166、ゆきおんな (お題:ハグ)

 腕の中で命は凍りついていった。

 雪女が触れたものは、みな凍ってしまうから。

 氷漬けと男の顔を、彼女はそっと覗き込んだ。

 若い男だった。元服したばかりだろう。その身体を引きずり、山小屋の粗末な扉を開ける。途端に激しく雪が吹き込んできた。

 一寸先も見通せない、一面白の世界。けれど、彼女がそれを苦にすることはない。雪の上を散歩するような足取りで辿り、やがて着いたのは小さな洞穴だった。

 奥では、大勢の人間が待っていた。

 老若男女問わず、彼女がこれまで山で出会った人間たち。それらが、凍り付いた瞳で彼女を見つめている。

 口の端にわずかな笑みが浮かんだのは一瞬。新しい仲間を並べると、彼女は振り返りもせずその場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る