4. 死体

「ねぇ、どうかしたんですか? 急にそんな急ぎ足で!」

シンバはキティンの手を強引に引っ張り、ビーチルドの部屋を足早に出ていた。

「いいか、あの部屋には二度と近付くな!」

「どうして?」

「あそこはガードスーツを着なきゃ入れない場所なんだよ!」

「でもシンバは?」

「いいか! アンタは部外者だ! 障害者の奴等とどうでもいい遊びでもしてろ!」

そう言ったシンバに、キティンは、掴まれた腕を、強く振り払った。振り向くシンバにキティンは睨み返す。今までのキティンとは想像もつかないくらいのキツイ表情。

「どうでもいい遊びってなに?」

口調も、声色までもキツイ。

「シンバってそんなに偉いの? シンバも健常ってだけで、障害を持って生まれた人達より偉いと思ってる人間なんですね!」

「なんだよそれ」

「障害者を劣っているって思ってる人間って事!」

「・・・・・・」

「障害を持って生まれた人だって、素晴らしい命のひとつよ! 寧ろ私達より優れてる事だって沢山あります! なにより、私達よりも心がとても純粋なんですから!」

「・・・・・・じゃあ聞くけど、アンタは障害者と恋愛できるのかよ」

「え?」

「愛せるのかって聞いてんだよ。他人を愛するって結構難しい。ましてや自分と全く違う思考の持ち主を受け入れるのは簡単な事じゃない。アンタがやってる事って愛のない偽善だろ? 知的障害なら尚更そこに健常との愛が生まれるとは思えない。知能が子供なんだ、そんな奴等にどんな愛を与えれる? 通常の親だって、育児ノイローゼとかで、虐待したり、子供を捨てたりする時がある。全ての人間に愛を与えるなんて不可能だ」

「不可能じゃないです! 勿論、私やシンバは無理かもしれない。でも知的障害者は全ての人を受け入れます。私達が拒否しなければ、全ての人に大好きって気持ちを持ちます!」

「じゃあ知的障害者は知的障害者同士仲良くしてれば?」

「え?」

「だってそうだろ? 知的障害者が僕達を愛してくれても、僕達がそれを受け入れない」

「・・・・・・」

「所詮、愛なんてそんなもんだ。それに知的障害者とセックスするなんて考えれない。勿論、セックスだけが愛だなんて思ってないけど、結果的にセックスは必要になる。愛イコール子孫繁栄と考えたら尚更。セックスレスが原因で離婚する人もいる世の中だ。愛なんてものはその程度のものなんだよ。あぁ、でも、女の知的障害者を犯す奴等もいるよな、でも暴行は愛じゃない」

「シンバって自分を傷付ける言葉しか言わないのね」

「は?」

「だってシンバの話を聞いてて、シンバがどんなに嫌な奴かって事しかわからないんだもん。そんなに自分を傷付けて辛くない?」

——何言ってんだ、コイツ。

——どうしたらそんな解釈ができるんだか。

「シンバの存在を、そんなに自分で否定しちゃ駄目だよ。シンバのお父さんとお母さんだって愛し合って、そしてシンバが生まれたんだよ。子孫繁栄とか、そんな事でシンバが生まれた訳じゃないと思います」

「わかったような事言うな!!!!」

シンバは、怖い顔をして、凄い怒鳴り声を上げてしまった。キティンは驚いて、

「ご、ごめんなさい」

思わず謝った。

シンとする間と、ローカを通る研究員達の視線に、シンバは、その場から逃げ出すように、走った。キティンの呼ぶ声が耳に入ったが、振り向く事もせずに走った。

シンバの脳を駆け巡る人の胎児に似たビーチルドの姿とキティンの笑顔とリタの嫌味な微笑、シオンの煙草の煙、コウとハーゼの笑い声、そして死体保管室に眠る母親。

グルグルグルグルと回る——。

気付いたら、いつも一人で落ち着ける場所、屋上に来ていた。

息を切らせ、空を見上げる。曇り空が悲しそう。

白い吐息——。

冷たい風がシンバの頬と髪を撫でる。瞳に映る風は色もなく、手に触れられないのに、風はシンバを包むように触れていく。

手には握り過ぎて、グシャグシャになったリゲル2番街の借家リストの紙が持たれている。

シンバは座り込むと、その紙をコンクリートの地に置き、グシャグシャになった部分を綺麗に伸ばし、そして、紙飛行機を折り始めた。

立ち上がると、シンバは出来上がった紙飛行機を飛ばした。

風がシンバの手から受け取るように、紙飛行機を滑らす。

うまく出来なかったのか、それとも風が不機嫌なのか、紙飛行機は余り遠くに飛ばないまま、冷たいコンクリートの地に落ちた。

シンバは落ちた紙飛行機の場所まで、3歩程歩き、拾い上げた。

リゲル2番街の借家リストの紙飛行機。

——ルエーフ博士に会いに行こう。

それが答えだと、もうそれしかないのだと、シンバは空を見上げ、風に頷いた——。



更衣室に来ていた。

自分のロッカーを開け、白衣を脱ぎ、中からジャケットを取り出す。

ずっとロッカーに入れっぱなしのジャケット。ロッカー自体、ずっと使っていなかったので、埃っぽい臭いがする。

シャワーを浴びても、着替えは、ランドリールームで、洗濯して乾燥をしたモノを繰り返し着ていた。

「シンバ、ここにいたのか」

ドアが開き、入って来たのはコウ。

「白衣を脱いだシンバを見たのって久し振りだなぁ。チーフから聞いたよ。外出許可もらえたんだって? 本当に外出するとは思わなかったよ。で、どこへ行くんだ? クリスマスに会いに行く女なんていないだろう?」

「別に会いたい人もいないし、行く宛なんてないよ。只、少し自由がほしかったんだ」

「ふぅん・・・・・・金はあるのか?」

「一応、ここでの労働分はバンクに入ってるから、シオンさんが下ろして来てくれた。いくらなんでも只働きはないからね。僕がもしビーチルドを解明した場合、僕はルエーフ博士と対等に並ぶ学者になる。その時に只働きだったら問題あるでしょ」

「そうか。シンバ、監禁状態で研究してたろ。生活には困ってなかったみたいだから、給料はなしって感じでここに住み込みなのかなぁって思ってたから。そのジャケットは?」

「これ? これは去年のクリスマスプレゼントにもらったんだ」

「誰から?」

「シオンさんから」

「へぇ。あのおっさん、趣味いいよなぁ。シンバの服とか全部揃えてくれてんの?」

「大体はそうしてもらってるよ。シオンさんにはバンクのカードナンバー教えてあるから、必要な物とかあれば、お金下ろして買ってきてって頼んだり」

「あのおっさん、怖そうだから俺は話した事ねぇし、一応、研究員としても上の人間だから親しくなる事なんてねぇけど、シンバクラスになれば、あのおっさんとも渡り歩けるって訳だ。シンバと俺ってそんなに違うのかねぇ」

「・・・・・・」

コウの言いたい事は直ぐにわかった。ルエーフ博士の息子じゃなかったら、お前だって相手にされてないんだと。

——その通りだ。

シンバは鼻で溜め息を吐くと、ジャケットを着た。コウが、似合うじゃないかと、シンバの左肩をポンポンと叩く。

「今夜辺り、雪が降るらしいぞ」

「へぇ、ホワイトクリスマスだね」

「そうだな。可愛い女の子と過ごしたいよなぁ」

「コウはそればっかりだな」

二人で何気ない会話をしながら、更衣室を出ると、キティンが立っていた。

「シンバ! あの、ここに入っていくの見たから、出て来るの待ってたんです」

そう言いながら、シンバの傍に駆け寄って来た。

「あ、あの、さっきはどうして怒られたのかわからなくて・・・・・・」

「ああ、もうやめよう、その話は」

「でも、まだ怒ってるんじゃないですか?」

「もう怒ってないよ」

キティンはシンバのその台詞に、嬉しそうに微笑む。

行き成りコウが、シンバの首に手を回し、自分の方へシンバを引き寄せた。そしてシンバの耳元で、

「誰だよ、この可愛い女の子は!? ああ!? お前やっぱデートなのか!?」

と、キティンに聞こえないように小さい声の怒り口調で囁く。

「違うよ、 この人は——」

「シンバって、お父さんみたい」

突然、クスクス笑いながら、キティンがそう言った。

父親に見られる程、老け顔でもない。コウとシンバはきょとんとする。

「シンバの白衣の下に着てる私服に、少し似てるなって思ってたの。でもそのジャケット! お父さんのセンスそのもの。きっとお父さんがそのジャケット見たらほしがるかも」

「へぇ、あなたのお父様もセンスいいんですねぇ。あ、俺、コウ・ツィンディ! どうですか? 今夜、一緒にお食事でも」

——って、行き成りかよ!?

