第9話
松原のいきなり核心を突いてくる言葉に、修はとっさにごまかすことができなかった。
「……顔に書いてあるな」
松原は、くくっともう一度笑った。目じりにもしわが寄る。前にかかる髪の毛を少しうるさそうにかき上げるときに、目線を横に流すのが気だるげだった。笑った後に、ふっと心ここにあらずという雰囲気が漂う。修は、松原がどこを見ているのかを覗き込みたくなる。
「そやなあ……おすすめの日本酒、もらおかな」
松原は、修の顔をしばらく見た後、柔らかな方言で呟いた。
「君のおすすめにするわ。おまかせでよろしく」
「あ……」
「ほら、ちゃんとおすすめして?僕、ちゃんと足もあるし、さっきから付き出しも食べてるやん?」
「あ、はい」
「はい、ちゃうわ~。も~。この菊の花の和えたん、秋らしいてええな」
松原は、修に器のなかを見せるように傾けた。四角形の小ぶりの器のなかに、鮮やかな紫の菊の花が盛られている。松原は、始終、修に笑いかけていた。
「あ、その菊花の酢和え、俺が作ったんです。それだけはさせてもらえるようになって、俺」
修は、松原の人懐っこい笑顔が、何年も前からの知り合いのお兄さんのように見えてきて、ふだんより饒舌になった。
「そうなん?すごいやん、君。修くん、すごいやん。そうかあ、これを君がなあ」
手放しで褒めてくれる松原に、修はさっきまでの警戒感が幻だったように感じた。
「ほな、これに合うお酒、頼むわ。修くんにまかせるわ」
「ええな、このお酒、合うわ。へえ、鯛もあるん?ほな、それも」
松原は、上機嫌で驚くほどお酒を頼んだ。いくら飲んでも、顔色も変わらず、むしろ顔色が冷めていくようだった。
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