第5話 そうですね! 私を雇う金額ですか? ひと月あたり25万で手を打ちましょうか。ですがこれはあくまでメイドとして雇用する場合の話です。もし私をお嫁として迎え入れてくださるなら――

 れぱちっちょの群れを討伐したことで、報酬が下りた。一種族をまるっと絶滅させると生態系に異常が起きることがあるけど、俺たちが今回討伐したのはあくまで群れのひとつだけ。大量発生している集団クラスタ以外にもれぱちっちょはいるし、多分問題ないはずだ。


 ということでギルドに報告。


 ミラベルは「何もしてないから」と報酬の分配を断ったけど、彼女がいなければ受けられなかった依頼だ。

 話し合いをした結果、彼女の取り分が5万、俺の取り分が25万で落ち着いた。


 仲介手数料だと思ったら安い方……なのか?


 とにかく、俺は報酬を片手に帰宅したわけだ。


「おかえりなさいませジーク様」

「うおっ、ずっと立ってたのか?」

「ふふ、さて。どうでしょうか」


 マンションの扉に手を掛けようとしたタイミングで、扉が開いた、自動で。

 その奥からぬっとコレットが表れる。


 自動ドアなんて久しく見ていなかったこともあり、軽くホラーだったぞ。


「コレット、大事な話があるんだけど」

「だ、大事な話ですか?」

「ああ。コレットのこれからを決める大事な話だ」

「ジーク様? その、お待ちを。いきなりそのようなことをおっしゃられましても、心の準備が」

「気持ちはわからないでもないけど、今すぐに決めなきゃいけないことなんだ」


 緊張する。

 その気持ちはよくわかる。

 俺だってそうだった。


「メイドの雇用相場ってどれくらい?」

「はい?」


 就活の結果報告を受けるときは、いつだってドキドキだった。


「情けない話なんだけど、ウィッシュアート家にいたころはそんなこと全然気にしてこなかったんだ。コレットが来てくれてうれしいけど、正直どれくらいの額を渡せばいいかがわからない」

「……あの、話って、これですか?」

「そうだけど?」


 他に何の話が。


「男女が! 同じ屋根の下で! 共に過ごすのですよ⁉」

「コレットも家無しかー。馬小屋での寝泊まりの辛さは俺も知ってるからな……、遠慮することは何ひとつないぞ」

「男女が! 同じ屋根の下で! 共に過ごすのです‼」

「すごい強調構文」


 わかった、悪かったって。

 からかうような言い方してごめんって。


「安心しろって。コレットは俺の親族みたいなもんだ。手出ししたりなんてしないよ」

「……私はむしろウェルカムなのですが」

「ん?」

「なんでもございません」

「あの、コレット、さん? 怒ってる?」

「怒ってません‼」


 怒ってるじゃん。


「そうですね! 私を雇う金額ですか? ひと月あたり25万で手を打ちましょうか。このような宿に泊まらざるを得ないジーク様にそれだけの額を払えるならですが! ですがこれはあくまでメイドとして雇用する場合の話です。もし私をお嫁として迎え入れてくださるなら――」

「お、ちょうど25万あるんだ。はい」

「……」

「コレットー?」


 あれ? 固まった。

 コレットの前で手を振ってみる。

 黒目が追いかけてくる。

 ふむ、反射反応はありと。

 気絶はしてなさそうだ。


「ジーク様、盗みはまずいですよ……」

「待って真っ当なお金だって。なんで盗みだと思ってるの」

「ジーク様が天職を授かってひと月と少しですよ? 駆け出しの冒険者が稼げる額のはずありません」

「なんで俺より詳しいの」


 俺は知らなかったんだけど、低ランクの冒険者がランクの高い依頼を受けられないこと。


「まあ、コレットの予想は正しいよ。俺の冒険者ランクは今日ちょうどEになったばっかだし、Fランクの依頼じゃどう頑張ってもコレットを雇う額を稼げない」

「存じております」

「コレット。もしかして俺が払えなさそうな額を提示して――」

「そのような姑息な手段、思いつきもしませんでしたね」

「めっちゃ食い気味に否定するね?」


 まだ全文開示してないんだけど。

 早押しクイズの才能あるよ。


「でもな、ミラベルが力になってくれたんだ」

「あの女狐……! お金でジーク様を買って――」

「買われてないから」

「安心しました」

「ただ一緒にパーティを組んだだけだって」

「やはり殺しておきましょう。ジーク様、ご指示を」

「出さねえよ?」


 落ち着け。

 コレットは優秀なんだけど、時々暴走するんだよな……。

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