キティンの肩に手を置くコウの態度に、シンバは、やれやれと呆れる。

「彼女は彼氏持ちだ」

そう言ったシンバに、キティンもコウも、二人揃って、『えっ』と、声をあげた。

「因みに彼女はシオン・ガーディアスの娘さんだ」

コウは『げっ』と、声をあげ、キティンから離れる。

「シンバ、どうして私が彼氏持ちだってわかるんですか? そんな話シンバとしたっけ?」

「・・・・・・可愛い子は彼氏持ちでしょ」

シンバはシオンから聞いたとは言わなかった。

「可愛いなんて言われた事ないけど・・・・・・ありがとう。年下の男の子にそんな風に言われるのって恥ずかしいけど、全然悪くないね」

キティンは嬉しそうに、そう言うから、シンバは、なんて答えていいか、わからず、とりあえず、あっそう・・・・・・と、どうでもよさそうな返事をする。

「ねぇ、シンバ、これから仕事じゃないの? 白衣は?」

「ああ、僕は今日と明日は仕事休みなんだ」

「そうなの? クリスマスだもんね! 誰と過ごすの?」

「生憎、彼女なんてものはいないからね。一人で過ごすよ」

「家族がいるじゃない。お母さんの美味しい手料理とか」

「いないよ」

「え?」

「僕は一人なんだ」

シンバは、そう言うと、笑顔で、じゃあと手を上げた。コウも、またと言うように手を上げる。キティンは取り残された気分になるが、去って行くシンバの背を見送る事しかできない。シンバの背はまだ少年で、小さく思う——。



研究所の外はマスコミの山。

一歩外へ出ると、報道人から警備員がシンバを守るように、現れた。

「少年です! まだあどけない表情のある少年です! まさか研究員でしょうか!?」

——窮屈だ。

「中の様子をお聞かせ下さい! あなたは研究員ですか?」

——息苦しい。

「Solarはこんな少年にまで何をさせているのでしょう?」

そうは言っても研究員になれない年齢ではない、現に同じ年齢のハーゼは雑用だが、ここで働いている。

Solarのような圧力をかけれない場所は、当たり前の事でも態と問題を大きくし、世間に悪い噂を流し、真実を暴こうというマスコミの魂胆なのだろう。

——生き辛い世の中だ。

報道の人混みを何とか走り抜けたが、結局、すぐに急ぎ足で行き交う人達やビルなどが目の前を遮る。

シンバは窮屈すぎる世に溜め息を吐く。やっと出られた外の世界には夢も希望もなく、つまらないものが詰まり過ぎている。

「おっと、大丈夫か?」

「すいません」

ぼんやりと風を追うように空を見上げていた為、男性にぶつかってしまった。

「メリークリスマス。こんな日に冴えない顔してるね」

ニッコリ微笑む男性。

「あ、いや、そうですか?」

何て答えていいのか、わからず、シンバはマヌケた返事をする。

「どうかしたの?」

「え、べ、別に・・・・・・」

こんなにも外の人間は友好的なんだろうか?

「キミ、女の子みたいだね、色が白くて、線が細くて。綺麗だね」

「え・・・・・・」

「誉めてるんだよ、もっと喜んで?」

「あ、いや、急ぎますから」

そう言って、男の横を通り抜けた瞬間、

「Solarの人間はみんなキミのように死体のような顔なのかな?」

男がそう言った。振り向くと男はニヤニヤとシンバを見ている。

「・・・・・・あなたは誰ですか?」

「オレに興味ある? オレもキミに興味アリアリ」

男の笑い顔が、シンバの勘に触る。

「Solarから出てきたのを見たんだ。キミは研究員? それとも——」

ニヤけた男の顔が近付いて来る。

「それともなんですか?」

「それとも・・・・・・人を売りに行ってたとか?」

「・・・・・・」

「おっと黙秘? 最近の若い子が、ホームレスをSolarに売って、金を手にしてるなんて噂は知ってる?」

「知りません」

「知らない? じゃあ、人なんか買ってSolarは何してると思う?」

「それ質問おかしくないですか?」

「ん? なんで?」

「何してるか知ってる?って聞かれたら、知らないって答えれますけど、何してると思う?って尋ねられても、想像もつかないですから答えれません」

男は成る程と頷く。

「マスコミの人なんですか?」

「キミはSolarとどんな関係?」

「・・・・・・僕の質問は無視ですか? だとしたら僕も答える義務はないです」

「そんなおっかない顔するなよ。オレはキミを責めるつもりはない。只、Solarの中で起きてる現実が知りたいんだよ。事実を手にしたいんだ」

「スクープになるネタがほしいって事ですか?」

「まぁ、早い話がそうなるかな」

髪の色はダークブルー。瞳はライトブルー。肌の色は白。背はシンバより少し高め。ボサボサの髪型に垂れた目尻。特徴をもう一つ。白い肌だからか余計に目立つ頬の傷跡。

「ん? なんだよ、オレの顔に何かついてるか? あ、この傷跡か? これはな、戦場でな、ゲリラに捕まったんだ。オレの体を知る奴はもっと凄い傷跡を見てる。こんな仕事してんだ、生きてるのがラッキーってくらいだ」

「・・・・・・戦場」

「なんだ? 戦場がどうかしたのか? そうか、戦場なんて知らない幸せな家庭で育った坊ちゃんなんだなぁ。この世界にはまだ戦争が終わらない国が幾つもあるんだ。少年兵と言って、お前よりもずっと若い、いや、若いなんてもんじゃない、子供だ。子供が人間を殺戮してる世なんだ」

そう言うと、男は懐から写真を出した。その写真にはゴミのように転がる死体が映っていた。襲撃でやられた跡。それを物語る一枚の写真。

戦場で撮ったスクープといったところだろうか。

「あれ? 結構普通だな。坊ちゃんがこんなの見たら発狂するかと思ったのになぁ。まぁ最近の若い子はこういうの結構好きか?」

好きとか嫌いとか、そういうものではない。母親の死体を見てるシンバにとったら、どんな死体だろうと、無関心でいられるのだ。

例え、10歳も満たない子供の喉から下が、骨が剥き出しになった死体だとしても、残酷だねと客観的に見る事さえ、ましてや可哀相だねと、同情さえできる感情の余裕さえない。

しかし、シンバは、それだけじゃないのか、その写真を無感情でありながらも、ずっと見ている——。

「それにしてもお前、誰かに似てるんだよなぁ。Solarから出て来た時から思ってたんだ。お前、名前は?」

「・・・・・・シンバ。シンバ・レインハルト」

律儀にセカンドまで名乗ってしまったのは、ぼんやりと写真に魅入っていたせい。

「・・・・・・レインハルト? そうか、お前、ルエーフ・レインハルトの息子か? 道理で誰かに似てると思ったら、ルエーフ・レインハルトの面影があるんだ」

ルエーフの名はマスコミの間でも有名なのだろう。

「違います。僕が似てるのは死体です」

「は?」

「あなたも言ったじゃないですか。Solarの人間はみんなキミのように死体のような顔なのかと。みんなじゃなく、僕が死体のような顔なんです」

「ちょっと待て、そういう意味じゃない!」

「そういう意味でいいんです。僕は母親似ですから」

「お、おい、ちょっと待て! どういう意味だよ!?」

シンバは走り出していた。シンバを追い駆けながら、男は、

「待てって! レインハルトの息子に会ったんだ、逃がさねぇぞ!」

と、スクープを逃すものかという勢い。だが、人の多さにシンバは消えた。

「くそ! どこ行きやがった! せめて名刺でも渡して、アイツの近くにオレという存在を傍に置いておくんだった!」

男は懐からスティーア・オックスと自分の名が書かれた名刺を出し、役に立たないとばかりにグシャっと握り潰した。

「・・・・・・死体似で母親似? つまり母親は死体って事か?」

男は独り言を呟きながら、来た道を戻って行く——。



シンバは駅に来ていた。そしてリゲルに向かう電車に乗った。

リゲル2番街の借家リストをジャケットのポケットから出す。

——ルエーフ博士。あなたは今の僕を見て、なんて言うだろうか・・・・・・。

——あなたが想い描いた僕という姿は、恐らく欠片もないだろう・・・・・・。

——だって僕はこうなりたかった訳じゃないから・・・・・・。

電車の窓の流れる景色を見ながら、シンバは思い出していた。

幼い頃の自分を——。

リゲルに着き、シンバは駅からタクシーに乗った。

そして着いた場所はリゲル2番街ポストナンバー3時計台裏という所。

運転手が言うには、ここから車では入れない路地に潜れば、住所の場所に行けると言う。

シンバは言われた通り、狭い暗い道のりを歩いて行く。

暫く歩いて行くと広い場所に出た。空き地を挟んで工場跡地。

もう昔に潰れてしまったのだろう、人気がなく、荒れ果てている。その向こうに古びた一軒家。かろうじて人が住める建物はその一軒家しかないだろう。シンバが急ぎ足になった時、ふと空き地に寝転がっている犬が目に入った。

大きな犬だ。ゴールドの毛並みが美しい。

シンバは足を止め、その犬を見つめる。記憶の断片が蘇る——。



『父さん! 僕ね、妹がほしいな』

『どうしたんだ、突然』

『だってね、父さんは毎日忙しくて僕と遊んでくれないから』

『それで妹か?』

『本当はね、弟がほしいんだけど、でも僕より弟が可愛がられるのはちょっと嫌だから』

『妹が可愛がられるのはいいのか?』

『うん! 僕も一緒に可愛がるんだ。女の子には優しくしなきゃ駄目だから』

『ははは、そうか』

『それでね、紙飛行機作ってあげるんだ』

『でもな、シンバ、そう簡単に妹はできないんだ』

『どうして?』

『どうしてかなぁ。シンバがもう少し大きくなったらわかるだろう。そうだ、シンバ、犬を飼ってやろう』

『犬?』

『ああ、シンバの親友になるような犬だ。飛ばした紙飛行機を一緒に追い駆けてくれる大きな犬だ。いつもシンバと一緒にいて、いつも遊んでくれる犬だ』



その約束は果たされないまま、ルエーフは消えた——。

シンバはほのぼのとした優しい温もりの記憶に目眩を起こしそうになる。吐き気と冷や汗。

気持ち悪くてならない。どうして消えてほしい記憶なのに消えずに残っているのだろう。ちょっとしたスイッチが入ると映像は鮮明に脳に蘇る。

憎しみが糧となって生きているシンバにとって、父親の優しさを思い出す事は辛い。

体中に記憶しているルエーフを全て吐き出したい。その所為か、吐き気が止まらなくなる。

「バウッ!」

犬が突然起き上がって吠えた。見ると、空を駆ける紙飛行機。すぅーっと滑らかに犬の足元に落ちた。シンバは犬に近付く。犬は飼い犬なのか、怖がる事もせず、堂々と立っている。目の前で犬を見るとかなり大きい事がわかった。そっと手を出し、頭を撫でてやると、犬は尻尾を左右に振った。

