば、強力なオーク上位種が数多く出現する地域として知られています。ですがそもそも当エイバス冒険者ギルドに拠点登録している冒険者で、安定してオーク上位種を倒せるほどの実力者自体が少ないんです。その状態で『オークの集落』に突っ込むなんて命がいくつあっても足りませんよ……マキリさんのお連れの方、相当お強いんでしょうね」
「あ、まぁ、そうですね……」
手元のリュックサックに目をやる。ぎっしり詰まった中身は全て、ヴィッテが倒した魔物からのドロップアイテムだ。
どうやら彼女はエイバスの他の冒険者と比べてもずいぶん強いみたい。どう見ても普通の女の子なのに、すごい勢いで魔物を倒してたなぁ……。
ヴィッテの雄姿を思い出すうち、ふと、恐ろしいことに気付いてしまった。
「……え、待って。1つだけで1500
「正確な買取希望価格は全て鑑定してみないと分かりませんが、先程の確認分だけでもアクセサリーだけで20点ほどはありましたから……あと半分も同じような内容ですと、合計で60000
石窯亭給料3年分超えッ⁈⁈
そりゃまぁスライも高く売れるアイテムって言ってたけどさ、そこまで高いとか意味わかんないって……!
「マキリさん、話を戻しますよ」
「……あ、はい!」
理解不能の高額査定に気が遠くなっていた私だが、ステファニーの声で我に返った。
「本日こうやってマキリさんをカウンターから別室にお呼びしたのは、初めて冒険者ギルドを訪れたにも関わらず、いきなりこんなに大量に高額アイテムを持ち込まれたのが心配だったからというのが理由です」
「心配、と言いますと?」
「やはりお呼びして正解でしたね……はぁ……」
溜息をつくステファニー。
「……皆が見ているカウンターでこんな大金を一度に受け取ろうものなら、あなた、狙われますよ」
「狙われるって……誰に?」
「他の冒険者達です。冒険者の大半は良識をわきまえているとは思いますが、中には決して褒められた人格ではない方も少なくありません。そんな
「ヒェッ……」
初日に助けてくれた冒険者たちは親切だったけど、たぶんそうじゃない冒険者もいるんだろうなぁ。
そういえば日本でも、宝くじの高額当選者は銀行で別室に通されるって聞いたことがある。あれって確か窓口で大金を交換すると危ないからだよね。
しかもこの世界は日本よりも物騒だ。街中で当たり前のように剣や槍といった武器が売られているし、やろうと思えば魔術で攻撃もできちゃうわけで。
この間は街中でスライ2号が攻撃されたの見たばっかだし……あの大剣の大男の気迫はすごかった。まぁ後から考えたら私を魔物から助けてくれようとしただけで、危害を加える気はなかったっぽいとは思う。
「……ステファニーさん、ご忠告ありがとうございます」
「いえ、これも仕事ですからお気になさらず」
私がお礼をいうと、ステファニーはにこりと笑った。
「ちなみにマキリさんは今後も当ギルドをご利用予定でしょうか?」
「そのつもりです」
家に帰ればまだ売ってないドロップアイテムも大量にあるし、たぶんヴィッテはそのうちまた魔物を倒しに行くと思うし。
「でしたら当ギルドの利用に関する注意・冒険者の掟についても、よろしければご説明いたしますよ。この辺りを知っておくことで今後のトラブルを回避しやすくなるかと」
「ほんとですか! 助かります」
***
メモを取りつつステファニーの説明を聞く。
ためになる話がいっぱいで、特に冒険者の掟は聞いておいて良かったと思う。
掟には「お互いの能力について探りを入れるのはマナー違反」「
それとギルドはだいたい朝と夕方が混むんだって。だから面倒な冒険者を避けたかったら、混み合う時間を避けて来るのがおすすめだと。偶然だけど、今日の15時来店はちょうどよかったみたいだね。
説明が終わった後は、アイテムの売却。
ちゃんと全アイテムの鑑定を終えてから算出した正確な買取希望価格は、なんと最終的に65000
あ、“
支払いは全部
「こんなの持って帰れるわけがない!」というわけで、ステファニーのすすめもあり、売ったお金の一部で『
これなら次にアイテムを売りに来る時にも役立ちそうだし、機会があればスライの荷物運びも手伝えるしね!
ただし
「……そうそう。扱いに注意が必要と言えば、マキリさんのメガネもそうですね」
「メガネ? まぁそりゃレンズが割れちゃったら終わりですよねぇ」
「それもそうなんですが……あなたのメガネ、売却不可能クラスのレアアイテムなんですよ?」
「えッ、このメガネが⁈ でもこれ、そんな “レア” 扱いされるようなものじゃないと思うんですけど……」
高校生の時から1日のほとんどを共に過ごしている細フレームの度無しメガネは、いわば相棒ともいえる存在だ。
確かにお
「【鑑定】スキルによりますと、そのアイテムは『神の翻訳眼鏡LV1』という名称です」
「カミ……?」
「“神様” の “神” ですよ。神を冠した
「言語自動翻訳? それっていったい――」
――バタンッ!
「おう、居たのかッ!」
豪快に部屋のドアを開く音が私の声を遮った。
そしてドカドカと入ってきたのは、見覚えのある
「あ゛ッ!!」
思わず叫んでしまう。
なぜなら彼は、つい数日前に路上でスライ2号を叩き切った張本人だったから。あの時の恐ろしい形相が頭をよぎり、同時に嫌な汗が背中をつたう。
「あらマキリさん、ギルド長と知り合いなんですか?」
ステファニーが不思議そうな顔をする。
「誰かと思えばよォ、街ン中でスライムに襲われかけてた嬢ちゃんじゃねェか。元気そうでよかったぜッ!」
「あ、はい。その節は、その……ありがとうございました……」
「いいってことよ、ガハハハッ!!」
ギルド長と呼ばれた大男の笑い声は異様に迫力たっぷりで、私の耳に響き渡りまくったのだった。
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