第2話 錬金術
とにかく、前回の収穫祭は失敗だった。
いや、あるいは成功と呼ぶべきなのか。
「あはは! まさか本当に育つなんてね!」
その翌日。
様子を見に来た
「お前、わかってて黙ってただろ……」
「ふふ、ボクはただ、不確定な情報を提供するのは忍びないと思っただけさ」
いけしゃあしゃあと!
くやしい……嘘だってわかってるのに論破できねえ……!
「というか、よく知ってたよな。過剰栄養価の土地でミステリーシードを育てたら珍しい植物が育つなんてこと」
「ま、だてに長生きはしてないからね」
そういえばこいつ、ほとんど不老らしい。
仕組みは簡単で、自身の代謝を死体ギリギリまで落としているだけだとか。
それを可能としていたのがアンデットジェネラルをはじめとする【不死性】を持つモンスターや、エルダートレントをはじめとする【再生力】を持つ魔物たち。
逆に言えば、3年前は俺が奪ったせいで気絶したらしいけど。あの時目覚めたのは実は奇跡らしい。あるいは、それだけ強く生きたいと願っていたからかもしれないが。
あれから俺たちは、いくつかのプロジェクトを開始した。
俺のスライムたちを何匹か連れて世界各地を回り、望まぬ『天職』を授かってしまった人にスキルを売り飛ばしている。
売り飛ばすって言い方はちょっと印象が悪いか。
より正確に言えば、貴族みたいなお金のある人たちからは高額を巻き上げて、孤児院出身の子供たちとかにはちょっとしたボランティア活動を手伝ってもらってから代わりにプレゼントしている感じだ。
無償で配布してもいいと俺は思うけど、
まあその気持ちはわからんでもない。
ああ、そういえば。
スライムを持ち歩いているなら、あいつもスライム召喚ができるんじゃないかと思ったけどそれは無理らしい。
スライム召喚はあくまでスライム
スライム側にあるのは【Link;スキル】だけであり、
だから、スキル頒布の旅は遅々として進んでいない。
俺も一緒に世界を巡ればいいんだけどな。
それより、もっと効率よく拡散する方法を模索したほうが賢いって話だ。
「で、どうだ? できそうか?」
「何の話だい?」
「とぼけるなよ」
この3年間。
俺たちが開発を進めていた商品のひとつ。
あるいは目玉商品と呼ぶべきもの。
『天職』が全てを支配するこの世界構造を根底からひっくり返す、革命の狼煙。
「スキルポーションだよ」
スキルポーション。
それは飲むと、飲んだ種類に応じたスキルを扱えるようになる魔法のポーションのこと。
これを安定供給できるようになれば世界が変わる。
剣の才能がなくて泣いている人に剣術スキルを付与できる。
魔法の才能がなくて嘆いている人に魔術を自在に扱える魔法をかけられる。
商人の才能がなくて困っている人に商才を与えることもできれば、職人の才能がなくて夢を諦めかけている人に生産スキルを恵むことだってできる。
そして何より、
「できる。と、明言したいところだけどね。こればっかりは試行錯誤を繰り返さないと何とも言えないかな」
それはそうか。
なんていったって、前人未到の領域だからな。
*
さて、この拠点には、錬金術を行うための専用ルームが用意されてある。
前回の収穫祭で使用したミステリーシードもそうだ。
というかこれもよくわからんよな。
育つと別の植物に変化するのに、どうやってミステリーシードは種子を作るんだ。
謎だ。
この世界にはアルラウネとかドリアードみたいな植物系の魔物も多く存在するし、そいつらの誰かが遺すのがミステリーシードなのかもしれないな。
わりとどうでもいいや。
「さあ、やってまいりました。悠久の歳月を生きる不老紳士による錬金術RTAです。実況は私ジーク。解説にはジークさんにお越しに来ていただいております。ジークさん、どうですか彼の手際は」
「非常にいいですね。下処理で使っているのは料理スキルの【百花繚乱】でしょうか。見事なまでの速度と正確さです」
「ありがとうございます。さてここまで成果物はありません」
「当然ですね。まだ始まったばかりですからね」
「ですよね」
スライムのスキル、【分身】を使って一人実況解説ごっこにいそしむ。
「……何やってるの?」
「「実況解説ごっこ」」
「そう、辛いことがあったら相談してね」
なぜか頭を心配された。
解せぬ。
「さて、続て取り出しましたのは『月の涙』。森林限界を超えた先に咲く
「これは覚えてますよ。珍しくうちのスライムが活躍しましたからね」
「と言いますと?」
「『月の涙』はその名の通り希少素材ですからね。普通であれば十分量の確保が難しいです。しかしうちの『アークウンディーネスライム』の手に掛かれば」
「ねえ、静かにしてもらってもいい?」
「ごめんなさい」
怒られたのでやめます。
しっかし、本当に。
ものすごい手つきだよな。
手先が器用な魔物でも旅先で捕まえて来たのか?
ありえそう。
「さて、じゃあ下準備はできたから用意してもらってもいいかい?」
「お、ようやく俺の出番だな?」
待ってたんだよ、この時をよ。
「召喚せよ! ヘルメススライム‼」
ヘルメススライムは【錬金術】スキルや【敏捷】に関係する能力を増やした時に現れるスライムだ。
それをここに100体召喚する。
「おお⁉ 錬金釜が輝いて見える……!」
「見えるじゃなくて輝いてるんだけどね」
「これが前に言ってた、錬金の祝福ってやつか?」
「そう。【錬金】スキルを持つものが100人以上集まった時のみ発生する現象さ。この時錬金釜は山吹色に輝き、生成される錬金物は1ランクも2ランクも上のものになると言われているんだ」
これが俺がここにいる理由。
別にやることが無くて暇だから見学していたわけじゃない。
まあこれが終わったらやることも特にないんだけどね。
「さて、後はこの状態で8時間じっくり煮込むだけだけど」
「そんな七面倒くさいことはまってられないのでカットです。はい【
時間魔法を使って錬金釜周辺の時間を8時間未来に吹き飛ばす。
ちなみに、どういう原理かはわからないけれど未来に飛ばすときはそんなに魔力を使わない。
果たしてできたポーションは……
「おーい、ジークー? いるんでしょー?」
おっと。ミラベルの奴が来たな。
ちょうどいいい。
試飲してもらうか。
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