シンバは落ちている紙飛行機を拾う。そして飛んで来た方向を見る。

あの古びた一軒家が見える。

「二階の窓から飛ばして、風にうまくのったんだな」

そう、これで確実に、あの一軒家に誰かが住んでいる事は間違いないと確信した。

走り出すシンバの後ろを追うように犬も付いて来る。

そして、その一軒家を目の前で見ると、外観が今にも崩れそうで、どう見ても空家っぽい。ドアの所には呼び出しブザーさえない。

シンバは仕方なく、ドアをノックしながら、

「すいませーん」

と、声を出してみる。シーンと静まる妙な間。

「すいませーん、誰かいませんかー?」

シンバを真似ているのか、

「バウッ! バウバウバウ!」

と、犬も吠え始める。すると、

「待ってぇ、今開けるからぁ」

と、中から女の子の声が聞こえて来た。

——ルエーフ博士が住んでる所じゃない?

——どうしよう、全然知らない人が出て来るぞ。

——取り合えず、人を探してるって言って、情報を得るフリをして立ち去るか・・・・・・。

どこかでルエーフに会える事を期待していたのだろう、シンバは暗い表情になる。

持って来た借家リストの紙をポケットから取り出し、広げて見た瞬間、ドアが開いた。

「おかえり、ホーキンズ」

そう言って、現れた女の子は、シンバを見て、驚いた表情をしたが、シンバもその女の子に驚いていた。

「・・・・・・オレンちゃん?」

今朝、テレビで見たタレントが目の前にいる。

「あ、やば、ファン?」

「あ、いや、僕は人を探してるんだけど」

どうやらホーキンズというのは、犬の名前らしい。犬は尻尾をフリフリ、家の中に入って行った。シンバの声にではなく、犬の鳴き声で、ドアを開けてしまったのだろう。

「あれ? キミ、どっかで逢った事ある?」

オレンはシンバの顔を覗き込む。

「ないよ」

「ううん、だって、どっかで逢ってるって! ボク、記憶力いいんだから!」

「ぼく?」

直ぐに自分の事を「ボク」という女の子なんだとわかった為、聞き返した事に後悔をする。

そういえば、テレビでも自分を「ボク」と呼んでいた。

気付くのが遅いと、シンバは自分に苦笑い。その時、

「おーーーーい、オレーーーーン、なんだか焦げ臭いぞぉーーーー!」

家の奥で、男性の声がした。

「はぁーい」

オレンは男性の声に、返事をし、シンバに、

「ごめんね、博士にシュークリーム焼いてる所なんだ、用があるなら早く言っちゃって?」

そう言った。

「・・・・・・博士?」

「ん? 博士に用事? だったらボクが助手だから変わりに用件を伝えるよ。今、博士、忙しいみたいだから。朝からずっと二階の研究室に閉じこもりっぱなし!」

「・・・・・・キミが助手? タレントだろ?」

「んっと、それは・・・・・・ボクの夢かな? ボクね、いろんな人達と仲良くなりたくて、もっともっと世界中の人達と知り合えたらなぁって思って、それが夢なの。だからタレントになったの。でも本職は助手なの」

ヘラっと笑いながら、そう言ったオレンなど、シンバは眼中に入ってない。

シンバは二階の窓から飛んで来たであろう紙飛行機を思い出す。

「悪いが、二階にお邪魔させてもらうよ」

「え? え? なんでなんで? ちょ、ちょっと勝手に入らないでよ! 博士は今忙しいんだってば! ちょっと!! 不法侵入!! 警察呼ぶよ!!?」

「呼べば? スキャンダルに困るのはキミだ」

「兎に角今は帰って!! 博士は忙しいんだってば!!」

「紙飛行機作ってる暇があるんだ、少しくらい平気だろう!」

「紙飛行機?」

「どけよ!」

シンバはオレンを突き飛ばした。オレンは後退してしまう。その隙にシンバは部屋に入り込んだ。

「いったいなぁ! 何するんだよ! キミ、一体なんなの? ストーカー!?」

オレンが怒鳴っているが、シンバは階段を探す。

犬のホーキンズが暖炉の前で欠伸をしながら、シンバとオレンを見ている。

その暖炉の向こう側、キッチンに入る手前に扉を見つける。

ホーキンズの目の前をズカズカと通り抜けるシンバ。オレンがシンバの腕を引っ張りながら、何やら吠えているが、シンバはお構いなし!

扉を開けると、シンバは階段を見つけ、駆け上がった。

「あ! もぉ! 博士の研究を邪魔したら駄目なのに。大体、ホーキンズもどうして吠えないのさ! いつもならボクのしつこいファンとか記者達とか追い返してくれるじゃないか! そりゃあ、ボクは友達一杯ほしいって思ってるけど、ボクを特別な目で見るファンとか噂話を書き上げる記者とかは嫌だよ! ホーキンズもわかってる癖に、どうして今日に限って吠えないのさ! 番犬の意味ないじゃない!」

「でもアイツ、ファンとか記者とかじゃなさそうだよ?」

「そんなのどうしてホーキンズがわかるの?」

オレンはショートの髪のサイドだけアップにし、それが噴水のように頭の上で括られている部分を揺らして、ホーキンズを見る。髪の色はブラウン。

「だって目当てもオレンじゃなくて博士の方みたいだし。それに、オイラはアイツ嫌いじゃない」

「・・・・・・どうして?」

「オレンにそっくりだからさ」

ホーキンズは欠伸をしながら、眠そうな目をし、暖炉の火を見つめる。

「・・・・・・ボクに・・・・・・そっくり・・・・・・」

オレンもそう呟きながら、ハニーの瞳に暖炉の火を映した。



シンバは階段を上りきった所で、白衣姿の男の後姿を目にしていた。

「オレン、騒がしかったが、またお前のファンが来たのか? おかしな話だ、居場所なども全て秘密にしてあるのに、バレる時はバレるんだなぁ。人の執念というものかな。そろそろこの場所から離れた方がいいかもしれんなぁ」

その声は、懐かしくもなく、憎悪だけがシンバの体を支配する。怒りに満ちた表情のシンバ。男はまだ振り向かず、一生懸命何かをしている。

——今はまだ振り向いてほしくない。

——こんな感情まるだしの顔を見られたくない。

——落ち着いて、思考を安定させるんだ。

——そう、落ち着いて、この男に何の感情も生まれないように。

「そうだ、オレン、全国ツアーがあると言っていたな、それが終わったら、引っ越そう」

男は笑いながらそう言って、振り向き様に、シンバ目掛けて紙飛行機を飛ばして来た。勿論、男はそこに立っているのはオレンだと思っていた為、酷く驚いた顔をする。

シンバの頬の横をすぅーっと通り抜ける紙飛行機。

シンバの瞳はずっと男だけを映している。既に表情には、感情はない。

「・・・・・・キミは?」

「僕はSolarから来ました」

「Solar・・・・・・から・・・・・・」

「ルエーフ博士ですよね? シンバ・レインハルトです、よろしく」

「・・・・・・シン・・・・・・バ・・・・・・?」

シンバはルエーフから目を離し、部屋を見回す。

「ここで何の研究をしているのか知りませんが、Solarに戻れば、もっと良い設備で研究ができる」

そう言いながら、部屋へと一歩一歩と足を踏み入れ、そこにある妙な機械などを冷めた目で見つめる。

「あなた程の人間、国宝級ですからね、Solarに来れば、もっと楽な生活ができるでしょう。それとも他に行く宛てがあるんですか? どこかの国があなたの頭脳を買ってるとか? なら、Solarはその倍、あなたに金を出すでしょう、例え、あなたが一日中紙飛行機を作っていたとしてもね。それがビーチルドの解明になるのなら」

態とビーチルドと言う所にアクセントを強くするシンバ。

「あれこそ、あなたのやるべき仕事・・・・・・いや、使命じゃないんですか、ルエーフ博士」

シンバは再び、ルエーフを見る。

「——シンバ」

ルエーフは呟くようにシンバの名を呼び、懐かしむ目でシンバを見つめる。

「・・・・・・大きくなった。わたしの知っているシンバは、まだ小さくて。いや、鮮明な記憶として残っている想い出が、よく一緒に遊んだ5、6歳の頃だからだろうか。わたしがあの研究所を出た頃は、シンバは9歳・・・・・・だったな。もう色々とわかる年齢でもあったな。だからこそ何も言わずにいなくなったわたしを許してはくれないとわかっている。せめて、顔を・・・・・・Solarに戻る前に・・・・・・もっとちゃんと今のシンバの顔を・・・・・・もう少し近くに来てはくれないか・・・・・・」

——何を言っているんだ、この男は。

——今更、そんな目で見られる事に、どれだけムカツクか!

——芝居染みたセリフに、どれだけ胸がムカムカ来るか!

