3章 そして

第1話 世界樹、生えました

 統魔師モンスターマスターとの戦いから3年が経った。今の俺は山奥に家を作って暮らしている。


 うん、作ったんだ、家。

 意外とどうにかなるもんだな。


 スライムの汎用性高いわ、やっぱ。

 樹木を育てるのも、伐採するのも、組み立てるのも、何でもござれ。

 水脈を引き当てて引水して、畑でも田んぼでも作れると来た。つよい。


 さて。


 別に山奥に来る必要は無かったんだけど、山奥に来たのには訳がある。


 足元に広がるのは緑の大地。


 いやー、ずっと昔から思ってたんだよね。

 それって緑地とか、緑の草原じゃないの? ってさ。

 でも、わかった。

 やっぱりこれは緑の大地だ。


 この緑の大地は文字通り、緑色の土でできた畑なのだ。

 着色料をふんだんに使った農法。


「ジーク様、あの、その」


 隣でコレットが言い出しづらそうに言葉を逃がす。


「言うな、俺も不安なんだ」

「安心いたしました」

「待って不安要素しかないよね? どこに安心感抱いているのかな?」

「ジーク様と同じ感情を共有できていると思うとそれだけで私の心は満たされるのです。ああ、ジーク様。私がそばにおります。恐れることは何もありません。この試練を共に乗り越え――」


 怖いな、この人。


「サモン、スライム。種まきの時間だ」


 あいあいさーという様子で、10匹のスライムが表れる。「あぁん」となまめかしい声をあげてコレットが腰をくねらせる。もう手遅れかもしれない。


 さて、スライムたちにまいてもらうのはミステリーシードという少し不思議な種、あ、変わり種。

 なんとこの種、植えるたびに実る果実が変化するという性質を持っているのだ。


 ぴょいぴょいという効果音が似合う感じでスライムが畑に種を植えるのを見送ったら、次は水やりの時間だ。


「恵みの雨よ! 【レイニーレイニーデイ】!」


 天空に魔力で干渉して、雨を降らせる。

 ジョウロで水やりなんて今どきはやらないですよ。


 ん?

 コレットさん?

 どうしたの。

 そっちは雨降ってるよ。

 おーい、戻ってこーい。


「ジーク様ー、私濡れちゃいましたー」

「自分から雨の下に向かって行ったよね⁉」


 あの一件以来、はっちゃけるようになったよな。まあ、彼女が気兼ねなく過ごせているんだと思ったら、悪い気はしない。


 でもそれはそれとして。


「仕方ないな……ほれ。【時間遡行タイムリバース】」


 統魔師モンスターマスターとの戦いでスライム召喚士サモナーのレベルも上がったし、それからの3年間でも更にレベルが上がった。

 伴って、アビリティの種類も多種多様にわたっている。


 今発動させたのも、俺がこの3年間で新たに取得したElementのひとつ。

 司るは時間。

 その魔法を使って、俺はコレットが雨に打たれる前に時間を戻したのだ。


「それ、すごい魔法ですよね」

「いまさらだな」

「改めて、でございます」


 すごい。すごいよ確かに。


「ま、燃費悪いのが玉に瑕だけどな」

「それを解消するために、この終わりの大地を生み出したんですものね」

「はじまりの大地って言ってもらえる?」


 今からミステリーシード育てるんだから。


「しかし、本当なのでしょうか。ミステリーシードからなる果実が、その土地の栄養価によって決まるというのは」


 そう。

 聞いた話によれば、ミステリーシードから育つ植物は、栄養価が高ければ高いほど希少なものになるというのだ。


 だから俺は、こうして畑にポーションをぶちまけ続け、この緑の大地を生み出したのだ。


「ま、なるようになるだろ。いくぞ、【収穫祭ハーベスト】‼」


 【収穫祭ハーベスト】は植物の育成を促進するスキルだ。3年前の戦いでエルダートレントから強奪したレアスキルだ。

 ひとつだけだとお察し程度の効果しかないけど、あいにくこちらはスライム召喚士サモナー

 ひとつでも獲得したスキルは無限に増殖できる。


「Lv.Max‼」


 瞬間、ぼこぼこと大地に小さな亀裂が走る。

 それは息吹だ。新たなる命が、被せられた土を突き破ってこの世に生まれようとしているのだ。


「……お? おお⁉」


 見る見るうちに成長するミステリーシード。


 詳細を【鑑定】スキルで確認する。


――――――――――――――――――――

【ケンブの実】

――――――――――――――――――――

とてもめずらしい木の実。

食べると筋力が上がる。

ちょっぴり甘辛い。

――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――

【ケンロウの実】

――――――――――――――――――――

とてもめずらしい木の実。

食べると生命力が上がる。

ちょっぴり渋辛い。

――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――

【ホタルビの実】

――――――――――――――――――――

とてもめずらしい木の実。

食べると魔力が上がる。

ちょっぴり甘い。

――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――

【アムネシアの実】

――――――――――――――――――――

とてもめずらしい木の実。

食べると精神力が上がる。

ちょっぴり苦い。

――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――

【ロッカの実】

――――――――――――――――――――

とてもめずらしい木の実。

食べると敏捷性が上がる。

ちょっぴり渋い。

――――――――――――――――――――


 マジだ!

 マジで珍しい植物しか生えてこねえ!


 あいつの言ってたことは本当だったんだ!


「ジーク様、ジーク様」

「見ろよコレット。どれも珍しい植物らしいぜ?」

「存じております……が、ジーク様。気づいていないのですか? それとも、気づかないふりをしておられるのですか?」

「……なんのことかな」

「目をそらさないでくださいませ」


 ……マジかー。

 コレットにも同じもの見えてんのかー。


 ワンチャン、その辺に幻覚を見せる植物が生えてて、俺の気のせいなんじゃないかなって思ったんだけどな……、気のせいじゃないのか。


「なんでここに生えてんだろうな……」


 畑の隅でしかし、その植物はひときわ異彩を放ってそびえたっていた。

 若葉を茂らせ、天へと向かって大きく育っていた。

 というか、現在進行形で成長してる。


「でかすぎんだろ、世界樹」


 世界樹、生えました。

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