134、箪笥泳 (お題:家具)

 子どもの頃、よく家具に飛び込んでいた。

 一等飛び込んだのは、たんすだ。桐やら布やらの匂いに包まれ、詰め込まれた上着やシャツの間をばたばた泳ぐ。水と違って溺れる心配はないけれど、時に息継ぎがつらくなることもあった。

 たんすの奥は父の机の引き出し二段目に繋がっていて、三段目に飛び込むと今度は仏壇に出る。一度叱られて以来、そこに飛び込むことはなくなったが。それも、今となっては楽しい思い出だ。

 私はもう、家具に飛び込むことはない。身体が大きくなったのもあるし、一人暮らしを始めて大きな家具を持たなくなったというのもあるだろう。

 けれど。

 たまに実家へ戻った時、ふと飛び込でしまおうかという衝動に駆られることがある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る