173、台本どおり (お題:台本)

 叔父がつまずいた。慌てて体勢を立て直した拍子に、畳みの上に数珠が転がる。近くに座っていた親戚の女の子が拾い上げて渡した。その間、お経はよどみなく続いている。

 一部始終を見つめていた私の背を、冷たい汗が流れる。すべてが台本の通りだった。

 祖父の葬式のため帰省した私に、母は小冊子を手渡した。

「これ、今日のお葬式の台本だから」

 葬式に台本? 意味が分からなかった。けれど。

 ちら、と隣の母を見る。その顔は人形のように無表情で、目の前の成り行きにまるで動揺する様子はなかった。

 台本の最後のページが脳裏をぐるぐる回る。そこに記されていたのは、死者の復活だった。

 おそるおそる目を戻す。台本通り、白木の棺がわずかに揺れた。

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