陰キャな兄を持つ清楚系妹が彼氏を作らない理由

おうぎまちこ(あきたこまち)

本編



 

 わたしには血の繋がったお兄ちゃんがいる。

 同じ高校に通っていた。

 特進科や商業科、家政科……色んなところが混ざった公立高校。


「ミサトのお兄ちゃんってさ、ミサトに全然似てないよね。めっちゃ地味メガネな陰キャっていうかさ。がり勉? 成績は良いんだけどさ……。こう、私たちとは、ちょっと違う人種って感じ」


「そうかな?」


「うん、そうそう、LINEのスタンプの使い方とか分かってなさそう……ミサトはさ、男子にめっちゃ告られてんのにさ、あんたのお兄ちゃん、全然そんな話はなさそう」


「さすがにLINEのスタンプぐらいは分かってるよ。あと、確かに告られてるのは聞いたことないかな?」


「でしょう? 見た目清楚系な黒髪ストレート&色白なミサトとは違って、陰キャバリバリのオタクって感じだもんね。私だったら、お兄ちゃんだってバレたくないのに、ミサトって優しいよね。善人、流行の聖女? お兄ちゃんも異世界転生出来たら良いのにね?」


 派手な黒ギャルな友人が、きゃはきゃは笑っていた。


 いわゆる派手な見た目、明るくて陽キャな女子高生集団に属している私とは違って、お兄ちゃんは地味だ。


 もしかしたら、普通の女子高生だったら、お兄ちゃんが陰キャなオタクだったら、引いちゃうし隠しちゃうのかもしれないけど……。


 私だって、ほら、皆がお兄ちゃんの悪口言っても庇ってない。


 だけどね、お兄ちゃんのフォローをしないのには理由があるの……。


「そうだ、ねえ、ミサトは彼氏作らないの?」


「うん、今はテニスに打ち込んでたいかな?」


「ええ? 勿体ないなぁ!」



 そう、彼氏を作らないのにだって理由がある。


 それは――。




※※※




 帰宅したら、居間のソファでお兄ちゃんがぐうぐう眠っていた。

 両親は共働きで忙しい。今日も帰りが遅いのだろう。


「もうお兄ちゃんったら、情けないんだから」


 私は近くに落ちていたブランケットを、学ラン姿のままで眠るお兄ちゃんにかけてあげた。

 ふと、テーブルに視線をやると、お兄ちゃんお手製のチャーハンが置いてある。


「お兄ちゃん……勉強大変なのに、私の分も作ってくれたんだ」


 しゃがみこんで、そっとお兄ちゃんの顔をのぞく。


「お兄ちゃん……」


 眠る彼のことを眺める。


 なんだか胸がドキドキして落ち着かない。


 そう、実は――。


 昔からずっとこうなのだ。


「皆は全然お兄ちゃんの良さを分かってない」


 お兄ちゃんは、すごく努力家で優しくて、真面目で……とっても良い人なんだから。


 小さい頃は、男子に意地悪される私から、身を挺してかばってくれたり……。


 私が、ちょっぴり下手な料理を出しても、怒らずに全部食べてくれたり……。


 だけど――。


 友達が色々悪口言っててもスルーしちゃう。

 

 だって……。


「お兄ちゃん以外の男子とか、全然眼中に入んない。もし、本当のお兄ちゃんのことが分かっちゃったら、皆絶対、お兄ちゃんのこと好きになっちゃうんだから……ミサトだけ、本当のお兄ちゃんのことは知ったら良いもん……」



 そうして――。


 私は、そっとお兄ちゃんのほっぺにキスをしたのだった。


 お兄ちゃんにも、この気持ちはバレないように……。


 これからもずっと地味でオタクな――ミサトだけのお兄ちゃんのままでいて欲しいなと願いながら。


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