——吐き気がする。

胸の底から込み上げて来る気持ち悪さに、シンバは顔を俯かせた。

「シンバ・・・・・・顔を上げてくれないか・・・・・・もっとよく・・・・・・」

ぶち切れそうになる思いを必死に抑え、シンバは顔を上げた。その顔は冷酷にも無表情過ぎる。

「何か勘違いをしているようですね、ルエーフ博士」

「・・・・・・勘違い?」

「ええ。僕があなたを探しに来たのは、あなたと懐かしい感動の再会をする為ではないし、実はあなたをSolarに渡す気もないんですよ」

「わたしを連れて行かないのか?」

「僕はあなたにもらいたいものがあるんです」

「わたしに?」

「僕にビーチルドの正体、即ちビーチルド解体データーを下さい」

「・・・・・・」

「あれはあなたが創り出した代物でしょう? データーがある筈ですよね」

ルエーフは黙り込む。シンとする静けさ。

「ルエーフ博士、あなたはどこで知り合ったのか知りませんが、追われている身でありながらも、人気タレントの女の子と暮らし、ボロ家とは言え、犬のいる優雅な暮らしで満足しているんでしょう? だから戻っては来なかった——」

——母さんの所には・・・・・・。

「Solarには戻って来なかった。なら、このまま逃がしてあげましょうって言ってるんですよ。悪い話ではないでしょう?」

「ビーチルドを知りたいのか?」

「・・・・・・ええ。今は僕の研究材料となってますから」

「シンバ、お前がビーチルドをリサーチしているのか?」

「ええ。後、僕を呼び捨てるのはやめて下さい」

「・・・・・・わたしはビーチルドをお前に任せる気はない」

キッパリとそう言ったルエーフ。

「わたしが姿を消したのは、ビーチルドを無に戻す為だ。わたしに変わり、誰かがビーチルドを調査しようとも、あれを完璧に解明する事など不可能だと、わたし自身よく知っている。だからビーチルドは持ち出さず、そのまま静かに置いて、私は去った。その方がビーチルドにとってもいいんだ、無機質な研究室でいた方が」

——無機質な研究室でいた方がいい!?

「わたしはビーチルドを無に戻そうと今も研究している。その研究はSolarではできない。いや、Solarだけでなく、どこの研究所でもできない。何故なら、あれを無に戻そうという考えを持ってくれる連中がいないからだ。わたしの今の考えを誰が賛成してくれようか。それどころか、無に戻す研究は全て却下され、調査したデーターこそ削除されてしまう可能性が高い。どうしても、どうしても無に戻さなければいけないのだ。欲のある連中が、あれの本当の姿と、その存在に気が付く前に!」

「・・・・・・あれは死者を蘇らせるきっかけになるモノ・・・・・・ですか?」

ルエーフはそう言ったシンバを物凄い怖い顔で見た。だが、その顔は一瞬で、すぐに元の顔に戻り、首を左右に振った。

怖い顔になったのは、人の死体に何かしたのかという事だろう。シンバの表情から、それはないと思い、すぐに元の表情に戻ったのだ。

しかし、死者を蘇らせるモノでないのなら、シンバの母親を生き返らせる想いは、届かない事になる。その想いさえ、無くなってしまえば、シンバの中に残るものは、もう憎しみしかない——。

「では、あれは生物兵器ですか」

ルエーフは首を左右に振る。

「宇宙を圧縮したものですか」

ルエーフは首を左右に振る。

「馬鹿にしてますか」

とんでもないと、ルエーフを目を丸くし、首を左右に振った。

「ルエーフ博士、あなたはビーチルドを無に戻すなどと言ったが、無から生まれた事自体が手品みたいだ。何も無い所から物質が突然現れる。そんな事有り得ない。でもあなたはその有り得ない手品か魔法のような事をやったんだ。Solarの研究室で。いいですか、ルエーフ博士、こんな所で研究していても魔法のような出来事はない。奇跡は二度も起こらない。奇跡を起こしたいなら、魔法を起こせたSolarの研究室が必要だ。Solarの研究室に戻れる僕に、ビーチルドの全てのデーターをくれればいい。それだけだ」

ルエーフは首を左右に振る。

「・・・・・・じゃあ、ここでどんな研究が出来たんですか。10年も姿を消しておいて、あなたは何をしてたんですか」

ルエーフは下を向いて、黙り込んだ。苛立ちがシンバの体内に溜まって行く。

「ルエーフ博士、こんな話を知っていますか?」

ルエーフは顔を上げる。

「ある所に、息子と妻を持つ男がいました。その男は罪から逃げるように、息子と妻を捨てました。息子と妻は、男の居場所を知ってるだろうと捕まりました。結局何も知らない二人は釈放される事なく、息子は懲役をつけられ、妻の方は死刑になりました・・・・・・」

「そ、それは・・・・・・どういう意味だ・・・・・・?」

「いちいち意味を言わなきゃわかんないのか! それが僕の状況に近い状態なんだよ!」

とうとう怒りを露わに吠えてしまったシンバ。

「オレンは・・・・・・オレンは・・・・・・死刑になったのか・・・・・・」

「知らないふりするなよ、ビーチルドなんてもの残して行ったんだ、あんな危険かもしれない生物創り出しておいて、重罪にならない訳ないだろう!」

「しかしビーチルドは水溶液に入れておけば危険性はない! それはどんな科学者でも直ぐにわかる筈だ!」

「だからなんなんだ? そんな事は関係ないんだよ、あんなものを創った責任をとらなきゃいけないんだよ! あんたが姿を消したという行動が、更にビーチルドを危険物として見るんだ。いや、あんたが姿を消したなんて言い方が間違ってる。あんたは逃げた、そう思われてるんだよ!」

一気に怒鳴りきった為、シンバの呼吸が乱れている。

「なんと言う事だ・・・・・・すまない・・・・・・すまないシンバ・・・・・・」

「大体、あんなものを創り出しておいて、今度は無に戻したいだと? ふざけるな! 母さんは、Solarの死体保管室にいる。研究材料にされるんだ」

「・・・・・・」

「生き返らせろよ」

「シンバ・・・・・・」

「生き返らせろよ!」

「すまない・・・・・・」

「謝罪なんていらないんだよ!! あんた偉い博士なんだろ!! 生き返らせろよ!!」

「すまない・・・・・・シンバ・・・・・・すまない・・・・・・本当にすまない・・・・・・」

「あんたが死ねば良かったんだ!!!!」

シンバがそう吠えた後、ルエーフは俯いたままで、ハァハァと呼吸の乱れたシンバの息だけが部屋の中、響いていた。

「・・・・・・わたしがこの10年近く、研究していた今日迄の結果は、オレンだ。下で会っただろう? あの娘はビーチルドとは違うが、ビーチルドを無にする為の研究材料に使おうと創り出したものだ」

——創り出したもの?

「そしてブラックホールというモノを作っている。それを試す為にオレンを創った。だが、わたしは妻とシンバを忘れられなくて、気がつけば、妻にもシンバにも似た娘を創りだしていた。オレンは感情がある。成長もしている。結局、モルモットのようには扱えなかった。ネズミなどで試すのはできないんだ、ネズミで試すと、この世の中のネズミ全てを消し去る事になりかねない。そんな事になったら生態系を崩す事になる。それ程、ブラックホールの出来は完璧ではない」

——何を言っているんだ?

「ブラックホールと名付けたのは、あのブラックホールからヒントを得た。ブラックホールとは非情に質量の大きい星が、その末期に死の大崩壊を起こした後、中心核が水の何億倍という高密度の中性子星の段階にとどまるだけでなく、自身の重力で更に潰れ続け、その想像を絶する強力な重力場の為に、光さえ、そこから逃げ出す事ができなくなり、ついには宇宙から姿を消してしまう。その論をヒントにわたしはブラックホールを創った。無にしたいもののデーターをブラックホールにメモリーさせる。そうすれば、そのモノだけを、この宇宙から消し去る事ができる」

——ブラックホール?

まだ長い説明が続きそうな時、バラバラバラと物凄い高音が外で響いた。ヘリコプターの音だ。空き地に着地したのが、この二階の窓から見下ろせる。

「・・・・・・どうやらお迎えが来たようだ」

「お迎え?」

「Solarのヘリだよ」

ルエーフがそう答えると、シンバは馬鹿なと急いで窓から覗き込み、ヘリコプターを確認する。確かにSolarのマークが入っている。

——どうしてここがわかったんだ?

