117、背の高い彼 (お題:身長)

 彼は僕より背が高い。

 いや、彼の身長はごく普通、つまり僕が低いだけなのだけど。それだけで、彼といると何だか子ども扱いされている気になる。

 殊に台所の吊り戸棚。背伸びすれば届くのに、彼は横からさっとお目当てのものを下ろしてくれる。助かるけど、ちょっと悔しい。

「で、買っちゃいました」

 小さな踏み台を誇らしげに披露する。

「危なくない?」

 心配する彼をよそに、僕は颯爽と踏み台に乗り――盛大にバランスを崩した。とっさに伸びた彼の手に支えられる。

「だから言ったろ?」

 そう言って笑う彼。むう。

 彼の腕の中で僕は誓った。いつか天井の低いアパートに引っ越してやる。梁に頭をぶつける彼を想像すると、ちょっとだけ溜飲が下がった。

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