第9話「初めての、通信検証(2)」
スライム通信テストの第1段階に成功し、続けて第2段階のテストに入る。
第1段階は『家の中』での通信テストだった。
第2段階は通信距離を伸ばして同じ内容のテストをする予定。ヴィッテとスライには家に待機していてもらい、私とスライ2号が出先の『街の中』から通信で呼びかける形で試すつもり。
スライによると「出来得る限り遠い地点に行ってから呼びかけてほしい」と。理由は教えてくれなかったけど、なんかスライなりに考えがあるっぽい感じだったな。
外に出るついでに買い物もしてこようと思う。ヴィッテ達が我が家にしばらく泊まることになったから食材買い足しておきたいんだ。あとスプーンとかお皿とかも、できたら追加で欲しい。1人暮らし始めたばっかで食器少ないんだよね……手頃な値段で良さげなのがあるといいなぁ。
出かける準備をして玄関のドアを開けようとしたところ。
「それじゃ、いってきま…………ん?」
すべり込むように駆け寄ってきたスライが、体に
・・・・
>『
・・・・
「えっと……急にどうしたの?」
・・・・
>これは以前に私が耳にした言葉で、『何処かの国の格言』とのことです。
>今のマキリに必要な言葉だと考えます。
・・・・
「そ、そっか……」
全くもって脈略が理解できない。
スライは意外と “不思議ちゃん” 系なのかもしれないな。
「……とにかく、いってくるね!」
うなずくスライ。そして元気よく「いってらっしゃーい」と手を振るヴィッテに見送られ、私とスライ2号は外に出た。
玄関のドアを開けると目の前に飛び込んでくるのは、道を挟んだところに建つ高い石塀。街の周囲をぐるっと囲んでいるらしいんだけど、いつ見ても圧迫感がありすぎると思うんだよね。
私が借りる小さな一軒家は『エイバスの街』の東の外れに建っている。
この家の魅力は、なんといっても “家賃が激安” なこと。
だけど安いからには理由がある。
1、ものすごく日当たりが悪い。
さながら「高層マンションが隙間なく並んでる」と言うのがぴったりなほど異様に高い石塀と道を挟んで隣り合う立地。1日のうち綺麗に太陽が入ってくるのは数時間がいいところで、オーナーいわく “日当たりの悪さならエイバス屈指” らしい。
2、周囲に手頃な店が無い。
周りの建物はまばらでしかも空き家が多いらしい。バスも電車も通ってないから、買い物するなら中心街近くまで歩いていかなきゃいけないのだ。
「……まぁでもやっぱり、今の私にとっちゃ有難い話だよな」
金銭的に余裕があまり無い状態の私にとって、タダに近い破格で住まわせて貰えるなんて感謝しかない。それをふまえると石塀があるぐらい可愛いもんだ。
そして我が家を貸してくれたオーナーによると「ずっと空き家で管理も面倒だったから、住んでくれるだけで助かる」と。
明らかにお互いWin-Winの関係って分かるのは気楽でいいね。
そんなことを考えつつ、たまに利用する雑貨屋あたりを目指して歩いていると。
――ドドドッドドドォッ!
――ドカドカドタドタッ!
道の向こうから凄い勢いで人々が猛ダッシュしてきた。
人数は5人。みんな血走ってて怖いんだけど!
「な、何事⁈」
とりあえず慌てて道の端に避ける。
彼らの進行を妨げないところまで逃げたところで、後ろを振り返ってスライ2号に話しかけた。
「あれ何だろうねぇ…………おや? 2号がいない……?」
2号は家を出た時から私の後ろをぴょこぴょこ付いてきてたはずだと思ってたんだけど、いったいどこではぐれたんだろう。
きょろきょろ辺りを見回したところで、2号が道の真ん中でまごついているのが見えた。距離にして10mぐらいといったところ。
「やばッ、踏みつぶされちゃう!」
走る人々が2号に近づく。
走る人々の集団の後ろから1人の男が飛び出し、間髪入れずに特大の剣を振るう。
――ズザァッ!
男の剣は
左右に分かれた透明ゼリーな体は粒子に姿を変え、音も無く消滅。
全ては、一瞬の、出来事だった。
「……おい
こちらを向いて野太い声を出したのは、見るからに
瞬間、何かを叫びそうになった。
――『
同時に頭をよぎったのはさっきスライが表示した
声にならない声とともに。
顔から血の気が引くのが分かった。
***
「…………?」
青かったはずの空が、いつの間にかオレンジに染まっていた。意味が分からない。
「ちょっと整理しよう……」
混乱する頭をどうにか落ち着かせつつ、状況を思い返してみる。
買い物がてら通信テストをするために外出して、考え事しながら歩いてたら、急に走ってきた人達にスライの分裂体である2号が攻撃されて……。
「……そうだ。あの時、私、走って逃げたんだ」
目の前で2号が殺されたことに動揺した私は、その場から思わず全力で走り去ってしまった。そのままふらふら放心状態で歩いているうちに夕方になっていたようだ。
「
最悪な想像とともに、脳裏に焼き付く光景がフラッシュバックする。
それまで元気だったはずの2号が、真っ二つになった瞬間。
瞬時にして2号を切り裂いた大剣男の、鬼気迫る表情。
思い出すだけで、ガタガタと体の震えが止まらない。
「だけど……震えてばかりもいられない、よね」
現在立っているのは我が家の玄関前。
そう。さっきヴィッテとスライが送り出してくれた場所だ。
私はさっきの出来事を伝えなきゃいけないと思う。スライのことも心配だ。
このまま逃げるわけにはいかないし……そもそも逃げたところで行く当てもない。
意を決して玄関のドアを開けると、こちらに気付いたヴィッテが椅子から飛び降りて笑顔で駆けてきた。
「おかえり~!」
「た、ただいま……」
・・・・
>随分遅かったですね。
・・・・
「スライ! 無事だったんだ、よかった……」
変わらぬ様子で文字を表示するスライに、張り詰めていたものが一気にゆるんだ。
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