「シンバ・・・・・・オレンの十字架のペンダントの真ん中にある黒い宝石、あれがブラックホールだ。あれにはオレンのデーターをメモリーさせてある。使い方は簡単だ。握り潰せばいい。そんなに柔らかなマテリアルではないが、故意に思いきり力を加えれば、人差し指と親指だけで簡単に潰れる仕組みになっている」

下でオレンの騒がしい声とホーキンズの唸り声がする。

「シンバ・・・・・・オレンが眠っている間にでも無に戻してやってくれ。あの娘は明るく振舞っているが、お前のようにいつも寂しい思いをさせていた。だから犬を飼ってやったんだ。親友になるような犬を——」

「・・・・・・」

「だが、オレンの存在は、この世界に無いものだ。オレンを証明するモノは何もない。犬だけでは、今後、現実問題として、オレンは生きて行けない。無に戻してやってくれ——」

「・・・・・・」

「シンバ、嫌な事を頼んで申し訳ない・・・・・・」

ルエーフは、そう言うと、頭を深く、深く下げたが、

「・・・・・・」

シンバは、無言のまま、立ち尽くしている。気が付けば、まわりには黒いスーツを着た男達が数人、銃を構え、立っている。

「銃を下ろしてくれないか。わたしは抵抗などはしない。だが条件がある。わたしがSolarに戻る変わりに、シンバを釈放してやってくれ。元々、この子には何の関係もない」

ルエーフがそう言うが、男達は銃を下ろさない。

するとルエーフは白衣のポケットから何か取り出した。男達は更に銃を向けるが、ルエーフは、それを自分の蟀谷にあてた。

「わたしの条件が通らぬのならば、わたしはここで死ぬ」

その言葉で、男の一人が小型の電話を胸ポケットから取り出し、誰かと話し出す。

男は今の状況を話し、電話の向こうの誰かに了解を得たらしく、男達は銃を下ろし、ルエーフだけを連れて行く。

「ちょっと待ってくれ」

ルエーフは、そう言うと、一歩二歩とシンバに近寄り、シンバの直ぐ目の前で、微笑みながら、さっき蟀谷にあてた何かをシンバに持たせた。

そして優しく微笑み、

「もう何も心配ない。ビーチルドの事はわたしに任せるんだ。今迄、辛い思いをさせ、本当にすまなかった。Solarに戻ったら、死体保管室にいるというオレンに、一番に逢いに行く。謝っても許してはくれないだろうが、例え、わたしはオレンが死体になっても愛しているから、謝り続けるつもりだ。お前もオレンもわたしを憎んでいても、わたしはお前達を愛しているから——」

そう言って、連行された。シンバの手の中に残る只の鉄屑と静粛——。

暫くすると、バラバラとヘリの飛ぶ音が響き渡った。

「馬鹿じゃねぇの! こんなので脅しに使えるとでも・・・・・・」

しっかり脅しになってたなと思い出し、シンバはその鉄屑を床にゴロンと投げ捨てた。

「馬鹿じゃねぇの! 今更、自由を手に入れたって、居場所がなかったら意味ねぇよ」

そう言った後、俯いたまま、シンバは『馬鹿じゃねぇの』と、囁き繰り返す。

——これで罪滅ぼしのつもりか?

——大体、死体に謝り続けても、謝罪は届かないだろ。

——全て遅すぎなんだよ。

「・・・・・・シンバ?」

その声にビクッとし、顔を上げると、オレンが立っている。

階段を登って来る音にさえ、気付かず、シンバは一人、溢れ出す感情と戦っていた。

「シンバなんでしょ?」

「・・・・・・何故、僕の名前を知ってる?」

「博士から毎日のようにシンバの事は聞いてたから。ボクには、ボクにそっくりなお兄ちゃんがいるって、博士、シンバの事、いつも楽しそうに話してくれた。自慢の息子だって言ってた。ホーキンズが、ボクとキミが似てるって言うから、もしかしたらシンバかなって気付いたんだ」

「ホーキンズって、さっきの犬だろ? 犬が似てるなんて言う訳ないだろ」

そう言いながら、シンバはオレンのペンダントに目をやる。

確かに十字架の中央に輝く黒い丸い石がある。

——あれがブラックホール?

その時、

「オレン、アルバムを見せてあげたらどう?」

階段を駆け登って来たホーキンズの方から、確かにそう声がした。

「・・・・・・他に誰かいるのか?」

「え? 誰もいないよ? みんな、博士を連れて行っちゃったじゃない。今はボクとホーキンズとシンバしかいないよ」

「でも今その犬の方から、声がしたような気がしたけど?」

「ホーキンズが言ったんだよ」

「はぁ・・・・・・こんな時に何の冗談だ?」

「冗談じゃないよ。オイラはオイラの思った事を人間の音声で伝えられる」

口は全く動いてないが、確かにそう言ったであろうホーキンズと、バッチリと目が合っているシンバ。

シンバの眉間に皺が寄る。

「ホーキンズの首輪はね、ホーキンズの体温や脈や喉を通る唾液で、ホーキンズの気持ちを人の言葉にしてくれるものなの。博士が造った発明品だよ」

オレンがそう言ってホーキンズが喋れる説明をしてくれたが、

「なんだそれ? バウリンガルボイスみたいなもんか? でも細かい感情までわかる訳ない。精々、嬉しいとか悲しいとか楽しいとか。どうやって思う事をそのまま人の言葉にしてるんだ?」

シンバには、疑問だらけである。

「知らない」

あっけらかんと即答するオレン。シンバは手で額を押さえ、やってられないとばかりに首を振る。この現実逃避のような現実に、思い悩む。

「余り深く考え込まなくていいよ、オイラの事は喋れる犬って簡単にそう思ってくれれば」

ホーキンズはそう言うが、それは、ますますシンバを悩ます発言となる。

——喋れる犬ってなんだよ。

シンバは深く溜め息を吐いた。

オレンが下に行ったと思ったら、直ぐにまた戻って来た。

アルバムを両手で抱えながら。

埃がかぶってないアルバムを目にすると、毎日、アルバムを開いていたのだろうかと思う。

「ねぇねぇ、これ! これシンバだよね?」

オレンは嬉しそうにアルバムを開いて、まだ幼いシンバを指差した。

「・・・・・・」

シンバは笑っている幼い自分を無表情で見る。

「ねぇねぇ、これはだぁれ?」

幼いシンバの隣には幼いハーゼが一緒に写っている。幼馴染の彼女とは一緒によく遊んだ。

「シンバ、この子が好きなんだよね?」

オレンがそう言っても、シンバからは何も返事がない。

「あー、黙っちゃって! ボクにはわかるんだから。だってボクはシンバだもの。博士がシンバを想いながらボクを創ってくれたからね! だからシンバの気持ちはよくわかるんだ。この写真の子を見ると、なんとなく嬉しい気分で一杯になる。だからシンバ、この子の事、好きなんだなぁて思うの」

——この子、自分が創られたと知っているのか・・・・・・。

「ねぇ、この人、知ってるでしょ? シンバのママだよね?」

オレンが指差した写真には、シンバの母親のオレンの元気な姿がある。今はもうないその姿は笑顔で幸せそう。シンバは目を伏せるだけでなく、背を向けた。

「あれ? シンバ? 背中に何かついてる」

オレンがそう言って、シンバの背中に張り付いている何かを取った。そしてそれをシンバに渡す。それは細い糸くずのようなゴミに見えるが、時々赤く点滅している。

——発信機?

——このせいで、Solarの連中にここの場所がバレた・・・・・・。

このジャケットに触れたのはコウだけだ。そしてその発信機をつけたのはコウだろうと思うシンバ。怒りの感情に似たものがシンバに込み上げて来る。そしてその発信機を握り潰した。ピリっと軽い電流がシンバの手の中に流れ、発信機は壊れた。

「シンバ? どうしたの? ソレなんだったの?」

「・・・・・・うるさいよ」

「え?」

「うるさいって言ってるんだよ! 一人になりたいんだ! 人間じゃなくても、それくらいわかるだろ! 感情持ってるなら!」

オレンに怒りをぶつけるシンバ。

「オレン、下に行こう」

と、ホーキンズがそう言うと、オレンは悲しそうにシンバを見つめ、アルバムを小さな机の上に置くと、ホーキンズと一緒に階段を下りて行った。

一人になったシンバは、余計に苛立ちが膨れ上がるのを感じていた。

降り始める雪——。

窓が寒さのせいで曇り出す。

暫く、ぼんやり過ごした後、アルバムをパラパラと捲り出す。

意味はないが、ハーゼに電話をしたくなった。

幼い頃、よく一緒に遊んでいたからという理由で、突然、懐かしさに駆られたのだ。

部屋を見回すが、電話は見あたらない。

足音を立てずに、階段を下りると、オレンとホーキンズの話し声が聞こえた。でも何を喋っているのか、よく聞き取れない。時々『シンバ』と、自分の名前を言われているのがわかった。

階段をまた上り、今度は態と足音を大きくし、下りていく。

そして、下の部屋に顔を出した。すると、オレンが、

「シンバ、夕飯何にする?」

と、笑顔で話し掛けて来た。シンバが何か答えようとした時だった、玄関でノック音が鳴ったのは——。

「出なくていいよ」

オレンはそう言うが、シンバは、

「僕が出る」

と、玄関に向かった。

ドアを開けると、ダンボールを持ったサンタクロースが立っていた。

「メリークリスマース」

白い付け髭を揺らし、そう言った。声と体格と目の辺りの雰囲気からして、中年の男性。

この時、シンバは、このエリアでのクリスマスを祝うイベントなのだろうと思っていた。

「メリークリスマス」

シンバがそう言うと、男の目尻の皺が優しく垂れる。

ライトグリーンの瞳も美しく、好印象に追加される。

男は、シンバにダンボールを差し出した。

「え? なんですか?」

そう聞いても、男はダンボールを差し出すばかり。シンバが受け取ると、男は手を上げ、振り続ける雪の中、立ち去った。

ダンボールは、そんなに大きくないものの、ズシッとした重さがある。

玄関を閉め、部屋に行くと、

「誰?」

と、オレンが聞いて来た。

「サンタクロース」

「え?」

「サンタクロースの格好した男の人だった。この辺の近くでクリスマスイベントの企画か何かの出し物じゃないか?」

「こんな人気のない場所まで来るの? そういうのは住宅街とかをまわるんじゃない?」

——確かに。

「なんかこれもらった」

シンバがそう言って、ダンボールをテーブルの上に置く。

「おいおいおい、オレンのイカれたファンとかが、変なもんくれたんじゃないか?」

ホーキンズが脅かすような事を言う。

「爆弾とか?」

オレンは笑いながら冗談のつもりか、有り得るような事を言い出す。

そして、ホーキンズもオレンもシンバをじっと見つめる。

「・・・・・・わかったよ、僕が開ければいいんだろ」

シンバは、ベリッとガムテープを雑にはがし、ダンボールを開けた。

ホーキンズとオレンは、避難のつもりか、少し遠くで、その様子を見ている。

シンバは、暗いダンボールの中を覗き込んだ。

そして、無言のまま、中をじっ覗き込んだまま——・・・・・・。

「シンバ? どうしたの? 中身はなぁに?」

「子供だ」

「え?」

「子供の死体だよ」

「え?」

オレンは言葉の意味を理解していない。

ダンボールの中で、足を曲げられ、小さくされた子供がいる。目は開いているようで開いてないようで、半開き状態だが、瞳がこちらを見ているように思う。

シンバは子供の死体と一緒にナイロン袋に入った肉片を見つける。子供の死体は肉が削ぎ取られている部分があり、恐らく、その肉がナイロン袋に入れられているのだろう。

そして、クリスマスカード。

『It was good.』(うまかったよ)

