ラジオブース

矢口ウルエ

第1話 人気番組

 3.2.1 ポーン

「こんばんは、トップガンの武田です」

「トップガンの真山ですー」


 今日も始まった。

毎週金曜日の24時から放送の人気ラジオ番組「トップガンのフライアウェイ」

今日で記念すべき300回目の放送だ。


 この番組のパーソナリティ「トップガン」は人気漫才コンビだ。

元々テレビやメディアの出演経験がほとんどなく、小劇場で漫才を行っていた二人を、この番組のプロデューサーである城ケ崎が気に入りラジオ番組をやらせたら面白いのではないか。と企画したのが始まりだった。

様々な芸人が週替わりで行っている26時台のラジオ番組で初登場したトップガンだったが、その放送が予想以上の反響となりSNSトレンド入りするほどだった。

そこからトップガンの人気が出るまではあっという間だった。

ラジオに初登場した次の年、年末のお笑い賞レースで準優勝し、そこからさまざまなメディアで引っ張りだことなった。

準優勝したすぐ次の日に城ケ崎がトップガンの二人に声を掛け、「トップガンのフライアウェイ」が始まった。

始まった翌週から聴取率はその週最高の数字となり、瞬く間に人気番組の仲間入りとなった。


 人気の理由は二人の掛け合いとテレビとのギャップにあった。

ツッコミの武田とボケの真山。性格は対象的で、武田がおとなしい性格。真山はとびぬけて明るい。というのが彼らのテレビでの顔だったが、いざラジオの時間になると武田の熱を帯びて話すお笑い論やツッコミ、真山のドライな一面が見れるという部分が人気の一つだった。

そして、小学校からの同級生である二人それぞれのトークが普段見ることのできない人間性や空気感を感じることができ、大変好評なのだ。


 番組の構成は、オープニングトークから始まり、武田のフリートーク、真山のフリートークとなり最後にテーマに沿って募集するリスナーからの大喜利コーナーが待っている。


「いやー、でも今日はだいぶ寒かったよね」

「そうねー、私なんかこの前の収録遅刻しそうになっちゃったのよ。寒すぎて」

「いや、それどういうことよ」

「あの、その前のロケが終わってずっと外にいたもんだから体が冷えちゃって。で、その後少し時間があったからちょっとあったまろうかなと思って、風呂に行こうかなと思って探したんだけど近くに無かったわけですよ。だからどうしようかなーなんて思ってたら、すぐ近くにあのー、大人のね、大人のお風呂があったんですよ。で、『あっ、ここもお風呂あるな』って思ったので入ったわけですよ。いやー、時間かかったね」

「いや、オープニングから何話してんのよ。今日300回記念の放送よ?」


 と、二人の笑い声がブースに響き渡る。

オープニングから二人は軽快にトークを始める。

下ネタもはさみながらいつものように笑い声が響く。

このトークができるのはラジオ、ひいては深夜の放送だからであり、それも人気の一つになっている。これもテレビでは見ることのできない一面である。


 引き続き二人の軽快なトークが続く。


「それにしてもよく俺らに300回も任せてくれてるよねこのラジオ局は」

「ほんとですよ。オープニングから下ネタ話すような二人ですからね?」

「いや、下ネタは真山だけだろ!」

「いやいや、武田さんも最初の方話してましたよ?」

「あんまり言うなよ!今日から聞き始める人がいるかもしれないんだから!」

「確かに記念放送ですからね」

「そうそう、それで今日が記念放送だからって本田から連絡が来たのよ。『記念放送なんだから俺も呼べよ』って」

「なんで記念放送に地元の友達呼ぶんだよ!おかしいだろ!いや、武田さん、今回から聞き始めた人いると思ってるなら地元の友達の名前いきなり言ったらだめじゃない」


 再びブースに笑い声が響く。

今日の放送も成功に終わるに違いない。

オープニングトークをする互いの顔に安定の色がうかがえる。


 そこに1通のリスナーからのメールが入り、放送作家の安富から武田に手渡される。


「東京都 ラジオネーム 立垣に竹立て掛けた さん

日頃からこのラジオを楽しく拝聴させていただいてます。

東京に来てからはこのラジオを聴くことが安らぎとなっています。

500回、1000回と突っ走ってたくさんの放送をし、

ロングランラジオと呼ばれるように頑張ってください。

しがないメールではございますが感謝の気持ちを伝えたくてメールいたしました」


「こうした300回を祝うメールがたくさん来ているみたいですけど、

嬉しいですねー」

「いや、1000回放送するとしたら何年やらなきゃならないんだろうね。

あと15年くらいやらなきゃならないんじゃないの」


 二人とも同時に笑う。と思われたが武田が一瞬笑うのが遅れた。

何か考えている様子だったので真山はそれに触れなかった。


 オープニングトークが終わり、一旦CMが入る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る