第2話 武田のトークゾーン

 CMが開ける前、真山は先ほどの武田の様子が気になったため武田に探りを入れてみた。

「武田さん300回放送だし全開で行きましょうね」

「あ、ああ。そうだな。今日も楽しい放送にしような」

真山はまたもや武田の反応が一瞬遅れたことが気になった。


 次のトークゾーンの事でも考えているんだろうか。

今までこんな調子悪そうなことなかったけどな。


 真山がそう考えていると、CMが明けジングルが流れる。

ここからは武田のトークゾーンとなる。


「・・・真山さんさ」

「ほいほい」

「人を殺した経験ってある?」

「どうしたんですか急に」


 真山は少し笑って見せたが、武田の尋常じゃない汗に気づく。

どうやら武田は真剣のようだ。ブースの外を見ると急にあわただしくなっている。

ブースの外の騒がしさからしてどうやら武田が打ち合わせと違う話をしているようだった。だが、真山のイヤモニに外から「止めて」という声は聞こえない。

放送作家も止めるよう指示をしていなかった。が、ここで止めた方が良いのだろうか。武田がそう考えていると、真山は続けて話し始めた。


「俺さ、実は人を殺したかもしれないんだ。・・・少し前にニュースで報道されていた若手女優の新山ちゃんいるでしょ?彼女殺したの俺なんだよね」

「いやいや、あれは事故って言われてるじゃない」

「そうなんだよ。報道では事故ってことになっているんだけどさ。あの日、彼女が亡くなったとされている日、俺収録があって彼女と同じスタジオで収録があったのよ。それで、このラジオにも出てくれてて面識あるし、そのころレギュラーも一緒になるって決まってたから挨拶しようと思ったのよ。ラジオ普段聞いてくれてるって言ってたからそのお礼も兼ねてね。で、俺が収録終わった後で彼女がいるって気づいたわけ。だから、帰りの支度してそれから彼女の楽屋挨拶行ったわけよ」


そう言って武田は一口水を飲む。

武田は周囲を見渡すが放送が止まる気配はない。なぜだ?

どう考えても早く収録を止めなきゃいけない。


「それって私も収録一緒だったあの番組の時ですよね?」

「そうそう。で楽屋挨拶に行って、『来週からのレギュラーよろしくお願いします』って言いに行ったわけ。そしたら彼女満面の笑みで『よろしくお願いします!この前のラジオ面白かったです!』って言ってくれたわけ。で、しばらく話していたんだけど、途中であることに気づいたわけ。彼女の話す話題が俺らトップガンの話なんだけど、よく聞くと大抵が・・・、真山さんの話なのよ。話の途中で、『あ、この子真山のファンだ』ってなって全然話が入ってこなくなっちゃったのよ。あのー、真山もわかると思うけどその前の収録で結構失敗してたのよ。しかも、昔学校で真山がすごい人気で俺が『金魚のフン』って陰で呼ばれてたのを思い出しちゃって、それと重なったのよ。で、その時に『武田さん大丈夫ですか?』って言われて肩掴まれたのよ。そしたら反動で、突き飛ばしちゃって。そこからは報道されている通り、彼女が机の角に頭ぶつけてさ。動かなくなったんだよ。その瞬間我に返って。逃げちゃったんだよ。気づいたら家にいて。でも、テレビで報道されるのは死因が事故になってた。よくわからない気持ちになって。仕事はそのまま続けてた。でも・・・。それも今日で終わりです。今まで聞いてくださったファンの方々には申し訳なく思っています」


そう言い終わると、武田は泣き崩れた。


そして、CMに入った。


真山はすべてを終始無言で聞いた。

ふっ。と一つ息を吐いた。

「城ケ崎さん。放送を止めないで私も話をさせていただいてもいいですか」

CM明けは自身のトークゾーンだ。


城ケ崎は真山が最後に相方に何を言うのか。

コンビとして、友達として何を言うのか。

最後まで聞くことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る