169、ピークの死 (お題:ピーク)

 ピークの真っただ中で、彼は死んだ。心臓麻痺だった。

 この世で彼に得られないものはなく、不可能なことなど彼には存在しないように思われた。けれど、そんな彼も自らの死は乗り越えられなかったのだ。

 彼の死について、親しい者の間で意見が二分した。

 人生のピークに死ねたのだから幸せだ、という者がいる一方、せっかくのピークに死んだのだから不幸だ、とまぜっかえす者がいた。

 どうにも論争は収まらず、最終的に高名な霊媒師に降霊してもらうことになった。

 暗い部屋の中、やがて降りてきた彼の霊に参加者たちは我先にと質問をぶつけた。

「つまらないことで呼ぶな」

 彼は苛立たしげに叫んだ。

「俺は今、こっちでピークを迎えていて忙しいんだよ」

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