107、踏切 (お題:ポニーテール)

 そのひとはポニーテールだった。

 通勤途中の踏切。そこにいつも彼女の後姿があった。

 勇気がなくて顔は見ていない。けれどそれで十分だった、のだが。

 ある日を境に彼女の姿が消えた。その辺りに踏切は一つだけなので、道を変えたとも考えられない。時間を変えてみたが、無駄だった。

 探偵をしている友人に相談すると、彼女は顔をしかめた。

「その人のこと、知ってる」

 色めき立つ私をよそに、彼女の表情は曇ったままだ。

「うちに相談に来たの。踏切でじろじろ見てくる男がいて怖いって」

 頭を抱えた。天国から地獄――もうあのひとに顔向けできない。

「でもあの人、どうやって踏切渡ってるんだ?」

 彼女がため息をつく。

「単純な話。髪を下ろしただけ」

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