172、供養 (お題:線香)
ずっと不思議だった。
人が死んだ時に、どうして線香を立てるのか。
線香の匂いは嫌いではない。ざらついているのに、どこか気持ちを鎮めてくれる。死者を悼むための匂いだと母が言うのも納得だった。
でも、それならどうして。
ぽん、と肩を叩かれた。ぎくりとして見上げると、喪服姿の母と目が合った。どうやら私の順番が来たようだ。
係の人から線香を一本受け取る。火つけてもらい、私はおずおずと祖父の遺骸の前へかがんだ。
剥き出しにされた、祖父の腹。年齢の割には恰幅のいいそこには無数の線香が突き立てられている。立ち上る煙が私の動作に合わせてゆらゆらと揺れた。
手頃な隙間を探し、折れないように注意しながら私は線香を振り下ろした。
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