不遇職【スライム召喚士】の異世界ライフ ~最弱の魔物《スライム》しか召喚できないハズレ職だからと追放された転生者、実は万能チートだったので悠々自適ライフを送ります~
第6話 タイダ、立つ……! 【剣神(笑)】
第6話 タイダ、立つ……! 【剣神(笑)】
ウィッシュアート邸、中庭。
一人の男が叫んでいた。
男の名はタイダ・ウィッシュアート。
天職啓示の儀にて『剣神』を授かり、ジークに代わりウィッシュアート家に養子として迎え入れられたラッキーボーイである。
「コレット! 早く来いコレット!」
男が叫んでいたのには理由がある。
「くそっ、あの剣聖、好き放題ボコりやがって……」
全身打撲で、動けなかったからだ。
もちろん、剣聖ザシオンとタイダの間で行われたのは鍛錬である。ザシオンとてタイダ相手に刃を立てて切りかかりはしない。ゆえに、剣聖の攻撃はすべて峰打ちだ。
だが、峰打ちとはいえ剣は鉄だ。
鉄の棒で殴られればやはり痛い。
そうして剣聖ザシオンはタイダをボコボコにしたうえで、彼に対してため息を吐くのだ。
「何が『お前の才能なら、所詮この程度か』、だ! 僕は『剣神』だぞ! たかが『剣聖』のお前なんかよりずっとずっと優秀なんだ‼」
天職を授かる前、まるで運動ができなかったころと比べればタイダの動きには目を見張るものがある。彼自身、ザシオンのもとで修行するようになり、自らの力量の上昇を肌で感じている。
だが、その実力差はまるで埋まっている気がしない。
タイダのフラストレーションは加速するばかり。
そのたび、彼のとる行動はいつもきまっていた。
すなわち、メイドいびりだ。
「くそ! コレット! 聞いているのか⁉」
自分より弱い立場の奴をいびっている時だけ、彼は『剣神』としての自負心を感じられた。
その瞬間だけが生きがいだった。
しかし――
「あー、はいはい。今行きますよっと。……うわ、あんたすごい体型ね。そんなんで生きてて苦しくないの?」
「は?」
その日、彼のもとに来たのはいつものメイドではなかった。
「だ、誰だ貴様は! ここはウィッシュアート家の土地だぞ! 一体だれの許可を得てここにいる!」
「は? 今日から私がウィッシュアート家のメイドなんだけど。そんなことも知らないの? あんたこそ本当にウィッシュアートの人間なの? デブだし短足だし、ちょっと匂うんですけど」
「な、なな! 無礼だぞ‼」
「近づかないでくださる? 【ウォータースライダー】」
「ぶべらっ⁉」
煽り言葉に、見事に逆上したタイダ。
しかし、剣聖ザシオンのシバキの後で疲弊した体では、自称新人メイドの【ウォータースライダー】を回避するだけのステップも踏めなかった。
体力があれば回避できたのかと言えばそれは別だが。
「さっきからうるさいのよ。コレットコレットって。いい? 私はルーナ。不出来な姉に代わって私がメイドになるから覚えておくことね」
「そ、そんな……横暴だ」
「何か文句あるの?」
「……ありません」
タイダは自分より強い相手に対して、徹底的に下手に出るタイプの人間だった。
「……くそ、とんだ厄日だ」
剣聖にボコられるわ、メイドに舐めた態度を取られるわ、コレットはいなくなるわ、何ひとついいことが無い。
こんなはずじゃなかった。
天職『剣神』を授かった時、人生の勝ち組になったはずだろう?
それがどうしてこんなみじめな思いをしている。
「あ、あの……タイダ様……」
そんな折、庭木の陰で訓練の疲れを取ろうと休息中の彼に声をかける少女がいた。
ウィッシュアート家に新聞を届けに来る、新聞配達の少女だ。
「なんだ」
「ひ、ひぃ、申し訳ございません!」
いろいろなことがあっていら立っていたタイダは、ぶっきらぼうに返した。
それが少女には恐ろしかったらしく、身をびくびくと震わせている。
そんな様子に、タイダは少し溜飲が下がる思いだった。
「要件を早く言わないか。それとも僕を怒らせたいのか? 『剣神』の僕を」
「申し訳ございません! あ、あの! 私、見たんです! コレット様が、ジーク様の過ごしているマンスリーのマンションに押し掛けるのを!」
「何?」
タイダが会話を続けようとしたのは、ただのうっぷん晴らしに過ぎなかった。だが、釣り上げた話はあまりにも大きなものだった。
「さっき、ルーナさんって人が『今日から私がウィッシュアートのメイドだから』って言ってきて、新聞なんていらない、帰れって水を浴びせて来て……」
「おお、おお……!」
新聞配達の少女がタイダに情報提供したのは、ただただ心優しいメイドに帰ってきてもらいたいという私欲からだった。
期せずして、ここに偶然「コレットに帰ってきてもらいたい」という共通項が生まれる……!
繋がる共同戦線……!
タイダ、圧倒的豪運……ッ!
「僕もあの新人メイドにはほとほと手を焼いていたのだ! 安心しろ! コレットは必ず僕が連れて帰る! 『剣神』の名において‼」
「本当ですか⁉ ありがとうございます!」
「ふはは! 大義は我らに有りだ‼ 覚悟しろよジーク。ハズレ天職のくせにコレットをたぶらかせたこと、後悔させてやる‼」
先ほどまでのぐったりした様子はどこへやら。
彼の眼には活力が宿り、北の地を指していた。
ま、ジークたちがいるのは町の南なんですけどね。
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