165、夏の記憶 (お題:花火)

 夜空に色がはじけた。

 ふわり滞空する極彩色の火花。下を流れる川にも鏡映しに広がる。遅れて届く爆発音。夏の匂い。

 幼い私はその光景に圧倒されていた。それは恐怖に近いものだったかもしれない。お姉さんの手をぎゅっと握る。柔らかなその手は、ちょっと汗ばんでいた。

 今も鮮明な、ひと夏の思い出。けれど。

 私の育った村に川はない。山間の盆地で、花火を打ち上げられるような場所もない。そして、高校まで私が村を離れることはなかった。

 では、この記憶は一体? 鮮やかに脈打つ、この記憶は。

 鼓膜を震わせる爆発音に、私は現実に戻った。

 夜空にまたたく花火。隣を見ると、彼女の笑顔とぶつかった。

 なぜだか心細くなり、その手をぎゅっと握った。

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