109、雑音キャンセラー(お題:雑音)

「雑音キャンセラー?」

 聞き返すと、彼が頷いた。自分の周りの音を打ち消してくれる代物らしい。

「どこで買える?」

 私は思わず身を乗り出した。資格試験真っただ中の私には耳寄りな情報だ。

「発売はされてない。モニターから自殺者が続出したんだ」

 ぎょっと彼を見たが、冗談を言っている顔ではなかった。

「音が消えて寂しくなった、とか?」

「近い、かな」

 衣擦れ、ページをめくる音、ペンを走らせる音。あらゆる行動には必ず音がつきまとう。キャンセラーはそれらすべてを打ち消していった。

「それだけならよかったんだけどね」

 筋肉のきしみ、呼吸音、そして―心臓の鼓動までも。

「使っているうちに、生きている実感がなくなってしまったんだよ」

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