105、ある台所の風景 (お題:手首)

「見てよ」

 私は手を差し出した。  

「あら、かわいらしい手」

 夕食の支度をしながら、母が笑う。

「違うの、また手首が太くなったの。超不幸」

「美味しいものが食べれるって幸せじゃない?」

 じゃがいもを剥く手を止めもしない母。たしかに母の料理は絶品だ。だからついつい食べ過ぎてしまう。苦い顔で私は本題をぶつけた。

「炭水化物を抜くとやせるんだって」

「それこそ、超不幸でしょ」

 即答すると、母は用事を思い出したのか台所を出て行った。

 ひとり残された私はため息をついた。まな板には、剥きたてのじゃがいも。

 と、脇に置かれたピーラーが目に入った。

 もう一度、じゃがいもを見る。皮を剥かれて、スリムになった。

 私は、ピーラーを手に取った。

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