120、狼煙 (お題:煙)

 ふと見ると、同級生の彼女の肩口から煙が上っていた。

 慌てて指摘したが、怪訝な顔をされるばかり。どうやら本人には見えないらしい。

 以降、私は煙をたびたび目撃することになる。大抵、彼女と二人きりになった時だった。

 ある日、夜空にたなびく煙が見えた。彼女の身に何か起きたと直感し、現場へ駆けつける。

 彼女は暴漢に襲われていた。すぐに警察を呼び、事なきを得た。

 それがきっかけで交際が始まった。同時に、二人でいる時に煙は現れなくなった。

 おそらく、あれはSOSを知らせる無意識の狼煙のろしだったのだろう。それが私と二人きりの時にも上っていたのは――深く考えないことにしよう。それがなければ、二人付き合うことはなかったのだから。

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