136、サプライズ (お題:不意打ち)

「わ、大きい」

 テーブル中央に盛られた肉塊に、私は歓声を上げた。

 彼が皿に切り分ける。早速ナイフを入れると、カチリと金属音がした。

 指輪だった。付き合って三年。まさのサプライズ――

「ありがとう」

 感無量で彼を見ると、彼は指輪を見つめて呆然としていた。

「ここにあったのですね」

 気がつくと、シェフがテーブルの傍に立っていた。

「申し訳ございません。それは妻の指輪です。外しておいたつもりだったのですが」

 指輪を受け取り、彼は慇懃にお辞儀をした。 

「お食事代は結構です。どうか、このことはご内密に」

 シェフが去った後、二人同時に視線を落とした。

 ――外しておいたつもりだったのですが。

 肉塊からは、何も答えは返ってこなかった。

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