113、透明なかたつむり (お題:梅雨)

 公園を散策していると、葉の上に目が留まった。

 かたつむりだった。

 形も大きさも通常のものと変わりない。けれど、その全身は水滴のように透き通っている。濡れた緑を進む、透明なかたつむり。絵本から飛び出てきたような光景に、私は思わず見とれた。

 けれどそのうち、違和感が頭をもたげてきた。

 かたつむりの下の葉が、わずかも揺れないのだ。まるで上に何も乗っていないかのように。

 首を傾げていると、かたつむりは空気の中に溶けるように消えてしまった。

 呆然としつつ、ふと思った。あれは、成仏し損ねたかたつむりの霊だったのではないだろうか。

 でも、そうだったとして。

 成仏せずにこの世に留まったのは、一体どんな未練からだったのだろう?

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