122、断末魔 (お題:火遊び)

 その家は盛大に燃えていた。

 放火だった。近頃、この付近で被害が相次いでいる。

 夜空を焼き尽さんばかりに赤々と巻き上がる炎。けたたましいサイレンの音。野次馬たちの怒号。さながら地獄のような光景だった。

 と、喧騒を切り裂いて、鋭い叫び声のようなものが響き渡った。

 どうやら目の前の家から聞こえたようだ。かといって、逃げ遅れた者の叫びとは思えなかった。人の声というにはそれはどこか奇妙な、あえて言えば老婆と猿の悲鳴を混ぜこぜにしたような声だった。

 その日以降、放火はぴたりとやんだ。放火魔が捕まったという話は聞かない。あの奇妙な叫びが関係しているのかも定かではない。ただ、その声はいまだ鮮明に私の耳に焼き付いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る