183、千羽鶴 (第6回Twitter300字小説企画 お題:折る)

 ――どんな願いも、三十だけ叶えてやろう。

 5年3組の教室を見渡して、巨大な鶴はそう言った。

 重い病気で入院している優弥――クラスメイトのために千羽鶴を折り上げた途端、それは現れた。

 顔を見合わせる。それぞれが胸の内に叶えたい願いを持っていた。

 気まずい沈黙を破ったのは眼鏡のクラス委員長だった。

「クラスは三十人。一人一個願い事をしても、優弥の分は残るよ」

 それで意見はまとまった。不満顔の者もいたが、異論が出ることはなかった。

 やがてみなが願い事を叶え終えたところで、

「俺を億万長者にしてくれ!」

 あらぬ方向から声が飛んできた。

 一斉に振り返る。

 教室の入り口。血走った目のクラス担任が、口の端を大きく釣り上げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る