第8話「初めての、通信検証(1)」


 ヴィッテとスライが我が家に来た翌日。石窯亭の私の勤務がお休みだったこともあり、朝ごはんを食べたあと、“通信” を試してみることにした。




 ――大量の『スライム』を接続し

 ――『インターネット』を実現する



 私の思い付きで生まれたアイデアではあるけれど、正直なところ詳細が固まっていない。決まっているのは「パソコンやスマホにあたる役割を、『スライム』に担ってもらう」という1点だけ。


 計画を先に進めるためにも、まずは “スライムによる通信” を実際にテストするのが近道じゃないかと思ったんだ。






 まずはテスト第1段階として、『家の中での “チャット” テスト』を行ってみることに。


 2階寝室には、ヴィッテ&スライが待機。

 そして1階キッチンには、私&スライ2号スライの分裂体



 椅子に座り、ふぅっと軽く呼吸を整える。


 心の準備ができたところで、食卓の上の2号に向かって ささやくようなで話す。我が家の1階と2階は距離的に近いから、小さい声じゃないとテストにならないんだよね。


「……『トーク開始』……こちら1階のマキリ。ヴィッテちゃん、文字は表示されていますか?……『どうぞ』」


 喋り方は、無線のインカムのルールが参考。学生の時にバイト先でちょっとだけ使ったことがあって。



・・・・

■マキリ >こちら1階のマキリ。ヴィッテちゃん、文字は表示されていますか?

・・・・



 まずは2号の体に、“私が喋った内容” が表示される。



 ……スライ&2号に伝えた通り、喋り始めの『トーク開始』と終わりの『どうぞ』はちゃんと省略されてるし、内容も合ってるね!






 固唾かたずを飲むこと、数秒。






・・・・

■ヴィテッロ様 >こちら 2かいの ヴィッテよ。マキリ、もじは ちゃんと ひょーじされてるわ。

・・・・


 静寂の中、文字表示が追加された。




「よしッ!」


 思わず立ち上がる私。




「ねぇねぇ どうだった⁈」


 パタパタ急ぐ足音とともに階段の上から駆け降りてきたのは、瞳をきらきらさせたヴィッテ。一歩遅れてスライ。


「第1段階のテスト、成功だよ!!」

「やったぁ~~♪」


 手を取り合って大喜びする私とヴィッテ。




 初めてのチャットは、たった1文ずつのやり取りで完成形にはほど遠い。だけど間違いなく私が知ってる “の断片” そのものだった。


 それが……とっても、うれしかったんだ。





「じゃあ見事に通信テストの第1段階が成功したってことで、そのまま第2段階に入りたいと思うんだけどそれでいい?」

「もちろんよっ!」


 最初の成功の興奮冷めやらぬままの提案に、ヴィッテは元気よく賛成してくれた。



「スライはどうかな?」


・・・・

>内容によります。

>第2段階はどのような検証を予定していますか?

・・・・



「こういうのは、ちょっとずつテストする範囲を広げていくのが無難だよね。だからまずは通信する距離を伸ばしてみたらどうかなって思ってる」



・・・・

>距離を伸ばす、ですか……。

・・・・



 少し考えてから、スライは「承知しました」とだけ表示した。

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