110、啓発セミナー (お題:承認欲求)

「私たちの最大の願望は何でしょう?」

 講師のミチバさんは会場を見回した。

「自分の存在を認めてもらうことです」

 あちこちで同意のため息が漏れる。僕も右に同じだった。

「そのためにはどうすればいいでのしょう?」

 彼はあっさり言い切った。

「嫌がらせをしましょう」

 会場がざわつく。

「騒音を立てたり、相手の持ち物を壊したり――投げつけてもいいですね」

 そして、彼は一際大きな声を張り上げた。

「みなさんはいい人すぎるんです。それをやめないと、相手にしてもらえませんよ」

 一瞬静まった場は、やがて万雷の拍手に包まれた。

 ――さすが、だな。

 幽霊として大先輩であるミチバさん。彼の経験が詰まったセミナーは、こうして成功裏に終わった。

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