そう書かれている。

「どっちだ?」

「え?」

「お前宛か? ルエーフ博士宛か? どっちなんだ」

「ボ、ボク宛!?」

ダンボールの中身を見れずに、まだ遠くにいるオレンの声は、充分に震えている。

「おい、子供の顔を見ろ」

「え?」

「早くしろ! 知り合いかどうか確認するんだ!」

「い、嫌だよ、し、死んでるんでしょ? ボ、ボクは見たくない! 警察呼んで!」

「駄目だ!」

「ど、どうして?」

「お前、自分の事、なんて説明するんだ!」

「え?」

「ルエーフ博士が創った生物だなんて言ってみろ! お前がビーチルドのようになるんだぞ! ビーチルドのように、血液や肉、体中全て調べ上げられるんだぞ! 創られた生命体だとバレなくても、お前、身分証明できるものなんて持ってないだろ! お前はこの世に存在しない生き物なんだよ! それだけでお前は捕まる! 知名度や人気なんて関係ない!!」

オレンは歯をガチガチ震わせながら、シンバの怒鳴るセリフを聞いている。

「オレンはタレントだから、世間はいろいろと騒ぐだろうし、警察はヤバイかもね」

ホーキンズは落ち着いた口調。

「じゃあ、どうしたらいいの!? ボク、絶対やだよ! 死体なんて見たくない!」

「・・・・・・今、何時だ?」

「え? 3時13分」

オレンが壁にかかっている時計を見上げ、そう言った。

「電話を借りたい」

「どこへかけるの?」

オレンはそう聞きながら、電話の方を指差した。シンバは電話がある事を確認する。

「お前の事務所とかは、お前の事をどこまで知ってるんだ?」

「え?」

「タレントなら事務所と契約してるんだろ?」

「あ、えっと、最初はスカウトだったの。で、ボク、自分の事は何も話せないって言ったら、それはそれで売りになるし、事務所の人間も何も知らない方が口外されないだろうからって。ここを知ってるのは一応迎えに来てくれるマネージャーさんだけだし」

「要するに誰も何も知らないって訳か」

「うん」

「じゃあ、やっぱり警察は無理だな。いざとなったら事務所側はお前を切り捨てるだろう。何も知らないし、関係ないと。お前の身元を打ち明けず、うまく責任をとってくれそうにない」

シンバは言いながら、電話の所まで行き、今、受話器を取った。

「どこにかけるの?」

シンバはオレンの、不安そうに問い掛けてくるセリフに返事をしない。だが、

「もしもし、Dissecting Roomにいるシオン・ガーディアスをお願いします」

その言葉で、警察には電話をしていないとわかる。

「アポはとってませんが、シンバ・レインハルトからだと伝えて下さい」

暫くして、電話に出たらしい。

「シオンさん、見てもらいたいものがあるんだ。今から借家リストにチェック入れた場所に来てもらえないかな? え? ルエーフ博士はとっくにそっちへ連れて行かれたよ。黒いスーツの奴等にね。もう少ししたら、そっちもルエーフ博士の登場にパニックになるんじゃない? ルエーフ博士はどうでもいいんだよ! 今すぐにシオンさんに来て見てもらわなきゃいけないものがあるんだよ! 言えないよ、今は! 自分の目で見てよ! 仕事は他の人に任せて、急いで来て! 兎に角来て!」

数十分の説得。なんとか来てもらえる事になったらしい。シンバは電話を切る。

「誰? 誰が来るの?」

「解剖学の人。この死体を見てもらおう」

「見てもらってどうなるの?」

「どうなるって・・・・・・」

——どうなるのだろう?

シンとする静けさ。

コチコチと時計の音だけが響く。

まだ数分しか経っていないのに、もう何時間も経ってしまったように思える空間。

椅子に座っているシンバと暖炉の前のソファーに座っているオレン。そしてオレンの隣で大人しくお座りしているホーキンズ。

チラッとオレンを見ると、小刻みに震えているのがわかる。

——いつからだろう?

——死体を見ても、僕は何とも思わなくなった。

——それは何故?

——僕はいつから人としての思考がなくなったのだろう?

——どこで何を置き忘れて来たのだろう?

「仕事は?」

シンバの声が静けさに響き、オレンはビクッとする。そして、ゆっくりとシンバの方へ顔を向ける。

「休み」

一言、そう言ったオレンの声はとても小さくて、囁きに似ていた。

——オレンを無に戻したら、行方不明として騒動になる。

——だとしたら、この居場所だって、直ぐに調査される。

——そしたら、ダンボールに入った子供の死体は?

——勿論、見つかる。

——僕が犯人として捕まるかもしれない。

——オレンを無には戻せない!

「そうだ、テレビつけよう! 子供が行方不明になったとか臨時ニュースが流れてるかもしれない!」

シンバがそう言うと、オレンは、無気力そうに立ち上がり、テーブルの上にあったテレビのリモコンをシンバに手渡した。

シンとした部屋にブンと言う電源の立ち上がる音が鳴る。テレビ画面が映ると、シンバはチャンネルを変えながら、臨時ニュースなどを探すが、どこにも流れていない。

「この子の親・・・・・・探してるかな・・・・・・?」

「探してるだろ、今日はイヴだ。いなくなるなんて考えられないだろう」

「子供のこんな姿を見たら、どう思うかな?」

「こんな姿って、お前は見てないだろう」

「見てないけど、死体となった子供を見る親の気持ちって、どうなんだろうって思って」

——親が死体となる子の気持ちはわかる。

——その逆も、同じ気持ちだろうか?

「親になってみないとわからないね」

冷たい口調で言い放ったシンバに、オレンは俯いた。

「ボクが死んでも悲しむ人はいないよね」

「・・・・・・」

「誰もいない・・・・・・」

「なんだそれ・・・・・・めんどくさいな・・・・・・いるだろ、ファンとか!」

「・・・・・・そっか」

寂しげなオレンの声。

また静まり返る。テレビの画面の映像とと音が流れるだけの部屋。

CMでオレンを見る。オレンジジュースのCM、薬用リップクリームのCM、スキー場へのCM、自分のプロモーションビデオと新曲のCM。

——人気タレントだけあって、CMの数が凄いな。

——ルエーフ博士が行方を公表できない為、稼ぎはゼロだっただろう。

——タレントとしての彼女の値打はどれだけのものだったんだろう?

ぼんやりとテレビを見続ける事、数時間——。

玄関でノック音がした。

ビクっとするオレンに、

「多分、シオンさんだ。僕が出るよ」

と、シンバが、玄関へと向かった。シオンだとわかっていても、直ぐにドアを開けれず、

「・・・・・・誰ですか?」

と、慎重な声で、聞いてみる。

「シンバ? 俺だ」

その声は確かにシオン。シンバはホッとして、ドアを開けると、

「寒いな、おい。吹雪いてきやがった」

と、雪と一緒にシオンが入って来た。

部屋に通すと、オレンが立ち上がり、シオンにペコリと頭を下げ、シオンも不思議そうな顔で頭を下げる。

「どういうこった? この子、あれだろ? ほら、テレビによく出てる子だろ」

「うん、有名なタレントみたいだね。ルエーフ博士が創ったらしい」

「なんだと?」

「ビーチルドみたいなもんだよ、あ、いや、完全なそれとは違うかもだけど、まぁ、同じような似たような?」

「おいおい、そうなのか?」

「ルエーフ博士がそう言ってた」

「なんてこった。彼女も自分がそうだと知っているのか? テレビじゃあ、感情が普通にあるように思えたから、知っていたら辛いだろう?」

「それより見せたいものって彼女の事じゃないんだ、テーブルの上にあるダンボールの中身・・・・・・」

「うん?」

それ以上、何も言わないシンバに、シオンは、テーブルの所まで一歩二歩、近付いて行く。

オレンがゴクリと唾を呑み込んだ。今、シオンがダンボールの中を覗きこむ。

「・・・・・・どうしたんだ、これ」

「サンタクロースにもらったんだ」

「サンタクロース?」

「サンタの格好をした男が、この家に来たんだよ。それを持って。中身を知らなかったし、何かのイベントかと思って、受け取ったんだ。そしたら・・・・・・ニュースか何かやってないかなって思ったんだけど、子供が行方不明になった事件とかないみたいで。まだ夕方だから親も子供が外でまだ遊んでると思ってるのかもしれない」

