139、受け継ぐ (お題:お手本)

 祖父は私のお手本だった。

 自分に厳しく人には優しく。幼い私には特に目をかけてくれた。

 けれど自身に向ける厳しさが仇になったのだろう、還暦目前にして彼は自殺した。首吊りだった。

 その一部始終を、私は目撃した。祖父のもがき苦しむ姿を、凍り付いたように見上げることしかできなかった。

 そして、現在。

 縄を引っ張り、強度を確かめる。これなら成人男性ひとりを支えるのに問題ないだろう。

 小さく苦笑する。

 ――最後まで祖父をお手本にしてしまったな。

「みんな、すまない」

 私は勢いよく椅子を蹴った。喉が締まる。苦痛に涙が溢れたが、覚悟の上だ。

 と、突然、恐怖に全身が強張った。

 いつからいたのか、まだ幼い息子が呆然と私を見上げていた。

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