「いや・・・・・・恐らくこいつはストリートチルドレンだな」

「ストリートチルドレン? ホームレスみたいなもんだよね? だとしたらこの子が消えても、誰も何も気付かないって事?」

「殺されて数時間しか経ってない。まだ腐敗が始まってないから皮膚に垢がある事がわかる。この垢のつき方は異常だ。ストリートチルドレンである可能性が高い。削ぎとられてる肉でなくなってるのは肝臓・・・・・・」

「そのナイロン袋に入ってる肉だと思う」

「・・・・・・それとアバラ骨の部分」

言いながら、ナイロン袋の中身を確認し、クリスマスカードも見るシオン。そして、

「アバラ部分はスペアリブとし喰ったのか・・・・・・?」

と呟く。ナイロン袋の中身は肝臓しかなかったのだろう。

「警察に届けれない。どうしたらいい?」

シンバがシオンに助けを求める。

「・・・・・・そのサンタの目的か心当たりは?」

「わからない。彼女の異常的なファンって感じでもないし、ルエーフ博士へのプレゼントだとしても、ここにルエーフ博士がいるってハッキリしたのは、僕がここに乗り込んでからだろ? まだ数時間前の事だ。Solarの連中にバレたのだって、僕のジャケットに発信機がついてたからで、そうじゃなかったら誰もわからないままだった筈!」

「死体をプレゼントするサンタクロースか・・・・・・」

シオンはそう言うと、ふぅっと溜め息を吐く。そして懐から小型電話を取り出し、

「・・・・・・ああ、俺だ。今日のミサだが、キャンセルだ。キティンと二人で過ごしてくれ。すまない、せっかくのイヴだが、仕事が終わりそうにない。ああ、ああ、わかっている。じゃあな」

そう言うと電話を切り、また懐にしまった。奥さんへの電話だと直ぐにわかる。

シオンはオレンをチラっと見て、またシンバを見る。そして、

「彼女は見たのか?」

そう聞いた。それは死体をって事だろう。

「見てない。見たくないって言うんだ。恐いって」

シオンは頷き、部屋を見回すと、ソファーの上にある膝掛けを手にとり、死体に被せるようにダンボールにかけた。

「おい、顔だけでいい、見ろ。知り合いかもしれんだろう」

オレンは顔だけならと思ったのか、ゆっくりダンボールに近付く。そして、子供の顔を見ると、直ぐに目を背け、

「知らない! 知らない子だよ! 大体、ボクは子供の知り合いなんていないよ。近所だって誰も住んでない場所にいるから、子供の姿を目にする事なんてないし!」

と、泣きそうな声で、そう言った。。シオンは、懐から今度は煙草を出し、咥えた。

「シンバ、肉の削ぎ方から見て、こいつは医者かもしれんし、何らかの学者かもしれん。知識がないとここまで綺麗に解体しないだろう。つまり頭脳的に優れてるって事だ。もしくは・・・・・・」

「もしくは?」

シオンは煙草に火をつけ、シンバを見る。

「精神病者。つまり人格障害者かもしれん。そういう奴等はIQが高いというからなぁ。学者などが利用する施設じゃなくても、それなりに事を成すと言う。ルエーフ博士もこの何もない只の家でSolarの施設並に研究はこなしてたんだろう? まずルエーフ博士にこの子供の顔を見せた方がいいだろう。知り合いなら犯人が割り出せる可能性がある」

「ルエーフ博士はSolarに連れて行かれた。今日は多分、ルエーフ博士の事でSolarもパニック状態だろうから、明日くらいには、ビーチルドが保管してある部屋にでも、いると思うんだ。明日、ルエーフ博士に僕が会って、話してみる」

「そうだなぁ、それがいい。カメラとかあるのか? それでこの子の死体を写しておいて、見せたらどうだ?」

「オレン、カメラとかある?」

オレンは、シオンとシンバが話してる会話など、耳に入っていない。体を震わせ、一人で恐怖と戦っている状態。精一杯の防御で、自分自身を抱くように、自分の振るえる肩を両手で持っている。

ホーキンズが二階に駆け上がり、下りて来た。カメラを咥えて。

それをシンバに渡し、

「他に何か必要ならオイラに言って?」

そう言った。

「お、おい、なんだ、この犬、喋りやがった!?」

シオンが驚いて、咥えていた煙草をポロッと落とした。驚くのも無理はない。

「喋る犬らしい。余り気にしない方がいいよ。気にすると頭がおかしくなる」

シンバがそう言いながら、ダンボールにかぶさっている膝掛けを取り、死体をカメラに何枚か収めた。

シオンは驚いた顔で、死体よりもホーキンズを珍しそうに見ている。

「明日、僕はSolarに行くけど、オレンは仕事か?」

オレンは首をブンブン横に振り、

「ボクも一緒にSolarに連れて行って!」

そう言った。

「そいつはやめた方がいい。あそこはマスコミの山だ。あんたみたいな有名人が来たら大変な事になる」

シオンがそう言うと、

「オレン、明日、仕事だろ? 仕事に行ってきなよ。シンバもSolarに行ってきなよ。オイラがお留守番してるから。その死体には見張りが必要だろ?」

ホーキンズがそう言って、シオンを見上げる。シオンにそうした方がいいでしょ?って意味だろう。シオンは喋る犬に、苦笑いしながら、

「そ、そうだな、それがいいだろう」

と、頷いた。

「シオンさん、ここまで何で来たの?」

「バイクだ」

「じゃあ、オレンを後ろに乗せてもらえる?」

「うん?」

「今夜、ここでオレンは眠れないと思うんだ。今だって、あんな状態だし」

ガチガチに体中に力を入れて、震えているオレン。

「だから、シオンさんの家に連れて行ってもらえないかな?」

「ああ、それはいいが」

「僕は一人で平気だから」

シンバがそう言うと、

「オイラもいる」

と、ホーキンズがそう言った。しかしシンバはホーキンズを無視する。

「明日、僕はここからSolarに向かう。オレンはマネージャーさんに連絡して、シオンさんの家の方に迎えに来てもらうようにしたら大丈夫だと思うから」

「ああ、わかった」

シオンが頷くと、ホーキンズは震えているオレンの傍に行き、

「オレン、今夜は一緒に寝れないね。でも離れてても、オイラはオレンと一緒だからね」

と、クゥ—ンと鼻を鳴らしながら言った。

気付けば、時計は7時をまわっていた。

外はもう暗い。雪はもう止んでいる。

シンバとホーキンズは、オレンとシオンを見送る。オレンは寒さとは違う震えに、まだ体を硬直させており、うまく手が使えていない為、渡されたメットが被れずにいる。そんなオレンに、シオンがメットをかぶせる。

「ありがとう」

その声も歯がガチガチと鳴る音に掻き消され、何を言ったかさえ、わからない。

オレンはバイクに跨り、シオンの腰に手を回した後、振り向いて、シンバを見ると、シンバは無言で手だけを上げ、それをヒラヒラと振った。

オレンもバイバイと手を振る。

ホーキンズが、

「バウッ!」

と、吠えるのが合図のように、バイクはエンジンがかかり、走り出した。

バイクの音が遠ざかると、シンとする。暫く、シンバもホーキンズも、バイクの影が見えなくなってからも、見送り続けていた。

「暖炉の火が消えそうだったね」

白い息を吐きながら、シンバはそう言うと、家の中に入り、暖炉に薪を投げ入れ始めた。

ホーキンズが、

「テレビでもつけようよ」

と、シンバの傍に、テレビのリモコンを持って来る。

オレンがいなくなって、音がなくなった部屋が寂しいのだろう。

パチッと電源を入れると、いきなりオレンのCM。ホーキンズがじっと見ている。

シンバは暖炉の火のゆらめきを目に映している。

シンバもホーキンズも、テーブルの上のダンボールには近寄らない。

ふいに、『あんたが死ねば良かったんだ!!!!』と、ルエーフに最後に吐いたセリフがそれだったなと思い出す。

意味もなく、ホーキンズと目が合う。

「お前、餌は?」

と、何かを悟られるのが嫌で、でも気になっていた事なので、ホーキンズに尋ねてみた。

「時間になったら、キッチンにあるカラクリが缶詰を開けて、オイラのお皿に肉を入れてくれる仕組みになってるんだ」

「へぇ」

シンバは頷きながら、キッチンに行く。

なるほどねぇと、『自動餌やり機』のようなものを見る。そして棚の上にあるインスタント食品を手に取り、シンバは鍋に火をかけ、水を温め始めた。

カウンターに並ぶ作りかけのシュークリーム。

——僕の好きな物。そして、あの彼女が好きな物。

——彼女は僕だから、好きな食べ物も同じなのか?

——彼女はどこまで僕であり、彼女自身なのだろうか?

水が沸騰する。

シンバはインスタントのスープパスタにお湯を入れる。

テレビから聴こえるクリスマスソング。

まさか今日がこんなイヴになるとは思いも寄らなかったと、シンバはテーブルの上のダンボールに目をやる。

0時になる10秒前、テレビの中で、タレント達によるカウントダウンが始まる。

シンバはチャンネルを回すが、どこの番組も似たようなもので、クリスマスを祝う儀式を行っている。それは生放送ではないが、オレンがいる番組にホーキンズがバウッと吠えた。だが、シンバはクリスマスを祝う楽しい気持ちになれず、テレビを消した。

シンと静まる中、シンバはどこからか毛布を引っ張り出して来て、ソファーで横になる。

ホーキンズもシンバが横になるのを見て、シンバの寝るソファーの下で、伏せの状態でうつ伏せた。

時々飛び跳ねる薪の火の粉の音とカチコチと聞こえる時計の音。

それ以外は何も聞こえない静かな夜だった——。



朝——。

シンバは眠れない夜を過ごしたせいか、少し目が充血している。

ホーキンズも欠伸ばかりしている。

「ルエーフ博士に会って、話がついたら、一度ここに戻って来るよ」

シンバがそう言うと、ホーキンズは、

「うん。オイラがお留守番してるから、ここは平気だよ」

そう言った。

ダンボールに入った死体はテーブルの上、そのままだが、何も触れないでいる。

「じゃあ、行って来るから。行ったら、シオンさんにも会うから、彼女の様子も聞いてくるよ」

「彼女ってオレンの事?」

「ああ」

オレンの事を、改めて考えると、なんて呼んでいいかわからないシンバ。

「オレンはここには帰って来ないの?」

「当分はシオンさんの所にいた方がいいかもしれない」

「そうなの? オイラはいつオレンに会えるの?」

「2、3日後かな」

シンバはそう言って、じゃあと言う風に手を上げ、玄関の外に出た。

「いってらっしゃい」

ホーキンズがそう言って、シンバの背を見送る。

外は雪が積もっていて、誰の足跡もなく、綺麗に真っ白である。

ジャケットのポケットに手を入れ、白い息を吐きながら、シンバは駅に向かう。

人通りのある道で、バス停を見つけ、時間と行き先の確認をする。



その頃、オレンはとっくにマネージャーの車の中だった。

「ねぇ、やっぱりリゲルへ戻って?」

「仕事に間に合わなくなるから寄り道はだぁめ!」

メガネをかけた黒髪に黒い瞳の優しそうな男性。オレンのマネージャーだ。

車の運転をするその男と、助手席に座っているオレン。

「お願い! ホーキンズの事が心配なの!」

「ホーキンズ?」

「犬だよ」

「犬?」

「ボクの犬。今日から一緒に仕事場に連れて行ってもいい?」

「犬をかい?」

「うん! 絶対大人しくさせる! っていうか、大人しいから!」

「うーん。でもオレンのお父さんやお母さんが飼ってるんじゃないの? オレンはこうして仕事が忙しいのに、犬まで家族の人から奪ったら、家族の人が寂しがらない?」

「言ったでしょ、ボクに家族なんていないの!」

「もういい加減、その秘密もやめようよ。オレンは歌もダンスもうまい。謎めいたキャッチフレーズがなくても充分に実力だけで売れる! そろそろオレンのプロフィールを公開しないか? 勿論、住所なんて明かさないよ。簡単な事だけでいいんだ。血液型、生年月日、家族構成とかね。それにオレンの両親にも、社長が会っておきたいって言ってたよ。お父さんやお母さんはオレンがテレビに映ってるのを見て、なんて言ってる?」

「・・・・・・もう歌わない」

「ええ!?」

マネージャーはびっくりして急ブレーキをかける。車が他に通っていない田舎道で良かった。オレンは前のめりになり、シートベルトに締め付けられ、少し咳き込む。

「ご、ごめん、大丈夫か? でもオレンが変な事言い出すから!」

オレンは不貞腐れた顔で俯いている。

「オレン、キミの歌声は世界に通じるものがあるんだよ。世界に出たいって言ってたじゃないか。世界中の人達と仲良くなりたいって。歌には国境を越える力があるって教えてあげただろう? 今やキミは世界中の人達の歌姫として、誰もが認めるものを手に入れようとしてる。それを諦めちゃっていいの?」

「ホーキンズも一緒にじゃ駄目なの?」

「・・・・・・ふぅ」

マネージャーは溜め息を吐き、小型電話を取り出して、どこかへかけ始めた。

「あ、もしもし、すいません、ちょっと渋滞に巻き込まれまして。本当に申し訳御座いません。はい、はい、はい、勿論です、はい。ええっとですね、午前中には間に合うとは思うんですが・・・・・・はい、はい、はい! どうも有難う御座います! はい、では失礼致します・・・・・・」

ブチッと電話を切って、オレンを睨んだと思ったら、ニッコリ笑い、

「寄り道はリゲル2番街? いつもの時計台裏で待ってればいい?」

そう言った。オレンの顔も笑顔になる。

「うん! 待っててくれたら、すぐにホーキンズ連れて来る!」

「じゃあ、しゅっぱーっつ!」

車はUターン。雪の上をシャカシャカとタイヤが回る。

車の中で、オレンはご機嫌に新曲を口ずさむ。その心地よい歌声にマネージャーも鼻歌。

やがて時計台裏へ着いて、オレンだけ、車を降りた。

「直ぐに戻って来るから待っててね!」

「うん」

マネージャーは頷いて、駆けて行くオレンの後姿を見送る。そして溜め息。

「どうか子犬でありますように」

どうやら犬が苦手のようだ。

そんなマネージャーの心配も関係なく、オレンは元気よく雪の上を駆けて行く。

工場跡地の所で、

「すいません」

いきなり呼び止められた。黒い服装の男性。

「・・・・・・はい」

途惑いながら、返事をすると、

「人を探してるのですが・・・・・・」

男は優しい笑顔でそう言って、オレンに近付いた。

「ここら辺に人は住んでないよ、住宅街の方へ行ったらいいかもしれない」

「そうですか、見ませんでしたか? 子供を」

「え?」

「ダンボールに詰め込まれた子供——」

オレンはそう言った男を目の前に、目を丸くし、逃げようとした瞬間、腕を捕まれ、口を白いハンカチのようなもので塞がれた。

するとオレンはコテンと力をなくし、気絶してしまった。

「・・・・・・見ませんでしたか?」

男は再びそう呟き、オレンを背負いながら歩いて行く。

雪が降り始める。



電車の中、シンバは降り落ちる雪を見ていた。

各駅でオレンのポスターなどを目にする。

そして電車を降りて、歩いてSolarへ向かう。

電車の中が温かかった為、外へ出ると身が凍る程に寒い。

ビルの上のモニターでオレンが歌っている。

シンバは白い息を吐きながら、それを見上げ、歩いて行く。

歩いて30分程。

Solarの正面入り口に、誰もいない事が気にかかった。

——マスコミ連中はどうしたんだろう?

チラチラと降り落ちる雪の音が聞こえるくらい、辺りは静粛を保っている。

——ルエーフ博士の事で、マスコミを追い払った?

——そんな事できる訳ないか。追い払ってもどこからか湧いた蝿のように集る奴等だ。

——他に凄い事件でもあったのか?

シンバはキョロキョロしながら、本当に誰もいない事を確認して、Solarに入った。

Solarの中はいつも通りの景色が広がっていた。

まず、ルエーフに会う為に、自分のデスクに向かった。シンバが今まで調査したビーチルドのデーターをルエーフがいじったかもしれないと考えたからである。

研究室では、いつものように皆、働いている。

ハーゼの姿もコウの姿も目にした。

白衣も着てないシンバに走り寄ってきたのはハーゼだった。

「シンバ、ルエーフ博士が戻って来たって噂が流れてるよ」

「・・・・・・へぇ」

コウはシンバに発信機を付けたのを気にしているのか、罪悪感で一杯なのか、目さえ合わそうとして来ない。シンバも気にせず、自分のデスクに来た時に、ドキンと心臓が強く鳴るような驚くものを目にする。

クリスマスカード。

それは子供の死体と一緒に入っていたものと同じカード。

恐る恐るシンバはカードに手を伸ばし、開いてみる。

「おい! シンバは来てるか!?」

研究室のドアを乱暴にバンッと開いて、現れたのはシオン。

皆が、シオンの大きな声に驚く。シオンはシンバを見つけると、シンバの傍にズカズカと来た。

「どうしたんですか?」

「昨日、0時過ぎのニュース見たか?」

「え? いや、見てませんけど・・・・・・」

「今もやってるだろう」

そう言うと、シオンはシンバをソファーの所迄、引っ張り、近くにあるテレビをつけた。

ニュースはリゲルの教会が昨夜、放火されたと——。

中ではミサに来ていた人達であろう1000人程の焼死体が発見されている。

教会は外側から鍵が閉められていた可能性があり、中で信者達を閉じ込め、誰かが放火した疑いや信者達による集団自殺とも考えられているようだ。

放火があった時間に近くの公園で聖歌を歌っていたシスター達数人の証言では、昨夜、牧師に送られたクリスマスカードには『私には、法や道徳への敬意などはない』と、メッセージが書かれていたと言う。宛先人はなく、只の嫌がらせだと思ったとか。

「シンバ、昨日、お前が俺を呼ばなければ、俺は妻と娘とで、ここの教会に行っていた」

「え・・・・・・」

「助かったんだよ、お前の御蔭でな。こうなったら、お前への協力は惜しまない。偶然とは言え、娘も妻も俺も死なずに済んだんだからな」

「・・・・・・シオンさん」

「うん?」

「死体は探すより、つくった方が手っ取り早いと聞いた事がありました。生を与える事は難しいのに、死は簡単に与えれる。一夜で1000人。いや、あの子供を合わせたら1001人。少なくとも1001人には死を与えた人がいるって事です。もしかしたら僕への挑戦でしょうか。僕が母の死体にどれだけ生を与えたいと願ったか、まるで知ってるかのように。犯人は神にでもなった気でしょうか。それとも何か目的があるんでしょうか」

「犯人?」

シンバは自分のデスクに置かれていたクリスマスカードをシオンに渡す。

『As you know, I have no respect for law or morality』(お分かりだと思うが、私には、法や道徳への敬意などない)

カードにはそう書かれている——。

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